第六話 王立魔法学術院特別方式入学試験 筆記
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今日はいよいよ王立魔法学術院の試験当日だ。おれたち三人は、いつもより少し早めに起きて、試験範囲で不安なところの最終確認をする。
「ビリー、試験は大丈夫そう?」
「ああ、おかげさまで何とかなりそうだよ。本当にありがとう!リアナこそ、おれの勉強結構見てくれてたけど、自分の勉強は大丈夫なのか?......って、聞くまでもないか」
この数日間、一緒に勉強をしていて、何度か難しい応用問題の解説をしてもらうことがあったが、その様子はまるで彼女が参考書そのものであるかのようだった。
「うん、当然。」
リアナは右手でブイの字を作りながら答える。それもそのはず、一緒に勉強している間、リアナが問題を間違えているところを見たことは一度も見なかった。
というか、これはおれの見間違いかもしれないんだけど、彼女は試験範囲じゃないところの勉強をしていたような......。まさか、もっと先の難しい範囲でも勉強しているのだろうか。
「シオン兄は大丈夫?」
「ああ、問題ないよ。コンディションは万全だ。座学はもとより、魔力操作の調子がいいんだ。これは確実に、ビリーのおかげだろうね。ありがとうビリー、これで僕に死角はないよ。」
「わたしも。魔力操作苦手だったから助かる。」
おれはこの一週間、二人に(主にリアナに)勉強を教えてもらう代わりに、魔力操作を教えることを申し出ていた。もちろん、焼き串とは別でね。
二人は魔力操作に苦手意識を持っていたので、おれが教えることにしたのだ。まあ、基本的なことはできていたので教えることは本当に少なかったが......。
あれで苦手だと言っていたあたり、この二人は向上心の塊だな。こういう人たちが合格するべくして合格するんだろうな、とおれは思った。
コンコン
おれの部屋の扉をたたく音が聞こえた。
「みなさん、あさごはんのじゅんびができました。」
リサちゃんの声だ。
「お、もうこんな時間か。」
「さ、エネルギーをしっかり補充して、万全の状態で試験に挑もう!」
おれたちは勉強道具を片付けてから、一階の食堂へと降りて行った。
「お、来たね。さあ、今日は特別メニューだよ。ロックバードのかつ丼!試験に勝つってね。」
女将さんがそう言いながら、おれたち三人の前に大きなかつ丼を置く。
当然、ロックバードの肉だ。
「わあ!すっごくおいしそう!」
「おかわり、ある?」
「食べる前からかい?そう言うだろうと思って用意はしてあるけどね。あんまり食べ過ぎると試験中眠くなっちゃうから、今日はほどほどにしなさいな」
「わかった。おかわりは二回までにする。」
「めっちゃ食べるじゃん......」
「お兄、うるさい」
「さ、冷める前に食べちまいな!あんまり喋ってると試験に遅れちまうよ」
「はーい、いただきまーす!!」
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食事を終え、支度を整えたおれたちは、宿を出る。女将さんとリサちゃんが、お見送りに来てくれた。
「女将さん、今日までの二週間、お世話になりました!宿り木亭に出会えて、ほんとうによかった!」
シオンがそう言った。
「ああ、あたしも宿がにぎやかで楽しかったよ。リサも近い年の子がいっぱいいて毎日うれしそうだったしね」
「え、そうなのか?リサちゃん」
おれは少しびっくりして、リサちゃんにそう聞いた。この二週間、リサちゃんの表情が変わったところを見たことがなかったからだ。シオンもリアナも同じだったようで、二人も驚いたような顔をしていた。
「はい、たのしかったです。またきてくださいね」
「うん、また来るよ。」
......って言っても、受験終わってから結果が出るまではまだ何日か泊まるんだけどね。
「じゃ、行ってらっしゃい、頑張んなさいよ」
「みんな、がんばってください」
女将とリサさんが、おれたちを見送ってくれる。
「はい、行ってきます!」
「いってきます」
「行ってきます!」
おれたち三人はそう答えて、宿り木亭を出た。
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それからおれたちは、宿から15分ほど歩いた距離にある学院まで、一緒に向かっていった。その間、珍しく会話はなかった。おれもそうだが、さすがにリアナもシオンも緊張しているようだった。
しばらく歩くと、これまたひときわ大きな正門が姿を現した。重厚感があり、圧を感じるようだった。だがその圧の中には、少しだけ違和感があった。
「この門、魔力が通ってる?」
おれがそう言うと、シオンとリアナが反応した。
「?何を言ってるんだ?ビリー。魔力なんて感じないぞ?」
「ビリー。私も感じられない。確かに物体に魔力を流す技術を応用して魔法を付与することはできるけど......。そもそも、門に魔力を通わせたとして、意味があるとは思えない。門に付与して効果を発揮する魔法なんて聞いたことない。だから気のせいだと思う。」
どうやら二人は何も感じないらしい。まあこの二人が言うなら、きっとおれの気のせいなのだろう。
「そっか、緊張しすぎてたかな。はは。」
おれはそうごまかしはしたが、やはりぬぐい切れない違和感がどこかに引っかかっていた。
正門を抜けてしばらく歩くと、受付が見えてくる。
