第十九話
……原因はわからないか。自分達で調べようともしないのか。
村長の話では近隣に野盗が出るようになった理由がわからないと言うものであり、この場に集まった者達は野盗を討伐してしまえば終わりだと言う話が聞こえている。
しかし、ラグシアは気になる事があるようで眉間にしわを寄せており、その表情を見て、ゼノンはお手並み拝見と言いたいのか口元を緩ませた。
「ラグシア殿の見解を聞かせて貰いたい」
「申し訳ありません。周辺の地図を」
総指揮を命じられたデュメルが早々に寝落ちしてしまった事や家柄が関係しているのか、すでにゼノンはこの場で一番の権力を持っている事を自負しているせいか、その態度は横柄に見えるがそれを咎める事ができる人間はすでによだれを流し、いびきまでかいている始末であり、ラグシアの味方をする声は上がらない。
その様子にラグシアは不快感を持つが、自分がよそ者である事は誰よりも理解しているため、頭を深々と下げると地図を要求する。
ラグシアが地図を要求した事で彼が野盗討伐に賛成し、兄であるデュメルからゼノンの元に鞍替えとしたと思った者達もいるようであるが、ラグシアは気にする事無く、広げられた地図へと視線を移す。
「……失礼ですが、この村と周囲の村との交友は?」
質問の意味がわからないのか、村長は一瞬、呆気に取られたようだがすぐにあまりないと言う回答が得られる。
その答えにラグシアは眉間に深いしわを寄せると地図に何かを書き込んで行く。
彼の行動が理解できない面々は怪訝そうに地図を覗き込むがラグシアは気にする様子も見せずに手を動かす。
「……起きてください」
「あだ!? ……」
思いついた事を書き終えたラグシアはしばらく地図を眺めた後、おもむろに立ち上がるとデュメルの後ろまで移動し、彼の後頭部を殴りつける。
突然、頭に響いた痛みにデュメルは声を上げるがまだ頭が完全に動いていないようで口元によだれの後を付けたまま、周囲を見回す。
ラグシアはゼノン側についていたと考え始めていた者達は彼の行動に舌打ちをするが、ラグシアは眉間にしわを寄せてよだれを拭くようにと視線で促した。
デュメルは慌ててそででよだれを拭くと一つ咳をして威厳を示そうとするがすでに遅い。
集まっている者達からは冷たい視線が向けられており、デュメルはバツが悪そうに笑い、ラグシアに助けを求めるような視線を向ける。
その視線をラグシアは無視をすると自分のために用意されていた席に戻り、視線で地図を見るように合図を送った。
「ラグシア、どうかしたのか?」
「先ほど、村の畑を見てきましたが作物の方に病の兆候が見えました。風により流れてきた物と考えられますので風上の村の方から流れてきたと考えられます」
しかし、視線の意味にデュメルは気づく事無く、ラグシアに説明を求める。
ラグシアはため息を吐くとこの場に来る前に見てきた畑の様子を話すが多くの者達は野盗討伐と関係な事だと声を上げ出す。
「ゼノン殿」
「……風上の者達が食うに困って野盗に身を転じたと言いたいのですか?」
「そう考えるのが妥当だと考えます……問題ありません。この病をこれ以上、広げない方法がありますから」
周囲を黙らせるにはゼノンに発言させた方が良いと考え、ラグシアは意見を求める。
それはゼノンには挑発に聞こえたようで不快そうな表情をして答えるが、ラグシアは表情を変える事無く、頷くとこの村から西に位置する村の一つを丸印で囲んだ。
作物に被害が出ると聞き、村長は慌て始めるがラグシアは安心するようにと笑顔を見せる。
彼の表情に村長は少しだけ安心したのか小さく頷くと彼の次の言葉を待つ。
「ラグシア殿、作物に被害が出ている事はわかりました。しかし、それがこの村が原因とは限りませんが、風などどこからでも吹いてきます」
「確かにそうですが、先日から書庫でいろいろと調べ物をさせていただいた限り、西から流れてくる風が多いようです。そう考えるとこの村から流れてきた可能性が一番高いと思います。それに風向きを考えると野盗騒ぎの他にこの問題も解決しなければいけません」
ゼノンは風向きなど誰にもわからないとラグシアの考えを否定しようとするが、ラグシアは可能性の1つである事を告げる。
村長は田畑の病を解決して貰わなければ村の存続も危ういため、大きく頷いているが騎士達の反感を受けるのが恐ろしいためか言葉に発する事はできない。
「……風向きを考えると王都にも被害が出ると言いたいのか?」
「そうです。先の事を考えると食糧難は大問題です。この村にも対処しなければいけませんが野盗は討伐ではなく、なぜ、野盗に身を落としたか確認しなければいけません」
「そうなると捕縛か……ここだな」
「そうですね。ここを中心に野盗を探すのが有効的でしょう」
デュメルは地図を覗いているとすでにラグシアが風向きも書き込んでいる事に気づき、風向きを指でなぞった先に王都がある事に気づく。
その言葉にこの場にいた者達は驚きの声を上げるがラグシアは淡々とした口調で野盗討伐より、優先度が高いと言う。
ラグシアの言葉を信用していない者達は声を上げるが、すでにデュメルはラグシアの考えに同意しているようでどこで野盗と戦うか考え、直感で地図の一ヵ所を指差した。
デュメルの指差した場所にラグシアもすぐに同意するが、場所の決定理由がわからない者達はすぐに反対の声を上げる。
「ラグシア、他にやるべき事はないか?」
「そうですね。他にも被害を広げないためにすぐに刈り取らなければいけない物もできくると考えられます。そうなると村の食料が不足してくる可能性が考えられます」
「食糧不足か。それは義父上に話を通す必要性があるな……ゼノン殿、同行している者で王都にもっとも早く帰れる者を選んでくれ。その者に書状を持たせる」
反対の声にデュメルは耳を傾ける事無く、ラグシアからの意見を取り立て、指示を飛ばす。
その指示に不快感を表している者も多いが、デュメルは気にする事はない。