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退廃した世界を渡る詐欺師  作者: 須賀いるか
一流の詐欺師
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弱者の戦い1

「お兄ちゃんと買い物なんて久しぶりだなぁ」

「そうだね、久々のデートだね」

 鼻歌交じりに隣を歩くブロンドの髪をサイドポニーでまとめた少女、義妹のマリーに相づちを打ちつつ、アスファルトで舗装された道を歩く。単に日用品の買出しなのだが、普段いるはずの荷物もちが不在なため急遽の代打である。割と近場で道が入り組んでいることもあって徒歩での移動となった。

 市場に着くとその活気と喧騒に驚かされたが、勝手しったる風に迷わず進むマリーからはぐれないように付いていく。きょろきょろと視線を動かす。いくら宙人そらびととの直接交流がある稀有な都市とはいえ、その品揃えの豊富さには驚かされるばかりだ。鮮魚とか果物、生野菜なんかをこの目で実際に見れるとも思ってなかった。

「お兄ちゃん、この荷物持ってー」

 はいはいと手渡された荷物を素直に受け取り、マリーが抱えている包みのほうも渡すよう催促する。

「えっ、こっちは重いよ?」

「マリーほどじゃないだろう」

 即座に肘鉄を一発お見舞いされた後、目を伏せ赤らめた顔のまま包みをこちらに突きつけるので、素直に受け取る。「ありがとうございます。」と心の中で紳士のたしなみを済ませると、早足で進むマリーに小走りで追いつく。

「けどさ結構な量になって、僕はもうそんなに持てないんだけどまだ買うの」

 自分のキャパオーバーを上司に報告するのは大切である。余裕ぶってるとキャパオーバー以上の作業を振られるので注意。常につらいわーアピール大事。

「セルカさんに頼まれてたのはもう済んだかなー」

 ちらちらとこちらを伺いながらマリーが言う。ふむ、言動から察するに本番はこれからのようだった。なにか買って欲しいものでもあるのかな、とりあえずリードくらいはしよう。

「じゃあ向こうの通りを見て回ってから帰るか」

 僕は視線を小洒落た雰囲気のモールへと向ける。マリーもそれに習って視線を向けた後、おおっ、といった表情で僕に振り向いた。そして僕の腕を取りモールのほうへと足を向けた。

「狙ってるものでもあった?」

「ううん・・・でも気になってるのなら」

 アレだ、これ高いパターンだ。とはいえ僕もこの間仕事をこなしたばかりで50kCr.クレジットほど懐に入ってきているのでちょっとした小金持ちだ。大人の凄さを見せ付けるチャンスだろう。

「まぁまぁ、見るのはタダだしちょっと息抜き兼ねて行ってみようか」

「うん」

 ぱーっと表情を輝かせてマリーが元気な返事を返す。泥臭い金ではあるがこういう笑顔が見れるのなら価値はある。「増税」と書かれた貼紙と13Cr.に値上がった缶ジュースを横目で見つつ、マリーに引っ張られてモールへと歩いていった。

 そしてそれから二時間ほどウィンドウショッピングを楽しみ、結局何も買わずに帰途へと至った。マリー曰く「大事なのは物じゃない、時間なんだよ」らしい。いまいち理解できないけど奈ミねーちゃんに聞かせたい名言だった。あの人、金が入ったら酒場直行するからな・・・、そして使い切る。

 ゴルベット孤児院・・・まぁ正式名称なのだが、着くと孤児院の屋根に人影があった。

「おーい、流ガレー!」

 僕に気がついたのか、屋根の上から手を振る姿が見て取れた。詳しく言うと鳶色の髪を立てたタンクトップに菫色のニッカポッカの男がかなづち片手に全力で手を振っていた。・・・男だった。本来なら僕の代わりに荷物持ちの予定だった男だった。

咬ムラかむらお兄ちゃんはそんなトコで何やってるの!」

「アニキ、馬鹿だから高いところ好きなの、何なら天国逝く?」

 僕とマリーがそれぞれの言葉を用いて屋根の上の彼を呼んだ。

「見ての通りセルカさんに捕まって、屋根の修理だ。オレ器用だからな」

 アニキは煉瓦作りの屋根を指差していた。古くなった煉瓦を砕いて新しいのと取り替えてるのかモルタル突っ込んでるのかは分からないが、とりあえず日曜大工のレベルは超えてる気がした。アニキ、マジ有能。

「それから流ガレ、お前酷くない、お兄ちゃんデスヨー?」

「市民権取ったら撤回するよ、ニートなアニキ」

「ごふっ、それいうなよ・・・」

 器用に屋根の上で仰向けに倒れるアニキ。ちなみに市民権のない人間に都市で働く権利が無い。あと人権もないので不法滞在している人間が見つかると野良犬野良猫よろしく保健所送りになる。この都市がモヒカンでトゲ付き肩パッドなヒャッハーな世紀末にならずにある程度の治安が保たれているのもこの制度のおかげだ。ちなみに制度を成立させているのはまた別の力だが・・・。

「あー、流ガレ。お前奈ミから逃げ回ってるんだって?」

「そうだけど、なぜ知ってるの?」

「昔の偉い人は言いました。『知らなかったのか、大魔王からは逃げられない』と」

 首をかしげる僕の肩にぽんと手が置かれ、耳元で小さく囁かれた。声の主は大魔王だった。


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