第二四話
「……書庫と同じ魔法か」
「何か言いましたか?」
部屋を襲った者達は全員縄で縛り付けられ、床に転がっている。
その様子にゼノンは心当たりがあるようで小さく舌打ちをする。
それはラグシアが書庫に入り浸っている間に彼を狙った者達への仕置きを知っているものの発言であり、彼の手の者が混じっていたようにも聞こえるがラグシアはとぼけた様子で聞く。
ゼノンは特に何もないと首を横に振ると床に転がっている襲撃者の一人に向かい、剣先を向けた。
「ちょっと、何をするつもり!?」
「……素直に話をするとは思えないからな。見せしめに一人ぐらい殺してしまった方が良い」
「確かにそう言う考えもありますね」
リズはゼノンが何をするか察しがついたようで大声を上げるとゼノンは口元を小さく緩ませて剣を上段に構える。
その様子にリズはラグシアに止めさせようとしたようで彼の服を引っ張るがラグシアは良い考えだと言いたいのか小さく頷いた。
それを賛成の意味だと捉えたゼノンは襲撃者の一人に向かって剣を振り下ろすが、剣は襲撃者の身体を傷つける事無く、弾き返されてしまう。
「……貴様、何のつもりだ?」
「ゼノン殿の言いたい事もわかります。ただ、それは今ではありません。ここは落ち着きましたがまだ終わっていませんので」
剣を弾き返したのが魔法だと理解したゼノンはすぐに彼を睨みつける。
ラグシアは別に急ぐ必要などないと言いたいのか、部屋の外を指差す。
この場はラグシアの魔法で収集したが、他の部屋ではまだ味方が襲撃者に襲われており、その事を思いだしたゼノンは一気に廊下へと駆け出して行く。
部屋に閉じ込められて防戦一方だった兵達は襲撃者の後方からゼノンが駆け付けた事で挟み撃ちと言う状況が出来上がり、ゆっくりと追いついてきたラグシアの降伏勧告に襲撃者達は両手を上げて降参の意思を見せた。
「……被害状況は?」
「けが人はいますが、命を落とした者はおりません」
襲撃者達が降参した事で兵達は襲撃者達を縛り上げて大部屋に転がす。
ゼノンはすぐに連れてきていた自分の部下から状況を確認するとすぐに状況が伝えられる。
野盗に身を落としていたとは言え、元々は村民であり、訓練をしている兵士達と対等に渡り合える者はおらず、被害はあまり大きくない。
むしろ、襲撃をしてきた者達の身体には多くの切り傷が付けられており、中には大きな傷を受けた者もいるようでこのままでは失血死してしまうのは予想ができ、仲間の手当を望む声が聞こえる。
しかし、自分達を狙った者達にかける情けなどないと言いたいのか兵士達はその声を無視している。
「ラグシア、傷の手当をしても良いよね? このままだと」
「……好きにしろ。ただし、傷が深い者は私が見る」
「う、うん」
リズは耐え切れなくなったようでラグシアの服を引っ張ると彼は元々、この者達を殺す気はないようで傷の深い者に歩み寄る。
その様子にリズは嬉しそうに笑うと部屋に置いてある荷物を取りに駆け出して行く。
「……貴様は何をするつもりだ?」
「この者達はこの国の民でしょう。それを見捨てるのも少々、心苦しいと思っただけです」
「好きにしろ」
傷の深い者に歩み寄ったラグシアは目を閉じ、その傷口に手を当てると魔法の詠唱を始める。
彼の手は淡い光を放つとその光は傷を塞ぎ始め、その様子に驚きの声と治療などする必要などないと言う嫌味が聞こえた。
ラグシアは嫌味など素知らぬふりをして治療を続け、その様子に兵士達からは文句が飛び交うがゼノンはラグシアが何かを企んでいると判断したようで彼の好きにさせると捕縛した村長へと威圧するように鋭い視線を向ける。
ゼノンに睨みつけられて怯えてしまったのか、村長は身を縮ませて震えている。
「そこ、そんな風に詰め寄ったら、話したい事も話せなくなるでしょ!! それより、まずは治療、高圧的な態度をとってないで手伝いなさいよ!!」
「……黙っていろ」
その時、荷物を持ってきたリズがゼノンと村長の姿を見て声を上げた。
彼女の言葉を聞く理由はないと言いたいのか、ゼノンはゆっくりと剣を抜く。
襲撃者達は止めようと声を上げるが、ゼノンは話を聞く気などさらさらないようで剣を村長に向かって振り下ろす。
「……おい。この魔法は何なんだ?」
「話を聞かないといけませんので、せめて、それが終わるまで待っていていただけませんか? 私がガーランド王に指示を受けたのは野盗騒ぎの原因究明と対策ですので私の仕事が滞ってしまいます」
村長の身体に向かって振り下ろされた剣は再び、弾き返されてしまう。
ゼノンはまたも自分の邪魔をしたラグシアを睨み付けるが、ラグシアは深手の傷を受けた者達の治療を終えたようでゆっくりと立ち上がり、ゼノンと村長の前に移動する。
「野盗を行っていたのはここにいる者達だけでしょうか?」
「……」
「真実を話さなければ村の人間すべてを皆殺しにします。どうせ、滅びゆく村ですから、それが早くなるだけでしょう」
捕らえられた者達以外に野盗として活動している者が他にいないかと聞くラグシア。
村長は黙ってしまうがその沈黙は肯定の意味にも取れ、ラグシアは小さく口元を緩ませると知っている事を話さなければすべての村民を野盗の嫌疑をかけて殺すと言う。
ラグシアの話の進め方にリズは声を上げようとするが、ゼノンは話を折られても困ると考えて近くにいた兵士に視線で指示を出す。
兵士達も感情のまま、食ってかかってくる彼女にはあまり良い感情を持っていないようですぐに口を塞ぐ。
「静かにしていろ。話が進まない。だいたい、状況がわかっているのか? 私達はこの者達に襲われたんだ」
「でも、無事だったわけでしょ」
「……私達は無事だったな。だが、他に野盗に襲われて殺された者や売られた者もいるだろう」
兵士に押さえられても納得ができないリズは暴れ始め、ゼノンはラグシアに静かにさせろと言いたいようで舌打ちをする。
ラグシアもリズに騒がれては話が進まない事は理解しており、眉間にしわを寄せて黙るように言うが彼女は誰も死んでいないから処罰される事ではないと言う。
しかし、野盗討伐の指示が出たと言う事はこれまでに多くの被害が出た事を示しており、今回、見逃しても何の解決にもなっていない。