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退廃した世界を渡る詐欺師  作者: 須賀いるか
一流の詐欺師
7/58

Mストライカーその7

 酷い目にあった。誘拐されて戦争に巻き込まれて・・・腹パンされて、腹パンされて!、実に酷い目にあった。奈ミねーちゃんに関わるとろくな事が無い。ガキのころからそうだった。いつだって僕は泣かされてきた。その関係は今も続いている。

 頭の悪いことを考えながら重いまぶたを開く。そこは住み慣れた我が家ではなく、ベッドの上だった、しかも二段ベッドの下側。体を起こし毛布を端に寄せると大きく伸びをした。

「おー流ガレお兄ちゃん起きたんだー。朝ごはんあるから食堂にいっといでー」

 眉根を寄せてむーっと膨れっ面をしていると、部屋の入り口から少女が顔だけを覗かせて無遠慮な物言いで指示が飛んできた。

「ちょいまち!」

「なにー?忙しいんだけど」

 パタパタと音を立てて遠ざかる少女を引き止める。少女は言葉ほど辛らつではなく、むしろ嬉しそうに再び顔を部屋に覗かせる。ふむ・・・義妹のマリーだ。ブロンドの髪をサイドポニーで整えて、白地のブラウスに膝丈までのグレーのプリーツスカートという出で立ちだ。記憶にある限りでは平時の服装である。

 うんうん唸っていると、お兄ちゃんと声が聞こえた。マリーが僕の顔を覗き込んでいた。女の子特有のいいかおりがする。義妹じゃなかったらアウトだった。いやアウトだなこれ・・・。

「聞きたいんだけど、なぜ僕はここにいるの?」

「知らないよー。セルカさんが朝お兄ちゃんがいるって教えてくれたの。奈ミお姉ちゃんみたく酔っ払ってこっちに戻ってきたんじゃないの」

 ねーよ・・・、ジト目でマリーを睨むとベッドから這い出る。てか、奈ミねーちゃんも何やってんだよ。仮にも社会人だろうに、セルカさんも甘いというかここがアットホーム過ぎる。いや、いいことなんだけどね。いつでも帰ってこれる実家みたくてさ。

「セルカさんはどこにいるの」

「がきんちょのお世話で食堂にいるよ」

「分かった、呼び止めてごめんね」

「いいよ、久しぶりだったし・・・その、しばらくいるの?」

 上目遣いで尋ねてくるマリーに思わず仰け反り、数瞬の間をあけて何度か頷く。この娘は天然だからなー効くなー。マリーは小さくやったと呟くとまたね、といって部屋から出て行った。

「・・・流ガレー?」

「お前のはあざといんだよ。今のが本物だからちゃんと学習しなさい」

 こほんと咳払いをして、ミュモルの追従をかわす。あっぶなー、義妹好きすぎでしょう、僕。でもさっきのが計算だったら人間不信になるかもしれない。恐るべし義妹、諸刃の剣だ。何ならうっかり装備すると呪われそうだった。

 食堂につくとエプロンドレスの女の人が3人の子供相手にかいがいしく世話を焼いていた。どの子も舌足らずな言葉をぴーちくぱーちく言いながら騒がしい朝ごはんの真っ最中だ。

「セルカさん、おはよう」

「流ガレ君、おはよう」

 セルカさんはここの・・・孤児院を一人できりもりしている人だ。まだ若いのだが前の責任者がぽっくり逝ってしまってからなし崩しにその業務を引き継いでいる。都市からの支援も当てにならないようで増員もままならない状況だと、以前奈ミねーちゃんに聞いた記憶がある。

 僕は勧められるがままに席に座ると、目の前にあった黒パンを手にとって口に運ぶ。

「そいえばセルカさん、僕なんでベッドで寝てたの?」

「朝、玄関開けたら君が転がってたの。いやー軽いからベッドに運んであげたんだけどきちんと食べてる、なにか危ないことにでも巻き込まれてない?」

 セルカさんは子供の口元を拭きながら僕の目を見る。視線を合わせづらくなって逸らすと、言いたくなったら言ってね。とにこりと笑って僕のコップへミルクを注ぐ。

 軽く会釈すると、コップに口をつけながら脳内で状況を整理する。

 察するに僕は腹パンをもらって気絶した後この孤児院、かつて世話になった場所へと送り届けられたらしい。送り先の指定とかは奈ミねーちゃんの指示があったんだろう。隠れ家のほうに運ばれなかったのは僥倖なのか、それともこの場所をアキレス腱として押さえられたのかは判断が難しいところだった。

「私はすこし外回りしてくるから、この子達の面倒見てもらってかまわないかしら」

「いいよ、それくらいお安い御用だよ」

 ガキんちょ達に目を向けながら承諾する。セルカさんはエプロンドレスを外すと別室のほうに出て行った。残されたガキんちょと格闘すること30分。朝食を済ませるとマリーの手伝いをするよう指示をして食堂から追い払った。

 一息ついた後、食堂の散々な状況を改善すべく手馴れた要領で食器の後片付けをしはじめる。つい少し前までの日常を感じて不意に笑みが浮かんだ。平和だ、平和なのは素晴らしいことだ。硝煙の匂いも銃弾の熱もそこには存在しない。

 心を空っぽにして作業に耽っていいると突然、ピコーンと目元のヘッドセットからシグナルが点灯した。メールチェックを行うと、奈ミねーちゃんからミッションコンプリートという題名でメッセージが届いていた。悲報、平和終了のお知らせ・・・

 内容は事務的なものだったが、最後のほうにレジスタンスが勝ちすぎ、手加減しろとダメだしを食らっていた。説明もなしに相手に最適解を求めるのは悪い癖だと、先ほどとは違う意味で笑みを浮かべた。


一区切りです。

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