表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
興国の結界術師  作者: aoi
第一章 杖の大柱
7/11

第七話 王立魔法学術院特別方式入学試験 実技

遅れて申し訳ございません、第七話です。第八話も、後ほど投稿します。

王立魔法学術院では、筆記試験の過程が終了し、実技試験の開始に向けて教室移動が始まっていた。


「受験番号の下一桁の部屋番号に入るように。なお、下一桁が0の受験生については、10番会場に進むように。」

廊下では十数メートルごとに配置された試験監督員たちが、魔導拡声器を使って何度もアナウンスしている。


筆記試験の手ごたえはまずまずといったところだ。頭もたいして良くないおれが、一か月の突貫工事でなんとか頑張ってきたことを加味すれば、十分以上の出来といってもいい。算術や物理科学は少し点数を落としてしまった気がするが、リアナに教えてもらっていたことで傷は浅くすんだ。というのも、リアナに教えてもらった範囲がもろで出題されたのだ。


リアナが優秀なのはもうなんとなくわかっていたことだが、出題される問題をドンピシャで当てられるとなると、少し怖いと思ってしまう。一教科目の魔法理論でいいスタートを切れてリラックスできたことも影響してか、その後の歴史にもいい調子で取り組めた。余裕で合格できる出来だと思う。


あとはこの魔力操作試験でコケさえしなければ、合格は確実だろう。

まあ、こんなとこでつまづくようじゃあエミリアをがっかりさせちゃうからな。おれが目指すは、あくまで世界一の冒険者なんだ。


そういえば、エミリア今何してるかな。おれがギブスの町を出るときはまだ薬草採取の依頼しか受けていなかったけど、今はどんなことをしているんだろうか。そんなに時間が経ってるわけじゃないから、まだ薬草採取をしてるんだろうか。


元気でやっててくれよと、エミリアのことを思い出しながら受験生の波に流されて歩いていると、おれの受験番号に該当する会場が見えてきた。


「ここか」


—————学術院魔法修練場(エミレーツ)

ここは、学術院に通う魔法戦闘課の学生の魔法修練であったり、魔法研究課の魔法実験、教授達の研究にも使われる魔法修練場だ。過去、数多くの魔法がここから誕生し、また、数多くの有名魔法師(メイジ)冒険者が当時の学友としのぎを削ったという。


エミレーツは第一修練場から第十修練場で構成されており、今回はこの十個の修練場が実技試験の試験会場として使用される。


おれは受験番号の下一桁をもう一度確認し、対象になる第三修練場へと足を運ぶ。

会場に入ると、そこにはすでに数百人の受験生がおり、試験官の指示で並び始めていた。


「ここが修練場か............すごいな」

高い天井と石造りの柱が威圧感を放つ空間は、王国と学術院による偉大な魔法史を感じさせるようだった。


「受験番号ごとに列に並んでください。前方空中に、受験番号ごとの列を表示しています。そちらを参照し、間違いのないように並んでください。」


アナウンスの指示に従い前方を見ると、空中にスクリーンが表示されており、


○○○○○○~○○○○○○番


という表示がいくつか出されていた。おれは指示に従って自分の番号が表示されている列のところに並ぶと、周りの受験者の様子を見た。


「......?筆記の教室の時より、身なりがいい受験生が多いな。」

どうやら実技試験は一般方式、特別方式どちらも同じ会場で試験があるようだ。

まあ、実技は貴族と平民で対策できる時間変わんないしな。みんな準備しずらい上にそもそも配転も少ないとなると、こういう形にするのも違和感はない。


そう思いながらもあたりを見回していると、リアナとシオンの姿が見えた。あちらも俺がいることに気づいていたようで、おれたちは軽く手を振りあった。


「シオン兄、ビリーも同じ部屋。」

「本当だねリアナ。宿り木亭でビリーに魔力操作を教えてもらっていた時から、彼の魔力操作技術が気になっていたから、ビリーの試験の様子が見れるのは正直嬉しいな。」

「私も気になってた。負ける気はない......とは言いたいけど、ビリーの魔力操作はすごい。ビリーは気づいてないようだけど。」

「確かに、ビリーはどこか自己評価が低いところがあるからね。」


あいつらがこちらを見ながら何かを話しているようだが、当然距離が離れているので何も聞こえない。


......こういうのって、なんか悪口でも言われてるのかなってちょっと気になるよね。

——などと思っていると、前方にいた試験官が魔法拡声器を使ってアナウンスを始めた。


「受験者全員の確認がとれたため、これから試験を始める。」

どうやら試験が始まるようだ。


「これから諸君には、こちらにある魔力水晶(レゴハーツ)に魔力を少量注入し、内部の回路に循環させてもらう。魔力操作の精度によって水晶の色が変化するので、その色によって採点を行うものとする。」


