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吉原遊狐  作者: kumi
15/23

明け方雨が降り始めた。


久しぶりの雨だ。雨降りの季節だっていうのに久しく雨は降らなかった。

格子越しに眺める。涙粒みたいに ぽろんぽろん と落ちてくる。

思わず格子に顔をひっつけて空を見上げてしまう。


誰の落としもんか

特定したくなっちまう


限られた範囲の空しか見えねえ。でも その範囲内の空が泣いている。

私に見られた空は泣き続けていた。ここから安堵は差し出せない。


落ちる雨が土を叩く。

土埃が黙る。


土の匂いが上がると同時に 雨は勢いを強めた。

物言うことが許されないほど ざあざあと音を立てた。

溜まり雨は屋根から筋になって降りてくる。


号泣だ


嫌いじゃねえ。興味を引くほどでもない雨音は 

当たり前のように在ってくれるもんだから心地が良い。


誰も起きて居ない今

雨音は私だけを取り巻いてくれている様に感じてしまう。


雨音の在る中で感じる静寂は

耳を澄まして聴く鼓動に似ている。


格子から右手を伸ばす。

雨が降れる。

思い思いのままに私に触れる。


指先に触れたいものは指先に触れる。

手首に落ちたいものは手首に落ちる。


着物の袖を腕までたくし上げた。そして再び格子の外へ伸ばした。


肌が濡れる。

あちこちが濡れ滲む。


あんな上から落ちてきてるっつうのに 私を傷つけやしない


私は空を見上げた。


限りなく優しいんだな


私は目を閉じ右手に辿り着く雨雨を感じた。

雨が私の肌を伝う。


似てる

頬を伝う涙みてえだ


私は思わず左手で右手の雨を拭った。


涙を流せば

自分で拭えばいい


癖はどこにでも現れちまう


あんな空から落っこちてきたって 誰も傷つけやしない。

あんな高いところから どこさ構わず 落ちてきたって


優しい



優しく扱われるものが居るということは

優しく扱うものが居るということだ


優しく扱われて居ると認識することは

優しく扱うものが居ると 信じる希望になる


弾ける雨を見つめながら そんなことを考えていた。


雨だったら

この身も 

この精神も


預けられるな


私はびしょ濡れになった右手を眺めながら

笑った。



空にはさ

空にはさ


損得も 利害も 何も何も 存在していないもんな






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