「受験生の皆様、受付はこの先です!一般方式の方は突き当りを左に曲がった列、特別方式の方は右の列に進んでください!」
どうやら、受験方式で受付を分けているようだ。周りの受験生たちが、自分の受験方式に合わせて左右の列に分かれていく。やはり、一般受験の列の方に進む子たちは身なりがいい子が多いな。なんというか、服がキラキラしている。隣の二人を含めて。
なんというか、フランクに接しすぎて忘れちゃうけど、この二人貴族なんだよな。
「じゃあ、僕たちはこっちだから、また後でね、ビリー」
「健闘を祈る、ビリー。」
「ああ、そっちも頑張ってな。二人とも」
そうしておれたちは別々の列に並び、本番を迎えるのだった。
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—————正門の魔力に気づくものがいたな。なるほど、かの少年か............これは、面白いことになりそうだ。試験に落ちるなどと、つまらないことはしてくれるなよ―――――――
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「受験表を確認いたします.............ビリー様ですね。それでは、このまま奥に進み、突き当りを左に行ったところに階段があります。三階まで上がり、30G教室にお入りください。では、受験票はお返しします。試験開始は約20分後ですので、それまでには席についておいてください。もし時間までに着席していなかった場合、当該教科の受験はできませんので、くれぐれもご注意ください。」
「はい、ありがとうございます。」
おれは受験票を受け取り、教室へと向かった。
「30G......ここか」
教室の扉を開けて中に入ると、中には既に多くの受験生が席について参考書とにらめっこをしていた。大通りの横幅くらいの広さがあり、おそらくこの教室だけで800人はいるだろう。
「さすがは王立魔法学術院、スケールが違うな。」
おれが教室に入っても、誰もこちらを見ることなく、ほとんどの人は手元の参考書と戦っている。
「やばい、やばいよ.......」
「えっとここがこうで、ここは......」
「あああ、公式がおぼえられないい......」
どこからか聞こえてくるそんな声に対しておれは、公式は今覚えるものじゃないだろう......などと思いながら、自分の席をさがす。
「お、あったあった」
おれは教室の奥の列、窓際の真ん中あたりの席に座った。
「準備はもうできてるけど、最終確認くらいはしておこうかな」
おれは時間が来るまで、最初の試験科目である魔法理論の一問一答の参考書を開き、少し不安なところから確認していった。
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ゴォォーーーーーーン............ゴォォーーーーーーーン............
「試験は120分、途中退出は認めません。問題に不備があった場合は手を挙げて申し出るように。では、はじめ。」
第一科目、魔法理論の試験が始まった。
この教科は、問題数は全6問と、他教科に比べても少ないが、その代わり1問がとても重い。書く量も多いので、あまりのんびりしてはいられないのである。
「ええっと、第一問はっと......現代属性魔法である五種の属性のうち自由な属性を組み合わせ、現実的に運用可能な六つ目の属性を提案しなさい、か。」
一問目から、なかなか重い問題を出してくるな。だが問題はない。この問題はきちんと対策をしていれば及第点は獲得できる。
注意すべきは、主に三つ。1.どの属性を組み合わせるか、2.魔法発動における魔力効率が環境によって増減するか、3.生命そのものに直接干渉する魔法でないか、の三点だ。
まず一つ目だが、五種の属性はそれぞれに相性がある。これは水は火に強いとかいう相性ではなく、組み合わせる際の相性だ。これは勉強して対策をしていないと分からないことだが、安定した組み合わせには少なくとも3種類の属性を組み合わせる必要がある。
そして二つ目は、現代属性魔法が自然魔法という別名を持つことに関係がある。五種の属性は天候や気温、湿度によって魔法発動に必要な魔力、魔法の威力や持続力などが変化する性質を持つ。問では”六つ目の属性を作れ”とあるので、新しい属性は自然魔法の性質を併せ持っている必要があるのだ。
最後に三つ目だが、これは魔法そのものの根幹に関わることだ。ギルド塾でアルトネ先生が教えてくれたように、魔法は世界の一部分を一度壊し、新たに書き換える力だ。必要以上に大きな干渉は、世界そのものの存続に対して悪影響を及ぼすと考えられている。
そのため、蘇生魔法や死霊魔法といった、魂に干渉する魔法は禁術指定されており、研究そのものが禁じられている。そういった意味で、属性研究の際は禁忌に触れないよう注意を払わなくてはならないのだ。
「よし......こんなもんだろう」
おれは一問目をいいペースで解き、次の問題へと進む。
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———一方そのころ、リアナ視点
ここは一般試験会場。問題の難易度は特別会場よりも高い、はずなのだが............。
試験官が巡回をしていると、開始15分だというのに、机にふせっている子をみつけた。
............なんだこの子は。まだ開始15分だぞ。あきらめたのか?
