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第二五話

「だ、だけど、この人達にだって野盗になった理由があるんでしょう? ラグシアだってそれがわかっているから」

「……その仕置きをするために話を聞くと言っているんだ。話さないのならば、言い分などないと言う事だろう。田畑を耕し、狩りをするよりは行商人と言った旅人から荷を奪う方が楽だと判断したんだろう」


 リズは反論しようとするが、ラグシアは聞く気はないようで冷たく言い放つ。

 ラグシアの冷たい言葉に捉えられた者達は反論の声を上げ始めた。

 それは田畑に病気が広がった事への不安であったり、村から税を取り立てている者への不満であったりと様々である。


「……まるで、自分達は悪くないとでも言いたげだな」

「ゼノン殿、落ち着いてください。少々、興味深い話もありましたので」


 貴族や王族に対する不満も上がっている事でゼノンはたかが平民のくせに生意気だと言いたいのか、大きな声を上げていた者の胸ぐらをつかむがすでに自分達の命など諦め始めたのか言いたい事は全て言おうと覚悟したようで罵声が止まる事はない。

 罵声が止まらない事にゼノンは苛立ちを隠せないようで拳を振り下ろそうとするが、ラグシアが彼の行動をいさめる。

 苛立ちの治まらないゼノンはラグシアを睨み付けるが彼の表情は何か思うところがあるのか小さく緩んでおり、もう少し様子をうかがう必要があると判断したゼノンはつかんでいた手を放す。


「……何を企んでいる?」

「企むなど、人聞きが悪い。この者達の話を聞けば、田畑に病気が蔓延している事を知っている者がいたはずです。この地を領地として税を集めている方なら、当然ですね」

「……それを王に報告していなかった者がいると言う事か?」


 不機嫌そうな表情でゼノンはラグシアに意見を求めると彼は口元を緩ませたまま、この村の者達は実行犯ではあるが黒幕は他にいるのではと臭わせる。

 ラグシアの推測が正しければこの地を管理している者達はこの状況を知っており、裏で手を引いている可能性は高い。

 それに気が付いたゼノンの口元は小さく緩む。

 その表情からは国の足を引っ張っている者への粛清と言う名の大義名分を手に入れた事で何か考え付いたようである。


「民の事など何とも思っていなかったなら、野盗討伐に兵を派遣されると聞いて相当、焦っているでしょうね」

「……なかなか、物が見えるようだな」

「お褒めに預かり光栄です」


 今回の兵士派遣で野盗が現れた原因が自分にあると考えた者達は野盗を物言わぬ屍にしなければいかず、この村の者達の守るには意味があると示している。

 捕まえた野盗達に手を上げない理由に納得がいったゼノンはラグシアの先見の良さに関心を持ったようであり、ラグシアはわざとらしく頭を下げた後、村長へと視線を戻す。


「……私は王から状況を正しく聞き取り、報告するように命令を受けています。正しい報告をするには正しい情報が必要です。その上で下される処罰の軽減くらいには微弱ながら力になれるかも知れません」


 ラグシアは深々と頭を下げて協力をして欲しいと言うと村長は一度、顔を伏せた後、ぽつぽつと話し始める。


「……」

「ラグシア、ラグシア」


 村長が話し終えた情報を聞き、ラグシアは目を閉じた。

 状況を整理しているように見えるがリズは兵と村民の治療を終えてヒマなようで彼の服を引っ張る。

 

「少し黙っていろ。そろそろ、来るはずだ」

「来る? 誰が?」

「……この女を黙らせろ。だいたい、この女はただの下女だろう。口を出させるな」


 ラグシアは目を開く事無く、彼女に黙っているように言うが彼の言葉に新たな疑問を持ったリズは詳しい話を教えて欲しいと駄々をこねだす。

 彼女の様子にゼノン達は顔をしかめるが、言っても無駄だと言うのも理解してきたようでラグシアに丸投げしようとしている。


「申し訳ありません」

「……下女って、せめて、可愛いメイドさんって言いなさいよ」

「頼むから、黙っていてくれ。ゼノン殿、少し、村の周囲への警戒をお願いできますか?」


 ゼノンを筆頭に向けられる呆れや怒りの視線にラグシアは頭を下げるがリズは扱いに不満のようで頬を膨らませている。

 彼女の様子にラグシアの額には青筋が浮かび上がっているが、まだ、時間がかかるようで村の警護を願った。

 ラグシアの提案にゼノンは眉間にしわを寄せるがこの村が襲われる可能性が高い事は彼にも理解でき、そばに控えていた者達に指示を出すがすぐに指示を止めてしまう。


「……待て。この人数で警護ができると思っているのか?」

「眠ったままの兵士を起こし、状況を説明した後、この者達と組ませて見張りに当たらせれば良いでしょう」

「バカな事を言うな……本気で言っているのか?」


 現状で村の警戒に動かせる人員は少なく、ゼノンは無茶を言うなと言うが、ラグシアは先ほどまで自分達に武器を向けていた者達も使うように提案した。

 その提案は聞き入れる事はできず、ゼノンは眉間に深いしわを寄せるがラグシアは本気のようで表情を崩す事はなく、彼の自信あり気な表情にゼノンは眉間にしわを寄せたまま、確認する。


「私が考える限り、この場にいる兵士達には黒幕の手の者はおりません」

「……そう思いたいな」

「現状で言えば、黒幕は私達だけではなく、この村の者達も邪魔なんです。そうなると手っ取り早く邪魔な人間を消す方法は容易に想像がつくでしょう」

「村ごと燃やしてしまえば良いか?」


 ラグシアは村の者達にも協力して貰う必要があると言い、ゼノンは証拠隠滅のために村を燃やされる可能性に舌打ちをする。

 彼の言葉に村長を含めた村人達の顔からは血の気が引いて行く。


「村人がともに動いてくれれば村の出身でない者が紛れ込んでいればわかるでしょうし、怪しい行動をするようならばその場で切り捨ててしまっても構わない。ですよね?」

「そうだな。一度ならず、二度までも我らに武器を向けるなら、私がこの手で葬り去ってやる」

「裏切らないように一先ずは人質を出して貰いましょうか?」


 村人と組ませる利点を上げるラグシアにゼノンは納得できる事もあったようで兵達に縄を解くように指示を出す。

 解放された村人達はどうするべきか迷っているようで戸惑っているが、主導権は自分達にあると言いたいようで村人達を睨み付けるとラグシアは裏切りを防止するための提案をする。

 その提案に村人達は絶対に裏切らないと声を上げ、ラグシアは口元を緩ませた。


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