第二三話
「ラグシア、一緒に寝る?」
「バカな事を言うな……それに私はまだやる事がある」
「そうなの?」
「……邪魔をするな」
村長から夕食を振舞われたラグシア達は用意された部屋へと戻った。
後は眠るだけと言う状況にリズは先にベッドに入り、ラグシアを誘惑するが彼は大きく肩を落とすとこれから何かやるつもりのようで窓に黒い布をかけ、光が外に漏れないようにしている。
リズは彼の反応に不満げだが、ラグシアは準備ができたようで部屋の中心に立つと目をつぶった。
何をするのか気になったリズはベッドから這い出ると彼の顔を覗き込もうとするが、目を閉じたままでも彼女の行動がわかるラグシアは止まるように言う。
「何するか教えてくれても良いじゃない」
「黙っていろ」
リズは頬を膨らませるがラグシアは目を見開く事無く、ぼそぼそと何かをつぶやき始める。
そのつぶやきに応じるように彼の足元には光が浮かび上がった。
浮かび上がった光は魔法陣を描き、彼の身体を包み込むように光の柱が出来上がる。
天井まで光の柱が伸び切ると光の柱は部屋全体に広がって行き、光の柱の眩しさにリズは目を閉じてしまう。
「……もう良いぞ」
「何をしたの?」
しばらく時間が経つとラグシアは目を開いても良いと言い、その声にリズはゆっくりと目を開く。
すでに光の柱は消えており、ラグシアが何をしていたか気になったようで首を捻る。
「……気にするな。何をするわけでもないんだ」
「そう言われると気になるんだけど。一緒に寝ないの?」
「寝ない」
ラグシアは関係ないと言いたいのか、窓にかけていた黒い布を回収するとイスに腰を下ろして目をつぶった。
納得がいかないリズだが、ラグシアが魔法を使っていた事は理解できているため、魔法について追及はしない。
リズはそばにあったランプの灯を消すと再び、ラグシアをベッドに誘うが即座に否定されてしまい、しぶしぶ、ベッドの中に戻る。
「ラグシア、もし、この村の人のほとんどが野盗を働いていたら、みんな、処罰されちゃうのかな?」
「……静かにしていろ。私達が寝るのをなっているんだからな」
「でも……」
ベッドに潜ったリズは野盗に落ちた者達への仕置きが気になるようで不安そうな声で聞く。
その質問にラグシアは興味などないと言いたいのか、静かにするように言う。
リズは不満げではあるが、彼の邪魔をするわけにもいかない事も理解しているようで言葉を詰まらせると頭まで布団の中に潜ってしまう。
「ねえ。ラグシア……眠れないんだけど」
「……黙っていろ」
「少しくらい、教えてくれたって良いじゃない。な、何?」
布団の中に潜ってしばらく時間が経ったがリズは眠気が来ない事に首を捻った。
馬車を使えていたとは言え、移動で身体は疲れているようだが妙に頭が覚醒しているようであり、原因をラグシアに飲まされた薬だと思っているようである。
彼女の考えは正しいようでラグシアも起きており、声量は落としているがはっきりとした声で返事をする。
彼が何かを考えている事はわかるのだが、作戦を聞かせられない事にリズは不満げにつぶやいた時、外から大きな音が響く。
音に驚き、リズは布団から飛び出ると部屋に入って来ようとしている者がいるようでガチャガチャとドアノブを動かす音がする。
しかし、いくらドアノブを捻ってもドアは開かず、外にいる者は苛立ってきたようでドアを蹴破ろうと方向転換をしたのか、ドアを激しく打ちつける音が響く。
「ラ、ラグシア」
「……安心しろ。対策はすでに取ってある」
部屋の中に響く音にリズは不安そうにラグシアの名を呼ぶ。
ラグシアが立ち上がると先ほどまで光を失っていた魔法陣が床から浮かび上がった。
その時、ドアは打ち破られ、武器を構えた者達が入ってくる。
「……なぜ、起きている?」
「自己紹介が遅れました。ガーランド王から野盗討伐の指示を受けました。ラグシア=シーリングです。できれば矛を収めていただけるとありがたいのですが」
部屋の中央に浮かび上がる魔法陣と起きているラグシアとリズの姿に部屋に乱入してきた者達は舌打ちをする。
その様子にラグシアは口元を緩ませるとわざとらしいくらいに大袈裟に頭を下げて、自分達が王の命令で動いている事を告げた。
襲撃者達はざわめくが、野盗討伐にこのような少数で挑んでくるとは思えない事やデュメル達が兵を動かしている情報は聞いているようでラグシアの言葉を嘘と決めつけて武器を握り直す。
「ラグシア」
「……問題ない」
襲撃者達の様子にリズはラグシアの後ろに隠れて不安そうに彼の名前を呼ぶ。
ラグシアは降伏してくれればくれない事に面倒だと言いたいのかため息を吐くが、この程度の襲撃者の事など敵でもないと考えているようでゆっくりと手を上げる。
襲撃者達にも床に見える魔法陣は見えており、彼が魔法を使うと身構えると魔法陣は光を上げた。
「……これはどう言う事だ?」
「ゼノン殿、よろしくお願いいたします。話を聞かないといけませんので殺してはいけませんよ」
魔法陣の光が消えると野盗と戦っていたのか剣を構えたゼノンが現れる。
自分に何が起きたかわからないゼノンは眉間にしわを寄せるが、彼の後ろからラグシアが指示を出す。
その声にゼノンは舌打ちをするものの、この状況では仲たがいしているわけにもいかず、剣を構える。
襲撃者達は自分達が野盗だと王に報告されてはいけないため、ラグシア達を殺すつもりのようで一斉に剣を構えるゼノンへ襲い掛かった。
野盗とは言え、元々はただの村人であり、騎士であるゼノンはその攻撃を簡単に剣で受け止め、野盗を跳ね飛ばすが数が違い過ぎる。
「ラグシア、手伝ったりしないの?」
「……黙っていろ。私にもやる事がある」
リズの目にも形勢が悪くなっている事はわかるようでラグシアの服を引っ張り、何かするように言う。
すでにラグシアは次の一手は考えているようであり、瞳を閉じると魔法の詠唱に移る。
彼の魔法の詠唱に答えるように床に浮かび上がっている魔法陣は淡い光を放つと彼が部屋に持ち込んでいた荷物から縄が這い出てきて襲撃者達に襲い掛かって行く。