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第二二話

 ……予想していた通りか?


 馬車を走らせて野盗に身を落とした者達がいると予想した村へとたどり着く。

 ラグシアは荷台から村の畑の様子を見ると多くの作物が茶色くなってきており、枯れてきている事が見て取れる。

 馬車とすれ違う村民達からも獲物を狙うような底冷えするような視線も混じっており、この村の中に野盗やその協力者がいる事は容易に想像がついた。


「……想像していた最悪の状況か?」

「まだ、何とも言えませんね。一先ずは宿を探しましょう」

「宿? 宿場町でもないのだ。見つかるとは思えないがな」


 自分達に向けられている視線の鋭さにゼノンや同行している者達も気が付いたようだが、事前に簡単な説明はしており、誰もが気が付かないふりをしている。

 村に到着する時間は調節していたため、日は沈みかけており、宿を探すと言う建て前で場所を止めて村民に声をかけて宿の場所を聞く。

 しかし、予想していた通り、宿は無く困り顔を演じていると村人はこれくらいの人数ならと村長の屋敷へと案内を買って出てくれる。

 その様子は何も知らなければ良い人に出会えたで終わる話なのだが、ラグシア達はこの村の者達が野盗の関係者だと考えているため、警戒をしながら村長の屋敷へと向かう。


「村長さんも良い人で良かったね」

「……お前は話を聞いていたのか?」

「でも……」


 村長は二つ返事でラグシア達を招き入れ、ラグシアとリズは行商人夫婦、ゼノン達は警護の冒険者と納得していた様子であった。

 ラグシアとリズは客人ともてなされたようで二人で一室、用意されたのだが他の者達は大部屋で雑魚寝のような形であり、不満は出ているが野宿よりは良いと言う事で文句の声は小さい。

 部屋に案内されるとリズは何も考えていないようで部屋を貸してくれた村長達に感謝すると笑うが、ラグシアは呆れたように肩を落とす。

 他人を疑いたくないと言いたいのかリズは頬を膨らませるが、聞き耳でも立てられていては困るため、ラグシアは手で彼女の口を塞いだ。

 その時、ドアをノックする音とゼノンの声が聞こえ、ラグシアはすぐに入室の許可を出し、眉間にしわを寄せたゼノンが部屋に入ってくる。


「……」

「不満そうですね」

「……当然だ」


 ゼノンは入室するなり、部屋の中にあったイスへと腰を下ろすがその表情は一番、高い身分である自分が大部屋で雑魚寝をしなければいけない事への不満であり、彼の様子にラグシアは困ったように笑う。

 彼の様子にリズは呆れ顔だがゼノンに睨まれてしまい、ラグシアの後ろに隠れる。


「仕方ないでしょう。ゼノン殿が行商人では無理があります。ゼノン殿のような体躯では襲うのもちゅうちょしてしまいますからね」

「ラグシア殿が行商人と言うのも無理があると思うがな」

「多少の目利きは出来るつもりですが」


 背中に隠れているリズの姿にラグシアはため息を吐く。

 ラグシアの言う通り、ゼノンには騎士として鍛えた屈強な身体があり、野盗達が襲い掛かってもただでは済まない可能性がある。

 そのため、彼が行商人では囮にならず、ラグシアは自分が囮になる必要があると答えた。

 ゼノンは納得ができるようだが、彼の目から見るラグシアは行商人と言うよりは学者風と言った感じであり、行商人には見えない。

 しかし、ラグシアは自分で行商人を演じ切れているつもりのようで不思議そうに首を捻っている。


「……これはとぼけているのか?」

「これに関して言えば、天然です」

「おかしな事を言うな」


 ラグシアの行動を読み切れないゼノンは忌々しそうに舌打ちをするとリズに意見を求めた。

 リズは困ったように笑うと彼女の言葉にラグシアは意味がわからないと言いたいのか大きく肩を落とす。


「……まぁ、良い。それで渡された薬だが私が使えると思った人間に配ったぞ」

「そうですか……リズ、お前にも渡して置かないとな」

「これ……苦い? だって、飲まないといけないなら大切なのは味でしょ?」


 ゼノンはリズの言う通り、相手をしていても無駄だと判断したようで本題に移ろうとする。

 彼に渡した薬が協力者に渡ったと聞き、ラグシアは小さく口元を緩ませると懐から布袋を取り出し、そこから黒い小さな球体をリズに渡す。

 リズは手のひらに乗せられた球体を眺めながら、この黒い球体が薬だと聞いていた事もあり、味について聞く。

 何の薬か聞く事無く、味について確認した彼女の言葉にゼノンは眉間に深いしわを寄せるとリズは重要な事だと言う。


「……重要なのか? それくらい我慢できないのか」

「やっぱり、苦いの?」

「飲みたくないなら、飲むな。戦えない者が増えるなら、戦える者に渡し、有効に使ってやる」


 ゼノンはすでに薬を飲んだ後のようであり、呆れたようにため息を吐く。

 彼の言葉にリズは嫌そうに顔をしかめるが飲む決心がつかないようでラグシアへと視線を向けた。

 この薬はラグシアが必要不可欠と判断した物であり、飲む気がないのなら戦力を増やしたいとゼノンは主張し、リズから取り上げようとする。

 取り上げられるとなるともったいなく思ったのか、リズはその手を交わすと薬を口の中に放り込む。


「……苦い」

「薬だからな……何だ?」

「表情は変わらないのね」


 薬はリズの予想した通り、口の中いっぱいに苦味を広げて行き、彼女は顔をしかめた。

 ラグシアは頷くと自分の分の薬を飲み込むが、彼の表情は変わる事はなく、その様子にリズとゼノンは不満げな表情をする。


「……何を言っている?」

「別に、それでこの後はどうするの? 何か考えがあるんでしょ」

「時間が来るのを待つだけだ。ですので、ゼノン殿もしっかりと薬を飲んでいて貰いたい」


 リズはつまらないと頬を膨らませるとこの後に何が起きるかと聞く。

 ラグシアは時間が来ればわかると答えると小さく口元を緩ませてゼノンへと視線を向けた。

 その視線の意味に気が付いたゼノンは忌々しいと言いたげに舌打ちをすると懐からラグシアとリズが飲んだ薬を取り出す。


「飲んでなかったの? 汚い」

「……黙れ。私はまだ、お前達を信用したわけではない」

「それはお互い様でしょう。信じる、信じないはお任せします。ただ、最悪の場合は自分の身は自分で守ってください。私は二人で手一杯ですから」


 出てきた薬を見て、文句を垂れ流すリズの姿にゼノンは威圧するように言う。

 ゼノンに睨まれるのは怖いようでリズは再び、ラグシアの背後に隠れた。

 自分がゼノンに信用されているとはラグシアも微塵と思っていないようで信じない場合は勝手にやって欲しいと言い、ゼノンはしばらく考えた後に薬を飲み込む。


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