アナウンスの方を見ると、確かにきれいな水晶が十基ずつ、等間隔に並んでいた。


「制限時間は30秒、受験番号と名前を呼ばれたものから前に出て、速やかに試験を開始するように。なお、魔力操作補助装置をはじめとした、補助魔道具の使用は一切禁止とする。使用が発覚した際は、筆記、実技ともに採点を行わないものとする。それでは、試験を始める。まずは————」


先ほどまで受験生の雑談の声が聞こえていた空間は、緊張と沈黙に支配されていた。試験官が受験生を呼ぶ声だけが修練場に響く。誰もが自分の順番を待ちながら、手のひらを胸元で握り締めている。


魔力を循環させら時の繊細さ、制御力、魔力の質……そういうのが色に反映されるのか。魔法水晶(レゴハーツ)、一体どういう仕組みなんだろう。


おれはこの装置の仕組みに興味を持ちながら、早速呼ばれ始めた受験生たちが緊張した面持ちで前に出るのを見つめていた。



ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・ー



リアナ視点



「受験番号 102193番 リアナ・レグナート、前へ」

呼ばれた、私の番だ。大丈夫。いつも通りにやればいい......


私はゆっくりと深呼吸しながら魔力水晶(レゴハーツ)の前に立った。実力的には大丈夫なはずだと分かっていても、なぜか少し緊張する。いつもはそんなことはないのに、なぜだろう。大勢に見られているからだろうか......いや、多分、ビリーが見ているからだろう。


普段、私は人にものを教えてもらうことはあまりない。何かを言われる前に、教えてもらう前に、大抵のことは大人よりうまくこなせているから。でも魔法操作では、結局ビリーには勝てずじまいだった。


「教えてもらっておいて、適当なことするわけにはいかないからね。」


澄んだ水色をした魔力水晶(レゴハーツ)は、彼女を写すように静かに光を反射している。

横を見ると、一緒に水晶を起動させる受験生が横並びになっている。彼らの表情はこわばり、まるで処刑台に上がる罪人のように見えた。


「水晶の色は低評価順に白濁色、白桃色、黄金色、火燐色、翠環色、透明だ。色が出るまでにかかった時間と、変化した色で評価を行う。」

......なるほど。

ほかの受験生の様子を見るに、今の私の実力なら、おそらく10秒ほどで翠環色に変化するだろう。


「は、始めます……!」

右隣の少年が、震える声で魔力を注ぎはじめる。しかし、25秒ほどたって、ようやくレゴハーツの表面に白い濁りが広がる。


「魔力、濁ってる……筆記もダメだったのに......やっぱ無理だったんだ、俺なんかには……」

とぼとぼと試験会場を後にする彼の落胆と恐怖は周囲に広がっていき、ほかの受験生たちに緊張が走る。


そんな中、リアナは静かに、魔力水晶(レゴハーツ)に手をかざした。


 ――シュウゥゥゥン……


レゴハーツが応えるように音を立て、水色の水晶内部に、円形の魔力回路が明滅を始めた。

魔力が、流れている。


もっと深く……もっと、澄んだ流れで......。

リアナの指先から流れ出た魔力は、迷いなく水晶の中心部へと進み、やがて──


 パァァァッ……


10秒ほどで、きれいな翠環色に光った。

試験官が軽く目を見開いた。周囲の受験生たちもざわついている。

「短時間、そして翠環色──非常に優秀だな。ここまでの受験生は見たことがない。本学生と比べても上位に入る腕だ。......今回の受験者の中で、これを超えるものはいないだろうな。」


「ありがとうございました」

私は深く一礼し、何事もなかったかのように列を離れた。


「まじか......翠環色出した受験生、今のとこまだ出てないよな?」

「ああ、しかもタイムは10秒だぞ。受験生の域出てるって。あいつ、もう主席だろ。」


結果は予想通りだった。私は自分の結果よりも、練習の時にお手本で見せてもらったビリーの魔力操作のことを考えていた。試験官は私を超えるものはそうないと言ってたけど......もしかしたら———


