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退廃した世界を渡る詐欺師  作者: 須賀いるか
一流の詐欺師
3/58

Mストライカーその3

「知らない天井だ・・・」

 人工灯の光を睨んだ後、首を横に向けると淡いクリーム色で塗りつぶされた壁があった。

「お目覚め?気分はどう」

 涼やかな声が白いカーテンの向こう側から聞こえる。

 カーテン越しに見える椅子に座ったシルエットは立ち上がると、つかつかと歩きカーテンから顔を覗かせてきた。

「最悪です。おねーさんの胸で5分くらい泣かせてください」

 ゆるりと上半身を起こすと、ショートボブで黒縁メガネをかけた白衣の女性に請願する。

「うんうん、若い子は回復が早いね。回収班の人が小憎たらしいガキだから3割増しにしておいたって言うから心配してたけど、冗談が言えるようなら大丈夫そうね」

 保険医のおねーさんは僕の右手を取り脈をはかり目を覗き込むと、うんと頷き傍の丸椅子に座った。

 質問は?と言いたげな保険医さんを見た後、周りを見渡す。ヘッドセットと指ぬきグローブは近くのアルミ製のチェストの上に雑に置かれていた。

「・・・仕事の内容と期日を」

「君はとても優秀だねぇ。ここはとか、あなたはとか、普通聞くでしょうに」

「どうせ場所も名前も教えてくれないでしょう。外部の人間に取っ掛かりを与えるのは不味い」

「・・・ほんとうに可愛げのない子ね。回収班が小憎たらしいって愚痴ってた意味が分かったわ、納得」

 ヘッドセットと指ぬきグローブを装着しながら、淡々と会話を進める。

「さっき担当を呼んだから、直来るはず。それまでこのベッドは使っていいよ」

「胸で泣かせてはくれないんですかー」

 椅子から立ち上がり事務作業に戻ろうとする保険医へ話をぶり返してみたが、癒し顔スマイルでスルーされた。

「流ガレー、私の胸で泣きますかー?」

「本体に母性を感じないからなー、お前は」

「むむ、おっぱいは大きいですよ。Eカップです」

「母性は胸じゃねーよ」

 2頭身のミュモルが慰めてくるが、受け流す。ベッドの足元にあるジャングルブーツを履きながらどうでもいい知識が1個増えたなー思う。ふむ、Eカップか手に余すな・・・

「ちなみにおっぱいスライダー機能が実装されてるので可変可能ですよ」

「無駄に高性能だな!」

 しょうもなさ過ぎて、思わず突っ込む。ちなみにこの会話は指向性でやり取りされているので他の人には聞こえない。ミュモルが処理しているらしいのだが本当に無駄に高性能だと思う。

 靴を履いて準備完了してからたっぷり10分ほど待った後、ドアの開く音がした。次いで足音がこちらへ。お迎えらしい。

「よぉ、待たせたな」

「だいじょうぶ、今来たところだから」

 180センチを超える偉丈夫にテンプレ会話で回答すると、男は片眉を僅かにあげるとすぐさま方向転換し、抑揚のない声で付いて来いとだけ言ってドアのほうへ向かう。・・・すべった。

「ふぇ~、マッチョですね。僧帽筋すごいです」

 部屋を出ると、コンクリートがむき出しのままの壁とリノリウムの廊下があった。男の足取りに迷いは無く、後ろの僕に気にすることなくずんずんと進んでいく。

「わっ、流ガレ。消火器ですよ消火器。初めて見ました、年代物ですよ~」

「廊下を照らしてるのは白熱電球ですか~。戦前でも見かけなかったレアものですぅ」

 ミュモルはせわしなく動きながら物珍しげに周りを見渡し、逐一報告してくる。

 5分ほど歩くと、男は立ち止まりドアを指差す。入れということだろう。特に警戒もせず促されるままにドアを開けて部屋へと入る。男のほうは案内は終わりとばかりに何も言わず、足音だけが遠のいていった。

