第十四話
「……」
「どうした。ラグシア」
「……なんでもありません」
ガーランド王へと謁見を願い出たラグシアはデュメルとユフィに案内されてすぐに謁見の間に呼び出されてしまう。
元々、二人はラグシアを呼びに来たようで、ガーランド王を待たせているとも知らずに自分の意見を話していた事を恥ずかしく思ってしまったようで肩を落とす。
弟の心情など察する気もない兄の様子にラグシアは忌々しそうに舌打ちをし、ユフィは二人のかみ合わない様子を見て苦笑いを浮かべている。
二人の先導で謁見の間に入室するとそこにはガーランド王だけではなく、この国を動かしている有力者達も控えており、父親であるシーリング家当主もその端に並んでいる。
彼らの視線にはシーリング家の者達を快く思っていないのが見て取れる物も多いが、利用価値があるかを判断するように好奇の視線を向けている者も多い。
この空気に飲まれてはいけないとラグシアはガーランド王へ深々と頭を下げると周囲の者達に見られないように深呼吸をする。
顔を上げた彼の表情には迷いの色は見えず、彼の堂々とした姿に並んでいた者達からも感嘆の声が上がった。
「ラグシア、忙しいところ呼び出してしまい。悪かった」
「いえ、シーリング家はガーランド王へ忠誠を誓った身、主の命とならばどのような状況でも駆けつけましょう」
ガーランド王は突然の呼び出しについて詫び、ラグシアは深々と頭を下げる。
年若いはずのラグシアが王の前で堂々としている様子に彼と同年代の子息を持っている者達はそれぞれ思惑があるようでガーランド王とラグシアの次のやり取りを見守る。
「そうか。ラグシア」
「はい」
「この国に来てからは書庫に閉じこもっているようだが、面白い物は見つかったか?」
「そうですね。多くの知識を新たに得る事ができています。とても貴重な経験をさせていただいています……失礼しました」
ガーランド王は小さく表情を緩ませた後、書庫に閉じこもっている彼の成果について聞く。
ラグシアは新たな知識を得る事ができる感動に目を輝かせて返事をしてしまうがすぐに冷静になり、失礼な態度をとってしまったと頭を下げる。
その様子にガーランド王は笑みを浮かべるが、本題に入りたいようで表情を引き締めた。
同時に謁見の間の空気は張りつめ、ラグシアは緊張した面持ちをして次の言葉を待つ。
「先日、前線を維持している部隊から報告が上がってきたのだが、その報告には戦争を終わらせる気はないのではと言う疑問の声が多い。お主の意見を聞かせて貰えないか?」
「……なぜ、私に?」
「二人とも、ラグシアの方が詳しいのではないかと言うからな」
密約で行われている戦争は茶番であるが指揮をする者の多くは密約の事を知っており、お互いに被害が大きくならないように調整しながら茶番を繰り広げている。
しかし、自国の悪政を誤魔化すために密約を発動させた愚王は密約を反故し、ガーランド王の治める国を手に入れようと考えている。
ガーランド王だけではなく、この場にいる密約を知る者達もそれに関して言えばうすうす感づいているようだが、明確な物が見えないため、確証を持とうとラグシアを呼び寄せたようである。
父親や兄がこの場に控えている事もあり、ラグシアはすでに話を聞いているのではないかと聞く。
すでに聞き取りをした後のようでラグシアにも意見を聞きたいと言うものであるが、捉えようによっては二心がないかを確認するようにも見える。
「正直に進言させていただくのであれば、密約を守る気はないでしょう」
「ほう……なぜにそう思う?」
ラグシアは祖国にいる間に密約やそれにかかわる人間達についても多くの事を調べ上げており、愚王の性格から見ても密約の反故は間違いないと言い切った。
彼の口調に控えていた者達からは信じられないと言う声ややはりなと言う声が飛び交う。
はっきりと言うラグシアの様子にガーランド王は小さく頷くとそう考えた理由を聞く。
「まずは密約を行使する前に政を改めるべきだと進言したラミリーズ家の取り潰しと前線に送っている人間の人選でしょうか。言いたくはありませんが好戦的な人間や……思慮に欠ける人間を多く送っております。他にも多々、ありますがすでに父上からの聞き取りは終わっていると思いますので省かせていただきます」
「そうか……それならもう一つの質問だ。我らはこの裏切りに対してどう応えるべきだと思う?」
ラグシアの言葉や前線からの報告、そして、シーリング家当主からの聞き取りに答えを出さないといけないガーランド王は目を閉じるとしばらく黙り込んだ。
その間、謁見の間は静まりかえり、この場にいる誰もが次の王の言葉を待つ。
空気の重さからかどれだけの時間が経ったのかはわからないが、ガーランド王は目を開くとまっすぐにラグシアを見つめて問う。
その問いはラグシアに戦争の火ぶたを切らせようとしているようにも聞こえるが、すでに彼の中では答えなど出ているようでガーランド王の視線から逃げる事無く、まっすぐとその目を見返す。
「先日から書庫に閉じこもり、この国の統治の記録を読ませていただきました。祖国との王都の賑わい行きかう領民の表情も見させていただきました。二国の現状を知る者としては……ガーランド王に国を統一していただきたいと思います」
「それは戦争を起こせと?」
「戦争はすでに起きています。そこから目をそらさないために私は呼び出されたのでしょう」
ラグシアはこの国に来てから見た景色、触れた歴史から見ても、祖国の愚王を討つべきだと言い切った。
その言葉に控えていた者達の中から、彼を批判する声が上がるがラグシアはきっぱりとすでに火ぶたは切られていると答える。
「確かにその通りだな。ラグシア、これからは忙しくなると思うがそなたにも力を貸して貰う事になるが良いな?」
「もちろんです」
「そうか。それなら、さっそく、ラグシア、お主にやって貰いたい任務がある」
批判した者の一人が無礼だと言いたいのか視線を鋭くするがそれを察知したガーランド王は彼を睨みつけて黙らせてしまう。
その姿は先日、シーリング家の屋敷で朝食を頬張っていた人間と同一人物には見えないが、ガーランド王は真剣な表情を崩す事無い。
ラグシアは状況に応じて態度を使い分けるガーランド王の姿に背中に冷たい物を感じながらも深々と頭を下げ、忠誠を誓った。
彼の態度にガーランド王は満足そうに笑うと任務を与えると言う。
いつもありがとうございます。
明確に態度を決める事となりました。
ガーランド王の元、ラグシアはどのような働きをするのでしょうか?
楽しみにしていただければ幸いです。
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