それに、シオン兄も気になる。実のところ、ビリーに出会ってからのシオン兄には、なにか少し、いつもの優しい兄とは違う雰囲気を感じていた。


「二人とも、どんな色になるんだろう。」

私は自分の番が終わった後も修練場から出ずに、シオン兄とビリーの番を待つことにした。


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-



シオン視点



「やれる、やれる……やれるって!」

「18秒、白桃色。では次。」

試験官は次々と受験生の名前を呼ぶ。実技試験では、一般受験性も特別受験生も関係なしに、結果はばらついているようだった。


「受験番号 103253 シオン・レグナート、前へ。」


「はい」

僕の番だ。緊張はない。少し前にリアナが呼ばれた後、会場がざわついていた。どうやら短時間で翠環色を出して驚いていたようだが、リアナの実力なら違和感はない。


「僕も負けてられないね、リアナ」

僕はレグナート家の長男として、辺境伯家の後継ぎとして、いつも真面目に勉強をしてきた。

妹のリアナに勝ったことは一度もなかった。周囲はいつも、優秀すぎる妹と僕を比べて”かわいそう”と言っていた。


それは僕が無能ではないだけに、変に気を使わせてしまっていたのだろう。僕に対する周囲からの評価が悪くないだけに、周りは”優等生”の僕にやさしかった。


でも正直、”かわいそう”は堪えたし、そう言われるたびに僕は一層の努力を惜しまなかった。それでも、妹に勝ったことはついぞなかったが。


———でも、いつまでも負けっぱなしじゃあ負われない。


「たった数十分先に生まれたから、たまたま男だったから、そんな理由で僕より優秀な妹を差し置いて家督を継ぐなんて、僕のプライドが許さないからね。リアナ、負ける気はないよ。」


僕はそう呟くと、拳を握りしめてレゴハーツの前に立った。リアナが見せたあの完璧ともいえる循環――血を分けた双子である僕に、できないはずがない。いや、できなければいけないんだ。



隣の受験生の男の子が、レゴハーツを火燐色に光らせる。

「おお、火燐色だ!やった!」

そこそこいい成績を出すと、彼は喜びながら会場を後にする。


「おお、すげえ。火燐色だ。」

「ああ、そうだな。......隣のやつはどうなるんだろうな」

その影響で、周囲の受験生から、注目が集まる。



シオンはごくりと唾を飲んだ。


......


......


......よし、今だ


僕は心を落ち着かせ、魔力を送り込む。ビリーに教わったように、目を閉じて、心を凪にして。僕の魔力が魔力水晶(レゴハーツ)に流れ込んでいく感覚がわかる。手がほんのりと温かくなる。


よし、いい調子だ。魔力回路もつかめた。あとは循環させるだけだ。......体が軽い。魔力が、すんなりということを聞いてくれる。


目を閉じていているから水晶の様子が分からないけど、うまくできているだろうか......


......と、ここで試験官の声が聞こえてくる。


「な......!これは、翠環色......!!」

あれ、もう結果が出たのか?