 再び部屋へと意識を向ける。せいぜい2平米くらいだろうか、真ん中にステンレスの机、奥には一人の男が座っており、やや離れてその後ろに二人の男女が並んで立っていた。

「君が≪ 護衛殺しガードイーター≫かい?」

「噂が広まるのは早いこって。少し前は≪ 葉月の後継者ジ・レジェンド≫の弟子って呼ばれてたのに」

 座っていた男が向かいにあるパイプ椅子に薦めるので、軽口を叩きながら座る。

 目の前の男は首の皺から見て初老といったところか。しかしながら外見のほうはずっと若く見え、筋骨隆々の上半身、スキンヘッドの頭と左頬に付いた傷跡が目に付いた。なんなら、お友達(物理)とか繰り出してきそうだった。

「まずは部下の非礼を詫びよう」

「ここを知られる可能性を排除するのなら、ボディチェックと目隠しで許容出来ましたしね」

 男は抑揚のない声で言い、僕が嫌味半分に言葉を付け足した。

 それよりも・・・と、僕は机に頬杖を付きながらだるそうに言った。

「ビジネスの話をしましょう」

「まぁ、そう急くな。少しばかり世間話をしようじゃないか。君にとっても悪くない話だと思うが?」

「なるほど、経済の話でもしましょうか、プロートスなんてどうです」

 プロートスとは宙人のとある1企業を指し、僕が住んでいる都市のパトロンをしている。地上にある大抵の都市は宙人の企業から保護を・・・細かいことは省くが、汚染された地上で生活するうえで必要な物資の提供を受けている。

「宙人の話は好かん」

 男の怒気のこもった声に苦笑する。デスヨネー、良く考えたらレジスタンスとかいってたもんねー、宙人と戦ってるんだもん世間話でだす話題じゃないわな。

「じゃあ、そうですね。後ろの二人を紹介してくれませんか?」

 僕はにやにや笑いながら言う。対称に男の顔に驚きの表情が浮かぶ。男からしてみれば見えないように設定されてあるはずの二人の存在を指摘されたのだから。

「いつから・・・」

「最初からです。既にここのシステムは掌握しています。もちろん誰にも気づかれないように」

 俺Tueeeeと、ドヤ顔で言ってみる。二人が見えているのは本当だが、システム掌握うんぬんは嘘だ。嘘の中にたった一つ本当のことを混ぜるだけで相手はすべてを真実だと疑う、相手の反応が面白い。

「どうです?面白い世間話でしょう」

「・・・オヤジ、こいつはダメだ。アンタとじゃあ相性が悪すぎる」

 後ろに立っていた男が沈黙を破って助け舟をだす。部屋の奥から歩いて僕の隣に立つと、炎のような赤髪と金の双眸がこちらを値踏みするように嘗める。

「アッ・・・、あなたも駆け引きは得意でないでしょう」

 セミロングの赤髪と銀の瞳の女が男の腕を引っ張り、僕から遠ざける。ふむ、どちらも腹芸に長けているようには見えない。

「紹介していただけますか?」

「悪いが無しだ。Mストライカーのパイロット・・・ネクストなのは気づいているだろう。それで勘弁してくれないか」

 不自然な髪と瞳の色は強化人間ネクストの証。

 Mストライカーと呼ばれる機動兵器はその機動性から人の身で制御することは出来ないといわれている。体を改造し強化することがその力を発揮するために必要な処置だと僕は聞いている。

 そして総じてMストライカーの搭乗者を人々は畏敬の念をこめてネクストと呼ばれている。

「りょーかい。それで僕の腕については確認できました?」

「ブラフにハッタリ、そして何より人を食ったその態度・・・合格だよ。いや想像以上といってもいい」

 ばつが悪そうに男は破願する。お手上げということらしい。正直面倒くさい。ビジネスライクな付き合いでいいじゃん。ダメなの?

「最後に・・・今回の依頼は近日中に起こるいざこざの見学だ。どうだ、安心したか?」

 僕は男の問いには答えず、席を立った。やはりあの女は最悪だ。


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