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退廃した世界を渡る詐欺師  作者: 須賀いるか
一流の詐欺師
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Mストライカーその1

初投稿です><

「仕事よ!」

 勢い良く、ドアを開け放ち女性と思われる澄んだ声が頭の上から降ってきた。

 僕は仰向けに寝転んだまま僅かに首をひねりその声の主を半眼で見やる。

 不自然な程、鮮やかな青色の髪をピンク色のシュシュでまとめ背中半ばまでたらし、髪の色と同じ勝ち目な眉を吊り上げ、鮮やかな紅色の瞳がこちらを見下ろしていた。

 働きたくないなぁ・・・。その意思を汲み取ったように体は動き、自然とまぶたを閉じた。

「仕事よ!」

 土足のままツカツカと歩み寄り、先ほどより大きな声で同じ台詞を女性言う。まぶたを開けると、鼻がくっつきそうな距離まで覗き込んだ紅色の瞳と目があった。

 ああ・・・これはダメなやつだ。

 付き合いはもう十年以上。冗談と本気の違いなんか目を見れば分かる関係だ。そしてこの目の光具合は往々にして僕に災難しかもたらさない。ついでに言えば、冗談の場合でも災難しかもたらさない。なんなら災難しかもたらさないまである。

「今回の仕事は、宙人そらびとへの反抗を行っている・・・つまり、レジスタンスというやつかしら、そいつらへの支援ね」

 彼女は僕が視線を逸らすと、満足したようににんまりと笑うと近くにある机に腰掛け、茶色で編み上げのロングブーツをプラプラさせながら言った。知ってたけど拒否権は無かったらしい。知ってたけど!

 ちょっと己のヒエラルキーの低さ加減に切なさを覚えながら、彼女の言葉を反芻する。

 宙人・・・30年くらい前の戦争で汚染された大地を捨て、上空1万mに浮かぶ都市に住む人間。

 一度、警備のざるさを確認するために観光しに行った事はあるが、住みたいと思う印象はなく只ひたすらに窮屈だった思い出しかない。

「足は用意してあるから、出発は明日の午後。クライアントには流ガレ。あんたの写真を送りつけてあるから、運がよければ打撲程度の軽症で現地へ拉致・・・案内してもらえるはずよ」

「相変わらず、下衆いなぁ、奈ミねーちゃんは」

 体を起こし、人間をダメにするという兵器、炬燵から抜け出す。さようなら、ぬくもり。こんにちは血と暴力の世界。

 名残惜しそうに炬燵を見ていると、ふよふよという擬音がぴったりな感じで、空を泳ぐようにというか、実際泳ぎながら、2頭身のデフォルメされた人形的なものが視界を横切る。

「流ガレ、流ガレー。れじすたんすってなんですかー?」

 甘ったるい声で緑の髪と緑の瞳をこちらに向けて、それは聞いてくる。説明が面倒なので、視線を奈ミねーちゃんに向けると、それもまた、奈ミねーちゃんへと視線を向ける。

「んー、自分達を勝手に底辺人ボトムズとか卑下して、不満を宙人にぶつけてるクズかな」

 奈ミねーちゃんは小首をかしげて、笑顔で言った。言い切った。

「なるほど、くわしく」

 返答に不満そうな表情をうかべた愛されマスコットの言葉を引き継ぐように問う。

「宙人の財閥や企業による地上での代理戦争を忌避した連中ってことよ」

「なるほど、たのしく」

「宙人さん達の~♪陣取りげ~むにボクも参加したいっていうおバカなDQNちゃん♪」

「なるほど、やらしく」

「宙人のォ~財閥や~(はぁん)、企業による地上でのォ~、代理戦争を止めたい子羊ちゃん・・・」

 奈ミねーちゃんは台詞の途中でかぁーっと顔を赤めると、僕を鋭い眼光で睨む。ノリのいい姉で僕としてはとても満足である。

「仕事は分かったよ。けど、そんなのメールでいーじゃん」

 まだ赤面したままの奈ミねーちゃんを下から上までなめる様に見る。小麦色の肌を上半身はへそだしの緑を基調としたタンクトップでこまごまと刺繍の入ったものを、下半身は橙色のロングスカートを一部腿まで引き裂き動きやすさに重点を置いたものを身に着けている。

 出るトコはでてるし、引っ込むところも引っ込んでいる。身内びいきだが顔も悪くない顔面偏差値65くらいはあるはずだ。

 なのに・・・青い髪と紅色の目を見ると、苦いものがこみ上げてくる。

「せーぞんかくにんのついでよ。いいでしょう、愛しのおねーさまが直接会いに来てあげたんだから」

 ねーちゃんはこの話はおしまいといわんばかりに、机から降りると炬燵へ足をつっこむ。

 ああ・・・こっちが本命か。苦笑いしつつ僕も再び炬燵へ足を突っ込みなおした。

「流ガレ、私は使います?」

「使わないよ。ミュモル」

 炬燵の台に軟着陸した2頭身の人形に笑いかける。正式名称はMMRMらしく、ミモルミと発音するらしいのだが噛みやすいので今はミュモルと呼んでいる。

「変わった電子妖精よね、触れるし私でも見れる」

「なんせ僕は稀代のスーパハカーだからね」

 ミュモルの頬をうりうりしながら、表情をとろけさせているねーちゃんに冗談とも取れる声色で僕は答えた。

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