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第二十話

「……ねえ。ラグシア、なんで、ゼノン(あの人)と一緒なの? あの人、ラグシアの事、良く思ってないでしょ?」

「他に適任者がいないからだ。指揮能力は高い。兄上には劣るが武芸にも秀でている。それに名誉欲もある」

「私にも理由を聞かせてください」


 ラグシアは風上の村の様子を確認したいと言い、移動しようとするが流石に一人で行かせるわけにはいかないとデュメルは護衛を選ばせた。

 ゼノンをデュメルとともに配置すると指揮系統が二分化してしまう可能性が考えられ、ラグシアはゼノンと数名を選び、準備を開始する。

 デュメルが行軍のなか、下級兵士達と交友を深めた事でその弟であるラグシアに協力してくれる者達も多いのだが、ゼノン達は自分が使いっ走りのような事をさせられる事に不満そうにしており、その様子に気が付いたリズはラグシアの服を引っ張った。

 ラグシアは忙しいため、素気なく跳ね除けようとするがその口元は小さく緩んでおり、リズは彼の表情に気づき大きく肩を落とすとゼノンと不仲だと考えられるリアが詰め寄ってくる。


「……必要ないです。それにリア殿には兄上の補佐をしていただきたいので私に付いてくる必要はありません」

「なぜですか?」

「兄上がおかしな事をしそうなら、止めていただきたいからです。他の者には頼めません」


 ラグシアはゼノンとの不仲な事を気にしているようでリアを連れて行く気はないと答える。

 ユフィからラグシアの警護を任されているリアとしては頷けない事だったようで理由を教えて欲しいと詰め寄った。

 彼女の様子にラグシアは予想していたのか、淡々とした口調で答えるが説明はまったく足りておらず、彼女の表情は不満げなままである。


「ラグシア」

「……リア殿にはこれを渡して置きます。あのバカが何かしでかしたら、これに沿って対処してください」

「は、はあ」


 リズは説明が足りないと言いたいようでラグシアの服を引っ張り、ラグシアは書き留めておいたメモを取り出してリズに渡す。

 そのメモにはラグシアの考えるデュメルの愚行が事細かに書かれており、リアはその細かさに顔を引きつらせる。


「……ラグシア、あんた、細かすぎるわよ。納得できる事が書かれているけど」

「こ、これは対処できるかわかりません」

「それなら、リズも付けましょう。二人でどうにかしてください……どうして、私に付いて来ようとする」


 リアの様子にメモを覗き込むリズだが、その細かさに眉間にしわを寄せるが彼女も幼い頃からデュメルの行動を見てきているため、納得できる事が多いようで大きく肩を落とす。

 二人の反応にリアはどうして良いのかわからずに大きく肩を落とすとラグシアはリズを押し付けようとする。

 その言葉にリズは即座に否定するように彼を睨みつけ、ラグシアはリズを連れて行くのを危険だと考えているため、眉間にしわを寄せた。


「私はラグシアと一緒に行くって言っているでしょ。だいたい、ラグシアは馬にも乗れないんだから」

「今回は馬車だ。少人数であくまでも行商人と護衛のふりをして移動するんだからな」

「……ラグシア殿、これはどういう事だ?」


 リズは絶対にラグシアに付いて行くと言うとラグシアが苦手な騎乗を理由に胸を張る。

 ラグシアは彼女が付いてくる理由などないと言い切った時、いつの間にか下級兵士の鎧に着替えたゼノンが近づいてくる。

 その表情からゼノンが納得していないのはすぐにわかり、リズとリアは身構えるがラグシアは二人とは別の事を考えているのかうんうんと頷く。


「問題ないですね」

「……なぜ、私がこのような格好をしなければいけないんだ?」

「騎士が混じっていれば目立つでしょう。そうなると野盗が出てこない可能性があります。私達は行商人のふりをして村へと移動するのですから、野盗は数人で動いているのか村単位で行っているのか調査するのに騎士が混じっていると都合が悪いですので」


 ラグシアは予想以上の出来だと言いたいようだが、ゼノンは納得ができていないようで騎士である自分が兵士の格好をしないといけない理由を聞く。

 その問いにラグシアの口元は小さく緩む。

 彼の表情にはゼノンを挑発しているようにも見える。

 ゼノンはその表情に苛立ちを覚えながらもこれは彼からの挑戦だと言う事を感じ取り、無礼だとは思いながらも降参するわけにもいかずに考え込む。


「……ねえ。ラグシア」

「黙っていろ。ゼノン殿なら簡単に解ける問いだ」

「そうなの? ……なんで、ラグシアはあの人の事をそんなに買っているのよ? 感じ悪い人なのに」


 考え込むゼノンの姿にリズはラグシアの服を引っ張る。

 ラグシアは黙るように言うとまだ準備があると言いたいようで兵達に指示を出す。

 指示を出すラグシアの背中にリズは飛びつくと彼の耳元でゼノンの事が苦手だと言う。


「有能で権力のある人とは縁を結んで行くのは大切だろう」

「……ラグシア、それはどうかと思う」

「シーリング家に味方はいないからな。クルーゼル家を味方に引き入れたい」


 背中にかかるリズの重さにラグシアはげんなりとした様子で答えるが、その言葉には確実に裏が見える。

 リズはため息を吐くがラグシアは味方のいない状況で味方を作るために必要だと笑う。

 その口元の笑みにリズはまた何か企んでいると思ったようで大きく肩を落とした。


「……そうやって、敵を作らないでね。ただでさえ、お義兄様は敵が多いんだから」

「兄上は兄上でどうにかするだろう。私はあれがどうなろうと知った事ではない。それにあれはガーランド家を継ぐのだから、私はシーリング家がこの国で生き延びる事を考えなければならない」

「そんな事、言ってもお義兄様の事を見捨てる気もないくせに」


 リズはラグシアの事を心配だと言いたいのか、彼の身体をしっかりと抱きしめる。

 彼女の行動にラグシアは表情を変える事無く、自分の身を守るためにゼノンと友好関係を結んで置く必要があると言い切った。

 彼の言葉にリズは不満げではあるがラグシアがデュメルを見捨てるとは思っていないようであり、彼に抱き付いている手に力を込める。


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