意外と早くできたなと思いながら目を開けると、そこには翠環色に輝く魔力水晶(レゴハーツ)の姿があった。

「早いぞ......!記録は......」

試験官が手元の感知型測定器を見る。


「また翠環色出したやつが出たぞ!しかも早かった!」

「家名、レグナートって言ったか?」

「ああ、あの辺境伯領のところだ」

「待て、さっき翠環色出した10秒の女の子もレグナートだったぞ。」

「まじか............さすがは貴族。血筋だな」

少し注目が集まっていたところに翠環色を出したということもあって、リアナの時と同じくらいのざわつきが起こる。


と、

「9秒、結果は9秒だ。すごいな、今年の最高記録更新だ。」

試験官がそう言うと、周囲の受験者がさらにざわついた。


「......ありがとうございました」

ざわつく周囲を気にせずに、僕は平静を装って水晶から離れていく。

だが内心では、いまにも叫び出しそうな心を必死に抑えていた。


リアナに勝った、初めてだ。


筆記はリアナに敵わないし、多分、合計点は負けている。

それでも、僕は初めてリアナから奪ったこの白星が、たまらなくうれしかった。



ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-



ビリー視点



試験も終盤に差し掛かっていたが、おれはいまだ呼ばれないまま、ほかの受験生たちが試験を受ける様子を見ていた。


時々好成績を出した受験生がいると会場がざわつくが、一番大きくざわついたのは、シオンの時だった。

「リアナもシオンも凄いな」


正直、シオンがリアナに魔力操作で勝つとは思っていなかった。宿り木亭で教えていた時は、リアナの方がうまく魔力操作ができていたからだ。だが、結果は違った。


さっき試験を受けていたシオンは、いつもと違ってどこか熱を宿しているかのような印象があった。

「......シオン、コソ練したな」


あの二人の他にも翠環色を出した受験生が5,6人ほどいたが、今のところ、タイム成績はシオンがトップだ。

「......あいつらに勝てる気がしねえ。あいつらに魔力操作を教えてたって言っても、ギルド塾でガロンさんに教えてもらったことをそのまま伝えただけだし、正直おれは自分の魔力操作に納得できてないんだよな......。」


おれがそんなことを考えていると、おれの名前が呼ばれた。

「受験番号 208823 む......ビリー、前へ」


「......?はい」

なんか歯切れ悪かったな?名前呼ぶだけだろ......と思いながらも返事をし、おれは前に出た。


魔力水晶(レゴハーツ)の前に立ち、意識を一点に集中させる。


「みてシオン兄、ビリー呼ばれた」

「そうだね、僕たちの師匠だ。どうなるかな」

修練場の後ろで腕組みをしながら、シオンとリアナが話していた。



魔力を……深く、細く、しなやかに。あのときの、初めて魔力操作を成功させたときの”糸”のイメージ。細い魔力回路にその”糸”を通すように......


ビリーの頭の中に、ギブスの町での修練の日々が蘇る。


おれはなけなしの魔力をてのひらから水晶に流す。その流れは細く、静かで、()()()()()()()()()



 レゴハーツが、無色に光る。



「記録、無色……タイム、7秒」

試験官の声が震えていた。


へ?無色?


「無色だ!!無色が出た!!」

「誰だあいつ!家名がなかったぞ、平民か!」

「関係ねえ、貴族だったら無色が出せるんなら、試験結果は無色だらけだ」

「それよりタイムだ、7秒なんて記録、誰も出してないぞ!」

「ぶっちぎりだな......」


試験終了間際、第三修練場は最高潮に達していた。



ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-



———試験後、教務室


「次は件の受験生です。名前はビリー。古代属性の適性が現れた、実技満点の少年です。」

平均的な身長、平均的な顔立ち、無精ヒゲと目の下のクマ以外に大した特徴のない中年の教授、ベルがそう言った。


真っ白で長い髭をたくわえた皺だらけのいかにもな高齢教授、バーズパールが口を開く。

「筆記と併せた得点は......合格じゃな。筆記は全体的に悪くない。歴史もようできておるが、魔法理論が抜けて高得点じゃの。実技は......言わずもがなじゃな。」


「不正はなかったと報告があったわ。ま、魔法適性が分かってからたった一か月と少しで魔力水晶(レゴハーツ)を無色にできるなんて、並の才能じゃないわね。......それだけに、古代適正ということが残念だけれど。」

若い女性教授リリが、そう言った。若い、と言っても、その見た目は今回の受験生たちとそう変わらないほどの......”幼さ”といったほうがいいだろうか。


「彼はギブスの町出身だそうです。大方、そこの冒険者たちに指導を付けてもらっていたのでしょう。ギブスの冒険者は、王都に負けず劣らず優秀なのが多い。軍事力でいえば、あの町一つで隣領のレグナート辺境伯領に並ぶほどです。」


ベルがそう言うと、続けてリリが口を開く。

「魔法に適性がありながらそれを使えない彼にとって、何が彼をそこまでさせたのかは分からないけど......ま、今や古代魔法は適性持ちすら貴重。そんな彼が古代魔法を研究したいと言って来てくれるなら、魔法研究の最先端としてはこれ以上ないめぐり逢いね。」


「そうじゃの、彼が入学後、研究課に進んでくれれば、行き詰っていた古代魔法の研究に何か進展があるかもしれん。それに、レグナートの双子も優秀じゃ。他にも何人か、目を見張るものがおった。例年の受験生よりも全体的にレベルは高かったし、今年は豊作じゃの。」

バーズパールが嬉しそうに言った。


「さ、これで合格者は出そろった。これから、クラス分けに進むとしよう。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