Mストライカーその6
つまるところ、今回の戦争についての結果。
あの後の戦闘はレジスタンス側が常時有利にことを進めた、兵器の損耗はある物の人的被害は最小限に抑えられたらしい。
一方相手側はというと最終的に損耗率は1割に達し、いわゆる一方的なレジスタンスの勝利と呼ばれるレベルだった。とくにエースと呼ばれる連中の損害が大きかったらしい。捕虜として人質交換を行い物資を補給出来てうはうはだと、すれ違う人たちが口にしていた。
僕は手ごろな整備用テントの隅っこに座って、修理作業でてんやわんやしている整備兵をぼーっと眺めていた。ちなみにぶっ壊したジープの件は整備の人には不問にされた。
ただまぁ、あのあと来た回収班は僕を誘拐した連中だったらしく、合流し無事に安全地帯にたどり着いたところで体力が尽きて根を上げている僕に腹パンをして送ってやろうかと冗談交じりに嫌味を言われた。
「よう、無事そうで何よりだ」
顔を上げると赤髪の男女がたたずんでいた。戦場で出会ったストライカーのパイロットの二人だった。
整備兵も遠目から物珍しそうに彼らを見ていたが、班長らしき人の怒声を浴びて作業のほうへ戻っていった。
「ああ、その節はどうも。おかげで助かりました」
「律儀にゲストIDを持ってたおかげだな。アレが無いと居場所の特定は出来なかった」
「律儀に・・・ですか」
「事実そうでしょう。貴方ほどのの腕ならゲストIDなんて必要なかったはずでしょうから」
「それは・・・買い被りですよ」
見透かすような銀色の双眸に罰の悪いような気分になる。
実際、ゲストIDが無くても電子情報戦には参加できたしダミーIDを発行しまくって位置特定なんてへまをやらずに前線に飛び出すことも無かったし、彼に助けられることも無かったかもしれない。だが、レジスタンスから信頼を得てない状態でそれをすれば今後の付き合いが円滑なものにならなかったのも事実。味方にハッキングをかける様なものだからなー、担当者の面子を潰すようなもんだ・・・。
閑話休題
「それに・・どんな小細工をすればあんな成果を私たちが挙げられるのかしら」
「そーそー。撃墜王も真っ青な戦果だ。俺もそれが知りたくってわざわざ出向いてきたってわけさ」
あらゆる挙動を見逃さまいとする銀色の瞳と、大げさな手振り身振りで自分達の成果を説明する金色の瞳の男を見ながら、少しの間思案し彼らの言う成果について認識の確認をする。
「成果っていうと・・・エースパイロットを鹵獲しまくった件ですか」
「ああ、牽制攻撃に直撃もらうような奴等じゃなかったからな。こっちが面食らっちまった」
「それに、向こうにも1機のストライカーがいたの。本当に瞬殺してしまった時は悪い夢でも見ている気分だったもの」
おおう、ストライカー行動不能にしたのか。そら質問もされるか。普通のストライカー同士の対戦はフィールドによる物理無効の弊害で弾薬切れで撤退というのが敗因となることが多いから、撃墜というのは大金星と言える。
「・・・未来予測システム」
ぼそりと呟く。
「弾影予測とか捕捉に関わるFCSですね。実際よりもほんの一瞬遅く表示されるようにした。それだけです」
「ん?」
そして補足する。男のほうはピンときてない様だが女のほうは気づいたらしい。頭を抱えていた。
「・・・悪夢だわ」
「後半はエース以外の人にも影響が出ていたでしょう」
「そうだな。まるですべて手動で狙いを定めているように的外れな方向に弾が飛んでたな」
男が思い返すように戦闘を振り返り素直な感想を述べる。
「エースは撃墜。されど普通の兵には未来予測システムに障害は感じられない。そのうち劣勢に立たされた彼らはエース撃墜という結果だけでシステムがおかしいんじゃないかと思い始める」
「そのうち未来予測システムを自ら放棄。己の見たものしか信じずに連携も何もない。戦略どころか戦術レベルの行動すらままならない。まさに烏合の衆ね」
女が僕の言葉を引き継ぐ。
「事の顛末は以上ですね。紙一重の回避は反撃に有利かもしれませんが、余裕を持った回避をお勧めしますよ。今日みたいになったら大変ですから」
僕は二人にウィンクをしてへらりと笑った。女はしばらく固い表情で僕を見つめていたが、やがて破顔し今まで見せなかった笑顔を浮かべる。
「名前を聞いてもいいかしら?私はラヴィッシュ=ネオン。ラビと呼んで」
「おいおい、俺のときは半年は教えてくれなかったのになんか扱い酷くね」
「流ガレです」
男を無視して答える。
「聞きなれない名前ね」
「よく言われます。いまは消滅したニッポンという国の名残らしいです」
「ちなみに俺はアッシュな。トネリコ=ベリウムが本名だが愛称でそう呼ばれている」
男・・・アッシュさんが慌てて僕とラビさんとの会話に割り込む。
「短い間ですがお世話になりました。アッシュさん、ラビさん」
立ち上がると、二人に対して深々と礼をした。
「出来れば長い付き合いになりたいものね、流ガレ君」
「おう、また頼むぜ。流ガレ」
顔を上げた僕に向けた二人の視線は最初に出会ったときよりも随分と柔らかいものになっていた。
僕はこの二人に信頼される程度の縁は結べたのだろうか。考えるまでも無い、僕はへへらとむずがゆいような笑顔で返した。
「おう、ここにいたか。腹パン野郎・・・」
回収班のメンバーが手を上げて僕の注意を引いた。彼は赤髪の二人を怪訝そうに見る。どうやらお迎えが来たらしい。僕は赤髪の二人に軽く目配せすると男に向き直る。
「腹パンされたの一回だけなんですけど・・・」
「じゃあ、これで2度目だ。悪いなエースさん方、こっちはこっちの事情があってね」
僕の肩に手を回してテントから出るように男が促す。
「オヤジにはヨロシク言っておく。またな」
「こんな世の中だから・・・そのまたね」
背中にかけられる声に僕は片手をひらひらと振って返事とした。
テントからでると見慣れたメンバーに出会った。誘拐された時、戦場で回収と護衛をしてもらった時、そして今。3度目の邂逅である。皆にやにやと笑みを浮かべている。最初に会ったときのような不信感は無い、仲間をちゃかすようなそんな雰囲気だった。
「いい感じにまとめようとしてるけど、最後腹パンなんですよね」
「そういう関係も面白いだろ。少なくとも俺はな」
ぼすりと腹部に痛みを感じる暇も無く意識が遠のいていく。腹パン主人公とか新しいなーと思いながら視界の隅でぷぎゃーしてるミュモルに少々の苛立ちを感じながら僕の意識は暗転した。