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プロローグ1「魔王城の決戦?take1」

 その日、フィーゼグラン領を南下した先に広がる不毛の地、魔と暴力が支配する暗黒の領域において、一つの決戦が行われようとしていた。


 黒々とこもった雷雲に、稲光が竜の姿となって閃く。

 突き出した岩が針山のごとく、天然の要塞としてそびえたつ魔王城。常人が見ればそれだけで不吉の想いが胸をすく悪の居城に、威風堂々と勇者の一団が乗り込んだのだ。


「うおおおおおおっ、唸れ、ヴェーゼ・ボル・ディンガー!」

 愛用する剣の名前を高らかに、先陣をきるのは勇者タナカ。


「……タナカ、その叫ぶのはどうにかなりませんか」

 大振りに彼が魔物を斬り捨てる、その隙をつかれないよう沈着な眼差しで脇を固める戦士クリナダ。


「勇者様、クリナダ。おさがりを。中級雷撃きます。耐属支援、発動まで五拍」

 二人の後ろには支援態勢に抜かりのない僧侶パフェが備え、最後尾では魔法使いナナイが広範囲呪文の詠唱をはじめている。


 剣、剣、僧、魔というオーソドックスなパーティ構成は、だからこそどのような事態にも対処が可能だった。数ある「勇者ご一行」のなかで彼らが魔王城までたどりつけた理由には、個々の能力というよりむしろ彼らのもつ柔軟性の高さがあげられるだろう。


 直情的な勇者が切り込み、戦士が冷静にひらかれた突破口をえぐり、広い視野をもつ僧侶が弱点を見定め、満を持して魔法使いが殲滅する。

 彼らがひよっこの頃から積み上げてきた連携は、いまや熟練の域に達していた。


 阿吽(あうん)の呼吸をかわし、目と目で互いの意図を悟る。

 ほとんど反復作業のように息つく間もなく繰り出される攻撃には、屈強な魔王城護衛の魔物たちといえども抗いようがなかった。


 くわえて、襲撃は彼らにとって完全なる不意打ちだったものだから、


「おい、勇者連中が突進してきてるぞ! 門番、なにやってんだ!」

「あいつらならとっくにこんがりローストされていい匂いだよ! いいから数あつめてこい、点呼とれ! ああもう、中隊長はどこだよ!」

「あ、隊長ならさっき裏の湖にいったよ。水浴びしてくるって」

「勘弁しろよ、そんなんでシユ様に怒られるのは俺たち――ぎにゃあああ!」

「モーゼフ! モーゼフ!? ちくしょうしっかりしろ! お前、家で子どもが生まれたばっかりじゃねえか! お前に似て不細工なやっ子がよぅ……!」


 いたるところで阿鼻叫喚の悲鳴があがる。

 正義の名のもとに行われる殺戮に、魔王城は文字通り地獄絵図と化していた。


「ちぇ、ろくなもんねーなぁ……」

 フロアの魔物をひととおり全滅させたあとは、金目になりそうなものを物色しはじめる勇者。室内の物入れはもちろん、腰袋からなけなしのお小遣いまで奪っていく鬼畜ぶりである。


「うわ、71ゴールド。魔界も不景気だなあ」

「勇者さま、はやくいこーよー」

「あいよー」

 千年を生きる精霊によって鍛えられたという神剣ヴェーゼ・ボル・ディンガー(血のりべったり)を肩にかつぎ、歩みさる勇者タナカの背後にはもはや物言わぬ屍の山が積み重なっていた。



 魔王城奇襲は彼らのペースで行われた。

 とはいえ、奇襲という認識は勇者一行にはない。


 彼らは自分たちの使命を信じて悪を討伐にきたのだから、そこに正もなければ奇もなく、卑怯もへったくれもあるはずがなかった。

 扉をひらいてすかさず破壊魔法を投げ込み、背中をみせる魔物に容赦なく切りかかるのも当然。彼らは人間のために魔王を倒しにきている。

 勇者たちは人間の味方で、人間の見方だった。


 そしてもちろん、魔物たちには魔物たちの見方がある。

 彼らは突然の襲撃に驚きあわてながら、即座に近くの仲魔たちと連携をとり、もはや助からない味方を涙を流しながら見捨てて後退し、反攻に適した場所で防衛陣をひいて、


「ぎゃー」


 あっさりと粉砕された。


 一文で語り尽くされる彼らの活躍を、ふがいないとののしるのはいささか酷かもしれない。

 魔物たちにとってそこはあくまで住むための居城なのだ。あとで困るのは自分たちなのだから、好きなように暴れられるわけではない。


 一方の勇者たちにとっては、そんなことはおかまいなしだった。

 魔王を退治したあとにここに住み着くわけでもない。城ごと瓦解(がかい)してしまえというほどの暴論の持ち主は幸いにもまだ現れていなかったが、多少の乱暴は気にしなかった。


 結果、消極的な攻撃手段しかとれない魔物たちと、おかまいなしに高威力、広範囲の攻撃をとる勇者一同という形になる。


 もちろん魔物たちの方でも心得たもので、城内には彼らが少しでも力を振るえるように設計、建築された「戦闘用スペース」が確保されていたりもするのだが、今回の場合、そこに魔物たちが集結するよりも勇者達の侵攻が迅速で、かつ容赦がなかった。



