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退廃した世界を渡る詐欺師  作者: 須賀いるか
一流の詐欺師
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Mストライカーその5

 ハンドルを大きく左に回しながら、軽くブレーキ。車体が横滑りし、それを追うように銃弾の軌跡が砂埃を上げる。カウンターをあてるとアクセルをべた踏みして積み上げられた土嚢めがけて突っ込む。

 ロボットものなのに主人公が車乗ってドラテク披露してるんですけどなにこれ、なにこれ。

「ミュモル、電子情報戦の状況は!」

「さっき相手から未来予測システムのリソースを根こそぎ奪い取りました。これから防衛に専念しますけどかまいませんよね」

 有視化したネットワーク状況がご丁寧に×マークからミュモルのドヤ顔で埋まっていた。電子妖精マジ有能。ミュモルからの報告に右手でサムズアップを僅かにしてグッジョブと返す。

「あとは毒を流しておしまいかな」

 土嚢を乗り上げたジープはその勢いのまま僅かの間、宙に浮き何度かバウンドした後、車体を安定させる。

 ぶっちゃけ、ここは戦闘の最前線だった。幸いというか両陣営の兵器は大破したものは無く、戦況は停滞しているようだった。

 どちらも戦力を出し惜しみしているのか・・・。仮想ウィンドウに映る弾影予測から逃げるようにハンドルを回し車体を左右に揺らす。

 とりあえず、これだけ派手な場所なら仮に僕向けの処刑部隊が投入されても簡単に仕事は出来ないはずだ。仮にスナイパーがいたところで爆風が飛び交う戦場でまともな狙撃など出来まい。アクセルを緩めながら周囲の状況を走査する。最前線といってもノーマルや突撃兵がいるような場所からは少し離れた場所のようだ。

『HQから前線部隊へ、これより砲兵部隊より支援射撃を行います。突撃に備えてください』

 耳元に透き通った声が聞こえる。電子情報戦で優位に立ったチャンスを逃すまいと攻勢に出るようだ。

 やばい、超癒される。ジープを停めるとハンドルに突っ伏したままオペレーターの声に見蕩れるならぬ聞き蕩れる。なんなら魅了されたり精神ポイントが回復する勢いだった。

「流ガレー、ばっちし鬼さんの追尾は続いてますよー?」

「撒いてないの?」

「ID特定されて撒ける訳無いじゃないですか、ダミーIDばらまくしかないって分かってるでしょう」

 ミュモルはむーっとむくれて僕を睨む。その動作がいちいちあざとい。可愛さアピールしすぎ。

「ダミーIDは無しだ。それよりシステムのリソースを相手に気づかれないように少しずつ返してあげて。そうだな・・・だいたい10分くらいかけて」

「なぜですかー?そんなことしたらまた膠着状態になりますよー」

「どちらかが勝ちすぎるのは良くないんだよ。僕の立場的に」

 ミュモルはやれやれといいながら、作業へと思考を移行させる。まぁ、僕の目の前でくるくる回っているだけなのだが。時折、ゆんゆんと呟いているが無視する。

 仮想ウィンドウへ視線を滑らし、支援射撃の着弾ポイントを頭の中に入れる。とりあえず、相手の兵器を一機鹵獲ろかくだ。敵側のアクセス権を手に入れないといけない。いくらハッキング出来るといっても最終的には物理に頼らなければならない。電子上で万能に出来る人もいるんだろうが、あいにく僕はそこまで優秀でもない。

 ジープの進行方向ををゆっくりと敵陣地へと回し、背中から響く轟音にあわせてアクセルを踏む。

 途端、目の前が熱と光で膨張する。

 続けて車体がビリビリとゆれる。

 土煙がフロントガラスを覆う。あわてる必要は無い、見えてないけど視えている。ヘッドセットから指示されるナビに従ってハンドルを回す。

 アクセルを踏んで30秒、ほぼ着弾地点を通過するタイミングで弾影予測が前と後ろから複数直線を描いて通過する、進路に変更は無い。

 しかし、土煙から飛び出した瞬間、跳弾した弾が右前輪を切り裂いた。

「んなっ」

 慌ててサイドブレーキを引くとスピンし始めるジープ。ドアに体を叩きつけられる。ほんの数瞬の間の出来事だろうが、体感にしてたっぷり10分くらいドアに叩きつけられ続ける。

 ジープが静止したところで助手席にあった小銃を拾い上げて逃げるように脱出。背後を振り返るとジープは黒い煙を上げていたが爆発したりはしなさそうだった。

 振り返るとノーマルが土煙を抜けて敵陣地へ射撃を行うところだった。そうかもうここは敵陣地、目的地だ。呼吸を整えながら低姿勢で岩陰を探し隠れる。通信機あたりが手っ取り早いが随伴歩兵は既に避難しているらしく敵ノーマルが殿を務めて機動防御に移っている。

