―0― 赤の世界
「剣―ツルギ―」を開いてくださり、ありがとうございます。
この物語は学校もので、ファンタジーのようでファンタジーではなさそうです。実際の中学校生活風景とは何の関係もありません。
まだまだつたない文章ですので、感想・アドバイスなどいただけましたら幸いです。
日々精進できるよう頑張りますので、どうかお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。
赤い。
空も。星も。大地も。
ぼうっと突っ立っているだけの自分の周りは、全て赤だった。
夕焼け。
きっとそうなんだ
これだけ綺麗な赤って、夕焼けしか知らないから。
真っ赤な大地で寝そべった自分を、真っ赤な二つの星が見下ろしている。
不思議だった。
世の中全てが、赤く変わっていただけの世界なだけなのに。
―0― 赤の世界
時々、予知夢というものを聞く。その度に在人が感じるのは、ただの夢だろうという事だけだった。ついでにその予知夢で、うちの両親が生まれてくる子を女の子だと察してくれていたら、こんな男の子みたいな名前じゃなくてよかったのにとつくづく思う。
しかもこの名前のおかげで、校内合唱コンクールではいつも「あんたアルト担当ね」と固定されっぱなしだった。理由は単純。声に出した時にこんがらがる事がなくて済むから。
しかも名前のおかげであだ名なんて苗字の八月朔日にちゃんとかさんとかつけただけだし、挙句の果てに簡単に呼べるからとあーちゃんなんて言われる始末。
もっと女の子らしい名前がよかったと思う日々に、両親は男でも女でもこの名前をつけていたと自信満々に言ってくるから、腹が立つ。
「きりーつ」
それを授業が終わる直前までリフレインしていた自分も、本当にどうかと思ってしまうけれど。
「気をつけー。れーい」
周りで真面目な連中が「ありがとうございました」と、きちんと声に出しているのを聞きつつ、在人はただ黙礼だけ。
これでようやっと家に帰れる。名前でからかわれる事もない。
いつも思うのは、やっぱりこれ以外なかった。
この世界で魔法が使えたら。
そうであれば、きっと自分は周りの連中を黙らせられたんじゃないかって。
いつも馬鹿にしてくる男子だって自分が女だからというレッテルも気にせずぶっ飛ばせただろうし、嫌味たらたらな女子の陰口だって逃さないし、授業に出なくったって家から学校の好きな授業だけを覗く事も出来たかもしれない。
荷物をまとめ終えて席を立とうとした時、上昇した頭に衝撃を感じた上に舌を噛んだ。
「いっ!?」
「ちーっす、在人。一緒帰ろ」
後ろを振り向けば、茶髪をポニーテールに結わいた友達が笑顔を向けている。焦げ茶色の瞳が綺麗なのに、ちゃっかり選んだ部活は可愛らしい容姿とは相反して柔道部な香奈に、目が細くなる。
「そりゃいいけど……舌噛んだ」
「おー、おめでとう」
「どこがめでたいんだよどこが!」
「ほらほら、そんな男勝りな言葉遣いしてちゃダメでしょ。いつそんなの覚えたのかお姉ちゃん不思議ー」
「男勝りで結構、名前から既に男だよどうせ! ついでにあんたとは血ぃ繋がってない!」
だから手芸が趣味だって言えなくて趣味変えざるをえなかったって分かってんのかこいつは! そう吠えたくなるのを必死に我慢。香奈は笑い転げているけれど。
「ほらほら落ち着け落ち着けー。今日も心理テスト持ってきたから」
「……あんたがやりたいだけでしょうよ」
脱力。しかし香奈は取りとめもない性格は変える気がないようで、こちらの疲れなど気にもとめずに続けてくる。
「なんかねー、在人が好きそうな幻想系なんだよね」
「……幻想、ねぇ」
実際に好いているかと言われれば、どちらでもないのに。ただちょっと詳しいだけで。
香奈は校則違反のはずのポニーテールを先生の前でも直す気がないようで、在人は怒られる前にさっさと帰路に着く事にする。……心理テストをやると言っても、結局我が家での話だから。
帰りしなに心理テストの内容を聞いていると、こんな感じだった。
人には言えない秘密があるとか、逃げたくても逃げられない状況とはどんなものかとか、猫が急に喋りだした。どんな猫か、とか。
「極めつけはやっぱり、『名前に意味はあるのか』だったかなぁ。訳わかんなかったんだけど、在人ならどんな目的の心理テストか分かる気がして」
「全部見ないとなんとも、かな。しっかし、よくそんなの見つけたね。聞いてる趣旨が全く見えないような心理テストなんて、ネットでもランキング、結構下の方でしょ」
体育以外の成績は割と中の上以上であるためか、よくこんな相談も受けてはいる。心理学を独学で少しかじったからかもしれないけれど。
特に香奈は自分の気が向くままにものを見つけては、自分によく見せに来て「これってなんだと思う?」と聞いてくる。その度に答えるのがクイズ形式のようで楽しいと言えば楽しいから、在人は今回のテストの趣旨が見えない事がやや悔しい。
「うん、人気ない順で探して一番に出てきたよ」
「……逆に作成者を褒め称えるよ。で、サイトのアドレス知ってるの?」
ばっちりと手で示す香奈を見て、在人はにやりと笑った。
「解いてやろうじゃん、その心理テスト」
「在人って本当悪役似合いそうな笑い得意だよねー。お菓子とか目にした時はあんなに可愛い笑顔なのにねぇ」
「可愛くねーっつの」
というか悪役がお菓子を目にした途端可愛い笑顔を見せてきたら、主役が倒しにくい気がする。
あたしだったら絶対倒せないだろうなぁ……憎めん。っていうかお菓子でつれるなんて可愛いじゃん、悪役じゃないじゃん、いい子いい子してあげたくなるじゃん小さい子だったら! ぬいぐるみ見て「わあっ」なんて喜んでたら作ってあげたくなるよ作れるし! ついでにマスコットつけてあげたいよお菓子じゃなくてケーキ作ってあげるよおままごとも嫌だけどつきあうよ! できれば本を読んであげたいけど!