 それから約一刻。


 破竹の勢いで突き進んだ勇者タナカ一行は、結局、抵抗らしい抵抗にあわないままに魔王城の深奥、おどろおどろしい意匠の大扉の前に辿り着いていた。


「……あといってないのは、この奥か」

 小さく呼吸をととのえながら、勇者。城中をかけまわっていた彼だが、疲労はない。HPは回復済み、MPもこの日のためにとっておいた回復薬を惜しげもなく使って充填ずみである。


「見るからに、という感じだな。正直ここまでは、このあいだのダンジョンのほうが歯ごたえがあったが」

 とりだした布で刃の血をぬぐいながら戦士が言うのに、回復魔法を終えた僧侶が同意した。

「油断していてくれていたようですね。うまく不意をつけたのでしょう」


「あー、きっもちよかったあ。やっぱり広範囲のをぽんぽん使えると、スカッとするよねえ」

 幼い魔法使いのナナイがご機嫌なのは、日頃は周囲への環境を考えて控えるような破壊魔法まで雨あられの如く使用したからだ。

 さすがに城ごと崩壊するのを危惧した仲間から制止されて、彼女はけろりとして答えた。「そしたら、テレポートで逃げればいいじゃん」。げに恐ろしきは無垢な幼女である。


「まあ、なんだかんだでここまでこれたんだ。いこうぜ。俺たちが世界を救うんだ」

 きりっとした表情で語りかける勇者タナカはもちろん真剣そのもので、彼の仲間も誰一人して彼を笑おうとはしなかった。


「……お前たちとパーティを組んで二年になるか。長かったな」

 戦士が感慨深げにつぶやく。僧侶が穏やかに微笑んだ。

「懐かしいですわね。酒場で、誰からも声をかけられずにパーティも組めなかった私達でしたのに。よくぞここまで」

 小さな魔法使いは小憎たらしく片目をつぶってみせる。

「あったしはそんなことないけどねー。まあ、タナカっちが可哀想だから、はいってあげたけど!」


「よく言うぜ。酒場の連中にからかわれて泣きかぶってたくせに」

「な、泣いてないもん!」

 頬をふくらませる様子は年相応に可愛らしく、彼らは自分たちが今いる状況も忘れてしばし笑いあった。


 ひとしきり笑みがおさまったあと、勇者が息をはいた。表情をひきしめる。

「――うっし。じゃあ、いくか。最後の戦いだ」


「我らに勝利を」

「人類に平和を」

「あたしたちに栄光を!」


 先頭に立つ勇者が扉に手をかけた。

 重く、冷たい扉にひるまず、意を決して押し開ける。



 荘厳(そうごん)な楽の音が彼らを迎えた。


 広い、とても広い空間。

 闇がいちだんと濃さを増したように、そこには濃密な気配がただよっていた。

 壁には充分な量の灯りがともされているのに、なお暗い。それは奥に進むにつれてさらに深みを増しているようだった。


 ごくり、と鳴ったのどは勇者たちの誰のものか、あるいは全員か。

 それまで数知れない死闘を経験してきた彼らだからこそ理解していた。

 ここにいるのが、つまり『最後のボス』なのだと。


 勇者が一歩を踏み出した。

 仲間たちを励ますように、自らの在り方を示すように。

 男の背中を眺め、それに続く彼らの背後で、ひとりでに扉が閉まった。


 びくりとそれに驚いてとびあがる魔法使い。幼い彼女の瞳には涙がたまっている。豪奢な杖を胸にかかえ、仲間たちに寄り添った。

 戦士と僧侶もさすがに緊張を隠しきれない様子で、薄い呼吸を繰り返している。不安、恐れ。闇にはまるでそれ自体に魔力がこもっているように、彼らの精神を蝕んでいった。


 人は闇を恐れる。

 見えないものに、そこから手を伸ばすものに、どうしようもなく恐怖してしまう。


 だからこそ。三人の前に立つ勇者は、決然としてその闇に立ち向かう。

 力でもなく技でもない。

 その在り方こそが、彼という存在の証明である。


「光れ、ヴェーゼ・ボル・ディンガー!」

 高らかに吠える声に応じて、神剣が清浄な光を放つ。

 闇夜を照らす一条の光の柱。それは不安や恐れを払い、同時に奥に佇む存在の姿をも露わにした。


 訪れる者を迎えて、謁見する玉座の間。

 闇をまとった存在が、そこに腰をおろして勇者たちを見下ろしていた。


 男は醒めた眼差しだった。

 男は疲れた風情だった。

 男は魔力の塊だった。


 あまりにも自然体の、まるで気負いのない態度に、相対する勇者たちは声もなく見上げる。

 玉座の男は迸る光をわずらわしげに見たあと、さっと手を振る。

 たったそれだけの動作で勇者の持つ神剣の光が消えた。


「な、ヴェーゼ・ボル・ディンガー!? どうした、ヴェーゼ・ボル・ディンガー!」

「……騒ぐな」

 うるさそうに男が言った。

 ぎり、と奥歯をかみしめて、勇者は玉座の者を睨みあげる。


「貴様は……!」

 半ばでつまってしまったが、一応は段取り通りの勇者の台詞に、男は満足げに笑みを浮かべ、小さく深く息を吸い込んだ。

 楽の音が盛り上がりを見せる。その一番の機をはかって、口を開く。


「――ようこそ、勇者たち。私が魔王城の主、魔王クリャウフジルであふ」


 壮絶な沈黙が落ちた。



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