第十五話
任務は王都から少し離れた場所にある村の周辺で野盗が出ているため、騎士団に同行して野盗討伐とともに村の状況を整理し、報告する事であった。
シーリング家の立場では断る事などできず、ラグシアは頷くとガーランド王から他の者達にも次々と指示が飛ぶ。
指示を終えて、解散をしようとした時、空気を読まずにデュメルが手を上げて書庫でラグシアが話していた事をガーランド王へと報告する。
デュメルの事を良く思っていない者達は当然、多く視線は彼へと集中するがデュメルは気にする事はない。
ガーランド王は目を閉じ、考え込むと提案者であるラグシアへと視線を向けた。
「……ラグシア、何か考えがあるのか?」
ガーランド王からの鋭い視線にラグシアは深々と頭を下げるとゆっくりと自分の考えを話し始める。
ラグシアの話に耳を傾けていた者達は密約を破っている国がどうなろうと知った事ではないと言う声も上がっているがガーランド王は目を閉じて考え込んでいる。
「シーリング家が治めていた者達の安全については我らにも責任の一端があるな」
「……はい」
ガーランド王は目を閉じたまま、シーリング家の屋敷を無理やりこの国に転移魔法で運んだのは王女であるユフィだと言う。
その言葉に深々と頭を下げたユフィは短慮だったと反省した様子を見せる。
王女であるユフィが起こしてしまった事をこの場に並んでいる者達が責めるわけにもいかないようで不満の声は小さくなって行く。
「だが……」
「その件で提案がございます」
それでもシーリング家の領地で暮らしていた者達の安全を確保する事はできず、ガーランド王は首を横に振る。
静まり返った謁見の間でラグシアは考えている事があると手を上げた。
「……ラグシア、良く無事だったね」
「本当です」
「ラグシアは本当に調べ物が好きですね」
ラグシアの報告を受けるとガーランド王は考える価値があると思ったようで場を収めて解散となった。
ラグシア達三人は書庫に戻ると謁見の場で行われていた事の簡単な説明とリズとリアに話し、そんな場に引っ張り出されても物おじしなかったラグシアを見てため息を吐く。
リズの心配など気にする事無く、ラグシアは資料を探しており、彼の様子にユフィは苦笑いを浮かべている。
「しかし、あの転移魔法を宣戦布告にしてしまいますか?」
「それが一番、被害が少なさそうでしたので事実を伝えてしまえば間違いなく、領民は殺されてしまうでしょう。これならば誰か他の者達に領地が与えられるだけだと思いましたから」
ラグシアがガーランド王達に提案したのは密約を破っている者達に対しての制裁だと言い、その矛先をシーリング家へと向けたと言うものであった。
宣戦布告を伝えるものには密約を守る気が見えない者達の前線での様子を並べ、その中で最も暴れまわったと言う理由でデュメルの名前を挙げ、彼の一族であるシーリング家を制裁対象としたと言うものである。
デュメルとユフィの関係もあり、真実を告げた場合より、シーリング家が殺されたと考えられれば領民の被害は最小で済むとの考えだ。
「ラグシアの思い通りになれば良いね」
「そうですね」
ラグシアの提案はあくまでも希望的な物もあるが、それでも領民の事を思っているラグシアの様子に笑顔を見せる。
ユフィは小さく頷くとラグシアへと視線を向けるが彼は表情を変える事はない。
「とりあえず、シーリング家の居場所は確保されたと言う事で良いんですよね?」
「それに関して言えば、まだ、わかりませんね。今回の任務の出来を見てとなるでしょう」
「そうなんだ……その任務の事を調べているの?」
ラグシアの提案にガーランド王が頷いた事もあり、リアはシーリング家が臣下の列に並ぶ事ができたと胸をなで下ろすがユフィは首を横に振った。
任務と聞き、リズはラグシアが何を調べているか気になったようで彼の背中を指差して首を傾げる。
「……事前に調べる事は重要だろう」
「そうですね。リア、悪いのですがラグシアには現在、動かせる兵がいないので同行していただけますか」
「はい」
ラグシアは当然の事を聞くなと言いたげに言い、リズは彼の反応に頬を膨らませた。
二人の様子にユフィは苦笑いを浮かべると任務にリアにも同行を求める。
リアは自分の目的のためにラグシアには政務に食い込んで貰わなければいけないため、ラグシアの身を守ると言う。
「任務って危険なの? 野盗討伐ってラグシアは弱いでしょ」
「……野盗討伐と言うよりはなぜ、野盗が出ているかを見なければいけないだろう。そのために調べないといけない事があるんだ」
武の才能が皆無のラグシアに任務が遂行できるとは思えず、リズは彼の安全を心配する。
ラグシアはガーランド王が野盗討伐と言う単純な任務を与えるとは思っていないようであり、難しい表情をして目的地の地図を引っ張り出した。
「野盗討伐なんだから、さっさと言って済ませてきたら良いだろ」
「……これだから、何も考えないバカはイヤだ」
引っ張り出された地図を覗き込みながらデュメルは簡単な任務だと言う。
何も考えていない兄の様子にラグシアは眉間にしわを寄せると王都から野盗が出ると言う村までの道筋を指でなぞる。
デュメルはラグシアがまた小難しい事を言っていると思ったようだが、自分が聞いてもラグシアからの回答は冷たいものである事は予想がつき、視線でリズに助けを求めた。
「何かあるの?」
「さっきも言っただろ。なぜ、野盗に身を落とした者達がいるかだ。野盗としての罪を犯した者達は処罰しなければいけないが原因を叩かなければ今回の討伐を達成できてもすぐにまた同じ事が起きる」
「確かにそうですね。それに野盗討伐だけで済ませていれば民から信頼を失う事も考えられますから」
リズはラグシアの隣に移動すると彼の服を引っ張り、彼の顔を覗き込む。
彼女の仕草にラグシアは一瞬、動きを止めると説明が面倒だと言いたいのか眉間にしわを寄せて、再発防止のために原因を究明する必要があると言う。
説明を受けてもリズとデュメルはよくわかっていないようで首を傾げており、ラグシアは大きく肩を落とすと三人の様子にユフィは苦笑いを浮かべながら彼の言葉に頷いた。