「在人、花舞ってる」
「え、どこ?」
「あんたの脳内」
「……んなわけねーっつの」
どうも何を考えていたのか、見抜かれていたようだ。
いつの間にか、自分の拳が勝手に片手ガッツポーズをとっていたようだ。
一、人には言えない秘密がある
☑はい □いいえ
二、逃げたくても逃げられない状況とはどんなものか
□受験前日、もしくは決算などの締め切り前日
□誰かが目の前で溺れている
□眠気が酷い時
☑龍がこちらを睨んできている時
三、猫が急に喋りだした。どんな猫か
☑尻尾が二又の猫
□黒猫
□三毛猫
□長靴を履いた猫
四、次の動物があなたのお供をするそうです。どの動物か
□鷹、もしくは鷲
☑狼
□ネズミ
□鴉
五、体が透明になりました。どうしますか
□何もしない
□人にいたずらをする
□旅行客に紛れ込んで旅行を楽しむ
☑元に戻る方法を探す
六、あなたは何に憧れますか
□出世
□家族
□お金
☑意味のある人生
七、あなたにとって名前とはどんなものですか
□区別するのに便利なもの
□その人の人生を定めるためのもの
☑親が子に託す願い
□特に意味のないもの
八、あなたが幻想世界に生きていたら、何をしていたと思いますか
□今と変わらない生活を目指す
☑剣士や魔法使いや英雄を目指す
□魔王を目指す
□王様を目指す
九、今、あなたは人生を楽しんでいますか
□かなり楽しんでいる
□微妙
□早く生まれ変わりたい
☑そもそも人生って何?
十、あなたの心を例えるとしたら、次の何が近いと思われますか
☑剣
□弓
□盾
□斧
□槍
□杖
□常に巡り変わるもの
□形なきもの
「……わけ分からん……幻想世界にトリップしたらあなたが送っていそうな人生とか、そんなのじゃないの?」
それか勇者度を表すテストとか。そんな気がしてならない。
それにしたって何なんだろう。並べる順番も適当な感じだし、ひとまずチェックは入れてみたものの、結果を知りたいとまで深く考えたくなるような内容とも言えない。
ざっくばらんとした質問すぎて、何を求めているのかさっぱりだ。
「ついに在人でも分からないものが出てきたかぁ」
「それを狙って見せたいって言ったんじゃないの?」
先ほどの感情爆発モードが治まっただけに、在人は飄々(ひょうひょう)と返す。しかし心の中では悔しいだけに、パソコン画面に結果を表示させた。
させて、思わず殴りたくなる。
あなたは知を宿す剣です。
孤高の旅人の命を守り、他者の命を削る者。
知を宿したあなたは、奪い奪われる命の意味をずっと疑問に持ち続けるのでしょう。
そんなあなたが欲する物は名前です。あなたは自分の名前に不満を持っており、新たな名を欲しているのです。
それでいて人生は不変でなければならないという怯えもあります。
あなたに相応しい称号は『刻名の剣』。旅の色は夜の帳色です。
―神託―
いずれあなたの心は剣ではなく形なきものへと変わるでしょう
「わけ分からん。そもそも剣かどうかは最後の問いから引っ張ってきただけじゃん」
ずばっと言い放つ在人。香奈もあまり深くは突っ込んでこないから、同じ思いなのかもしれない。
「で、どうですか解説の在人さん」
「そうですね……人の今の感情やそのまま進んだ時の人生をものに例えてる気がしますね、リポーターの香奈さん」
ひとまず乗っておくと、香奈が「なるほどー」と相槌を打ってくる。
それにしたって、『刻名の剣』か。響きはかっこいいけど、そんな大層な器だったらこんな切れやすい性格してないし。この間男子蹴飛ばしたしな……。
「そういえば、香奈はこれ結果見たの?」
「ううん? 面白そうだったからやってはないよ。わたしもやってみよっかなー」
それならと席を立って交代する。その間、あの心理テストで嫌な所を当てられた事が悔しくてたまらなかった。
名前を欲しがって、何が悪いっての? 女の子みたいな名前がよかったに決まってるじゃん。
当然でしょ、そんなの。
『刻名の剣』って称号をもらえるくらいなら、あたし自身の名前を変えさせてよ……。
「あ、わたし盾だってー。『永の心盾』だって。弓にしたのになぁ」
へー……。