気になった試験官は、そっと伏せている受験生の後ろから解答用紙をのぞき込む——と、
「!?」
そこには、解答欄一杯にびっしりと文字が埋まっている解答用紙があった。
———な!?......もう終わっているのか......!?
「肉ぅ......むにゃむにゃ............」
な、なんだこの子は。めちゃくちゃリラックスしてるじゃないか............
試験官は平静を装いながらも、内心で信じられないものを目の当たりにしたことに驚いていた。
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———ビリー視点
「............試験終了まで、残り40分です。時間配分に気を付けてください。」
おれがちょうど5問目を終えたあたりで、教室の教壇あたりに立っている試験官からそんなアナウンスがされた。
いいペースだな、予定通りだ。魔法理論は全六問、均等にペース配分するなら一問当たり20分というところだが、この試験は第六問だけ難易度が跳ね上がる。その内容は毎年全く系統が違い、時事的な内容が出題されるというわけでもないため、対策が取りづらい問題なのだ。その分、時間をここに割いているというわけだ。
そんなこともあって、第六問は捨てる人も多いのだが......
「あいつらと同じクラスになるってんなら、逃げてちゃだめだよな。負けてられるかよ!」
第六問は一般方式と共通の問題が出題されるため配点が大きく、その出来でクラス分けにも影響を与えるといわれているのだ。
「さあ、最終問題はっと......!?」
第六問
”古代属性魔法について、あなたの予想を答えなさい。”
「いやいや、これ......」
一見すると、第一問と大差ない難易度のように......いやむしろ、第六問の方が簡単にも見えるかもしれないが、この問題は明らかに難易度MAXだ。
なにせ、答えがないから。
研究が全く進んでいない分野についてまで問題に出すのかよ、学術院は。
......過去、魔法理論の試験において古代属性魔法について触れることは一度もなかった。こんなことは、おそらく初めてだろう。
数分前からちらほらざわついた声が聞こえていたが、恐らくそれは、おれより先に第六問を見た子らの反応だったのだろう。その反応には頷けた。
「おれが受験しているから............なのか?」
一体どうやって採点するんだこれ、と思いながらも、内心おれはそこまで焦っていなかった。
遅かれ早かれこれを研究するつもりだったんだ。練習だと思って自分なりの回答をしよう......。まあ、おれにとっては他人事じゃない分野だったし、多少古代属性の勉強はしていたからな。ラッキーっちゃラッキーだ。
おれが第六問をカリカリ解いていると、試験残り2,30分ごろだろうか。周りの受験生からうめき声やすすり声が聞こえてきた。おそらく第六問にたどり着いた子たちだろう。多分俺のせいでこんな問題が出されているので、ちょっとだけ申し訳ない気持ちには............特にならなかった。
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ゴォォーーーーーーーン............ゴォォーーーーーーーン............
「そこまで!ペンを置くように。」
魔法理論の試験が終了し、試験官がそう言った。
部屋中にペンを置く音やうめき声、泣き声が聞こえてくる。
すると手元にあった解答用紙が、ひとりでに宙に舞い始める。
「風魔法の付与術式か」
試験問題に魔力がこもっていたので予想していたが、これだけの人数分の紙に同じ魔法をこめて同時起動させる技術か......さらっと凄さを見せつけてくるな。
「次の試験科目は歴史だ。10分後に始めるので、それまで準備を済ませておくように。」
魔法理論の出来は上々だ。算術や物理科学に比べれば割と得意な科目だったので、この出来には正直ほっとしている。抱えていた緊張も、少しほぐれたような気がした。
———そんな調子でおれはこの後も順調に試験を解いていき、座学の試験は滞りなく終了した。
感想等いただけると幸いです。批判でもなんでも構いません、糧にします。では、今日もありがとうございました。また明日。