表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

序章

序章

 

 たくさんの人々が行き交う商店街には常に活気があった。魔族、神族、龍人族、その他の人。それぞれの種族ごとに区分けされた彼ら彼女らが唯一交流を持てる場が、皇宮の正面に位置するここ商店街なのだ。

 そんな商店街の中ほどに、繁盛しているわけでは無いが困窮しているわけでもない、一件の花屋があった。他の店々と同じように、その花屋の前でも客の呼び込みを行っている娘がいる。

 花屋『七色の麗花』。店主の奥さんが花が好きだったことで始まったその店の前には、白い衣服を纏った少女の声が響き渡る。

「よってらっしゃいみてらしゃーい! 花屋『七色の麗花』にはあらゆる種類の綺麗で美しい花々が置いてあるよー! 見て行かなきゃ損! 買ってくれるとこっちがラッキー!」

「シルト、その呼び込みじゃお客さん集まらないんじゃ?」

 シルトと呼ばれた少女の呼び込み法に疑問を呈してながら店の奥から出てきたのは、この店の店主でもある大柄な男だった。

「あ、店長! おはようございます!」

「はいおはよう。今日も元気だね、シルトは」

「えへへ。わたし、元気だけが取り柄ですから」

「そうかい? でも、呼び込みにはもう少し工夫した方がいいかな」

「そうですか? ではそうしますね」

 シルトは笑みを溢し、再び呼び込みへと戻る。

 台詞は、先ほどとあまり変わっていなかった。そのことに、店長の男は苦笑を溢すしかない。




 後宮からほど近い場所にある、魔族、神族、龍人族以外の者たちが暮らす区画にある学校の教室で、彼女は頬杖を付き、溜息を吐いていた。

「またサボりか、あいつ」

 少女は髪の毛先を指で弄びながら、ちらと教室内を見回す。

 始業の鐘が鳴って既に十分が経過していた。担当教師による朝礼が終わり、もうすぐ一時限目が始まろうというのに待ち人は今だ現れない。そのことにイライラしながら、もう一度溜息を吐く。

「また旦那さんの心配ですか?」

 隣の席の友人が、茶化すようにして訊いてきた。違う、と言いたかったが、おおむねその通りなので旦那さんという部分だけ否定しておいた。

「またサボる気よ、あの馬鹿」

「まあまあ、イザナギが彼のことを心配するのも分からなくは無いよ。何せ、入学式の日から通算してもう一ヶ月も学校に顔見せてないもんね」

「そうなのよ。どうするつもりかしら」

 イザナギと呼ばれた彼女は、三度目の溜息を吐いて、窓の外を見上げた。

 あの、馬鹿。




「お姉様、こちらの書類への捺印がまだです」

「すまん、こっちが終わったらすぐやる」

 差し出された書類の束を乱暴に受け取り、無骨な甲冑姿の女は手にしていた印を押した。

「そちらは違う書類です」

「ああ、どうしよう!」

 眼鏡を掛けた女に言われ、甲冑姿の女は頭を抱えた。

「時間もありませんし仕方がありません。このまま出しましょう。先方には私から説明しておきます」

「すまんな、助かる」

 彼女たちは忙しそうに、せっせと仕事をしていた。




 『天国』を囲うようにして建つ高い壁の縁に、その人物は立っていた。黒いマントと黒い先の折れた山岳帽子を目深に被り、まるで忌むべき宿敵でも見下すように、『天国』を見下げている。

「……ここが、そうか」

 その人物はほとんど口を動かさずに呟く。

通りを行く人の群れ。楽しそうに笑い声を発する子供たち。その全てが、その人物に取って嫌悪の対象だった。

「平和ボケしている」

 その人物は壁から真っ逆さまに、身を投げ出した。




 心地よい風が吹いている。二度寝には最適だと言えるだろう。

 少年は河原に寝そべり、憚ること無く欠伸を漏らした。それから、目を開けて流れ行く雲を見上げる。

「……いい天気だ」

 こんな日は、何かいいことがありそうな気がする。

 そんなことを考えながら、少年は静かに目を閉じた。

?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