 味方機の90ミリライフルが100m先の敵ノーマルに突き刺さり擱座かくざする。動力ラインまで突き刺さったのかそのまま何回か誘爆を起こした後黒煙を上げて動作を完全に止めた。炎上してはいるがコクピット周りは無事なようだ。

「流ガレー、相手にリソース半分渡したところで向こうからの反撃を受けてます」

「やばい?」

「やばいです。向こうの砲兵部隊が私たちに照準を合わせるよう準備してます」

 ぞっとした。すでに足は無く徒歩で逃げたところで高が知れているだろう。焼け石に水。数分後には僕を中心にクレーターが出来ていることだろう。死が迫る音が聞こえる。

 考えろ、考えろ、考えろ・・・やることがまとまらないまま、大破したノーマルへ走る。コクピットから飛び出る人影が見え、反射的に小銃を構えながら威嚇射撃を行う。相手は拳銃で応戦をする。

 逃げろ、逃げてくれ。そう願いながらミュモルに命中補正をしてもらいながら、相手が機体から離れるように1発1発を撃って誘導していく。互いに視線が交わせる距離でさらに射撃。相手は不利と判断したのか大破した機体の奥へと消えた。

「威嚇射撃、大好きですねぇ」

「ヘッドショットが好みなのかい、ミュモルは」

 お互いに軽口を叩きながら、ワイヤーガンをコクピット付近に射出、小銃を捨てると周辺の警戒を怠らずにワイヤーを巻き取りながら軽快に登っていく。

 登りきると、コクピットを覗き必要な機器を探す。ヘッドセットの補正で暗いとかそういう不便は無い。

「システムの復旧は無理そうだな。割り当てられてるIDだけ頂いていこうか。首尾は?」

「ウィルスの準備はしてますよ。相手のIDでもぐりこめるのならちょちょいのちょいです」

「・・・モジュラージャックは見つかった。接続する」

 事前にいくつかのツールを立ち上げた後、見つけたケーブルを左手のグローブの袖口に差し込む。

 権限の低いIDのようだが、取っ掛かりが見つかれば上位権限への変更などたやすい。電子情報戦で相手の作業を手伝うようなそぶりを見せて裏でウィルスをぶち込んでいく。

「ちなみに・・・毒毒いってますけど具体的には?」

「相手の未来予測システムの結果を20フレームほどまぁ0.3秒だわな。遅く表示させる」

 一見正しく動いているようで、実は気づかないレベルでは処理落ちをしている。紙一重で避けようとする熟練操縦者ほど被害がでる仕様。99の真実にたった一つの嘘。ついには相手は99の真実すら疑うようになる。一番怖いのは敵ではない、無能な味方だ。

 システムの不和は猜疑心を呼び、軍隊として成り立たなくなっていく。烏合の衆だ。

 一仕事終えて一息つくと大破したノーマルから脱出。レジスタンスの邪魔にならないように少し離れた場所で進軍するノーマルとその随伴歩兵を見送る。

「ゲストID捨てないんですか?絶賛位置情報を発信中ですよ」

「もー遅い。それにこれが無いと逆に助からなかった」

 仮想ウィンドウで拡大した相手後方陣地より迫撃砲が発射される。着弾まで3、2、1・・・

 飛来する榴弾を遮り、大型の人型兵器が轟音を立てて現れた。

 榴弾は人型兵器から少し離れた場所でまるで見えないガラスの壁に遮られるように爆発していく。

 本来ならば届きうる爆風はまるで無く、ただその光と熱が僕の肌をジリジリと焼いた。

 

 ストライカー


 光を手で遮りながらそれを見上げる。より人に近い人型機動兵器。ありとあらゆる物理攻撃を防ぐフィールドを持ち、一機で戦局をひっくり返す戦術兵器すら超えた戦略兵器。

朱鷺の羽足スカイウォーカー

 僕の傍でたたずむ20mの巨人の上を文字通り空を駆けていくもう一機のストライカーが目に映った。

『おっと、義理は果たしたぜ。回収班兼護衛班が直に来る。おとなしくここで待ってるんだな』

 仮想ウィンドウに依然見た炎のような赤髪の男が映っていた。呆然としている間に巨人は身を縮めると前方へと飛んで行った。

「あれが赤銅の鷹ドレスドハンターか」

 僕はそのまま地面にへたりこむ。そして思い出したように息を吐いた。

 こうして、僕の戦場は終わった。


電子情報戦についてはPCのスペック上昇でセキュリティの突破がたやすくなってます。あと割りと最近に導入された概念なので対応のほうが遅れているので、若干主人公無双になってます。

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