Mストライカーその4
あれから一両日が過ぎ、僕はレジスタンスに混ざってとある荒野へと移動した。かつてはユーラシア大陸と呼ばれた場所、その南西部にいる。ちなみに今は大陸とは呼ばれてはいない。所々が水没し、群島という表現をされている。
現在、レジスタンスの各員が世話しなく機動兵器のチェックや本部設営などの兵站の展開を行っている。ちなみに僕はお客さんなのですることもなくぷらぷらしていた。
既に戦闘自体は始まっているが、僕がいる場所は後方に位置するため静かなものだった。といっても、30キロ先では曳航弾の軌跡やミサイルの噴煙が飛び交っているので精神上はそう穏やかでもない。
「流ガレー、これはどういう戦争なんです?」
「憶測だけど、こないだ輸送トラックが襲撃されたでしょ。それの報復かなー」
自身にも原因があるが敢えて悪びれずにミュモルに答える。それにこの戦闘自体は向こうにとって有益なものだからと付け加える。
都市は面子を守るため、宙人は戦争を求めてこの戦闘を故意に起こした。ただ、レジスタンスとしてはこの戦闘は想定していなかったはずだ。あのスキンヘッドの男も攻勢に出るつもりで準備をしていたはずだが、奈ミねーちゃんがレジスタンスの場所をリークしたのだろう。
結果、都市の威力偵察部隊との遭遇戦となってしまった。証拠に本部の設営すらままなってない。この分だと電子情報戦もしっちゃかめっちゃかになっているはずだ。
「護衛殺し、悪いが出番だ」
振り返ると渋面したひょろ長い男が立っていた。僕は彼の遥か後ろで大声を張り上げているスキンヘッドの男と視線を交わす。ああ、実技披露サービスね・・・奈ミねーちゃんはここまで読んでいたのか、と毒づきながら目の前の男の肩をつついた。
「いいよ。電子情報戦のお手伝いで認識はあっているのかな」
「ああ、ゲスト用にIDを用意してある。それをつかってくれ。僕は現場のほうに戻るから」
男はポケットから指先ほどのサイズの黒いチップを押し付けると、スキンヘッドのほうへと走っていった。
僕は受け取ったチップを指ぬきグローブの袖口に付いてあるスロットへ差し込む。
・・・ID認証、現状確認。ネットワーク構築に失敗。各無線および弾影補足システムにエラー。敵性因子に情報取得はされてない。仮想CUIを叩きながら現在の状況を確認する。
戦闘が高機動兵器がメインになってから人間の知覚では補足、迎撃が追いつかなくなりコンピュータによる未来予測へ頼ることになった。実際にそれを導入した兵器は被弾率、命中率が向上したらしい。より正確な未来予測を行うためコンピュータの機能向上、処理分散が行われ続けた。
結果、兵器はスタンドアローンでは立ち行かなくなった。そしてそのシステムへ一石を投じたのが電子情報戦という概念。要するに、未来予測をさせないように邪魔をしようということだ。
そして今、電子情報戦はレジスタンスが圧倒的に負けている。前線で戦っているメンバーにしてみれば目隠しで戦場にいるような状況だろう。とりあえずは強引に掌握されたシステムを取り返す。
僕はヘッドセットから映る情報を目で追いながら、右手で情報系のシステムの復元を行いながら左手で残りのシステムを防衛すべくウィンドウを操作、ツールをつかってファイアウォールを構築する。
『こち・・ザザッ、救援・・・』
無線関連のシステムが復旧したのか、前線で混乱した人間がオープンチャンネルで叫んでいるのを拾うことが出来た。視線を仮想ウィンドウへ向け、不要になった処理を逐一終了させていくが、一部処理が固まったまま命令を聞かない。
無言のまま舌打ちをすると、レジスタンス専用のチャンネルへとつなぐ。
『ゲスト1からHQへ、しくじった。足をもらう』
言うが早いか、あたりを見渡して立てかけてあった小銃を引っつかみジープへ転がり込む。
銃床でエンジンのスイッチ部分を破壊すると小銃を助手席に放り投げ、むき出しになったプラグを強引につないでエンジンを始動させる。周りから静止の声が聞こえるが無視してアクセルをべた踏みして、進行方向を前線へとむける。
まずいまずいまずい、しくじったしくじったしくじった・・・。頭が真っ白になる。強引にシステムを掌握するということはばれる危険性をはらむ。分かっていたことだ、ただ、相手が奈ミねーちゃんならこの状況は無いと踏んで行動したのが間違いだった。出来レースだと勘違いさせられた。
奈ミねーちゃんの掌ですべてが転がされていると勘違いしていた。あの女はレジスタンスへ優秀なスタッフの紹介、企業への情報提供。そこまでのおいしい部分しかすくい取ってなかった。最後の後始末、つまりこの遭遇戦まではフォローしていなかった。
僕は企業側の電子情報戦を担当しているのが奈ミねーちゃんだと勘違いしていた。だから出来レースだとそう思い込んでリスクを捨てていたが、違った。いま相手にしているのは同業者だ。恐らく今頃はゲストIDから割り出した位置情報を逆探知して、兵隊を送る手はずを行っているところだろう。
そうなる前に逃げる手段を確保しておく必要がある。昔孤児院でやんちゃをしていた時に体で覚えた条件反射のようなもので、迅速に手段は選ばず・・・。
僕が冷静さを取り戻したときにはジープをかっ飛ばしていた。