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2話 早朝の意味

 

 登校当日、バスに乗り込むと、浅野川高等学校へ出発した。

 浅野川高等学校。

 そこは学業と部活においてトップレベルの成績を誇るとされるエリートが集まる学校だ。

 創設されたのはつい5年前。浅野川勇海(あさのかわいさみ)という人物が世界一の頭脳を持つ生徒を作りたいという私欲のためクラウドファンディングを行い創設された学校だ。

 新設とあって外装はかなり美しい造形となっており、透き通るガラス張りの校舎が、巨大なショッピングモールのように連なっていることが特徴である。

 そこに生徒が住み、三年間研鑽を積むのだ。

 

「……」


 過ぎゆく街並みを見ながら学校に着くまで感慨に耽る。

 このバスは浅野川高等学校行きということもあり隣には同じ制服を着た女性が座っていた。胸元には雪美祢という文字が書かれている。これが彼女の名前なのだろう。他にも辺りを見渡してみるといろんな生徒が座っている。

 本を読むもの。勉強をするもの。友人と話すもの。ゲームをするもの。寝ているもの。千差万別だ。

 とは言え、特に人と話すことが得意ではない俺は隣に座る女性に話しかけることはなく、バスが到着するのを待った。




 バスが到着したのはそれから1時間後。

 俺の住むここ香川県伊沢市は人口が少なく、所謂田舎であるため学校までは少し時間がかかる。

 バスから降りると早速学校へと足を進める。

 校門は至って普通だったが、入ってすぐに見えたのは上級生と思わしき人の群れだ。


『こちら、生態学研究会でーす!』

『俺たちはテニス部だ! 興味がある人は集まってくれ!』

『吹奏楽部でーす! 入部希望の方はこちらの列に並んでください!』


 どうやら部活勧誘のためにわざわざ校門近くで張っているらしい。

 そう言えばこの前、どこかの部活がオリンピックに出たというニュースを見たことがある。たしかあれは浅野川高等学校の生徒だったはずだ。

 やはり優秀な生徒が集まる学校ならそういうすごい生徒と出会う機会も増えるんだろうか。そういう意味でも少し楽しみだ。


 部活に入るつもりはないのでとりあえず案内された玄関口へと足を進めクラス分けの書かれた掲示板を見ることに。

 そこにある自分の名前を探して教室へと足を進めた。


「……」


 教室のドアを開ける。

 教室にはすでにほとんどの生徒が集まっているようだ。

 出遅れた…と一瞬思ったが時計を見るとまだ7時半。始業時間は8時15分であるため遅れていないことに安堵する。

 おそらく、俺が遅いというわけではなく、他の生徒が早いのだろう。まあ、登校初日とあって遅刻しないように心がける気持ちはなんとなくわかる。

 とりあえず騒がしい生徒の間を通り黒板に書かれた生徒番号を照らし合わせながら自分の席に座った。

 

「……」


 そこでやる気とがないことに気づいた俺は暇潰しのために本を読むことにする。幸か不幸か、俺の通っていた中学からこの学校に進学したのは俺のみであるため共通する友達はこの学校にはいない。

 時間を潰すにはこうして本を読むしかないのだ。

 っと、そうして本を読んでいると正面に座る女子生徒が振り向いた。

 

「…ねえ、その本ってこの前テレビでやってたやつだよね?」


 どこか興味を示す顔で話しかけてくる。

 

「そうだが…それがどうかしたのか?」

「あ、い、いや、ごめんね…っ! そうだよね。いきなり話しかけられても困るよね」


 彼女は申し訳なさそうに慌てて両手を横に振っていた。どうやら初対面にも関わらずいきなり話しかけたことに申し訳なさを感じているようだ。

 

「別に構わないよ。むしろ話しかけてくれて感謝している。この学校には俺の友人がいないからな」

「え…? 中学が一緒の人とかいないの?」

「ああ。中学はこことは少し離れた場所にあったし、ほとんどの人は近くの高校の入学したんだ」

「そっか。ならよかった」

「よかった?」

「あ、いや! 別に友達がいないことに喜んでるんじゃないよ? …僕もそうなんだ。ここに来る前の中学は元々生徒の数が少なくてここに入れたのは僕だけだったから」


 彼女は俺が怒っていないことを察すると、安堵したように笑顔を見せた。

 可愛い。

 ふと無意識にそう思う。

 それは、彼女が白髪に青眼という日本ではなかなか見ない特徴を持つ生徒というせいもあるだろうが、何より、その顔はどこか柔らかで、優しい雰囲気のある人だからだろう。

 中学にはいなかった可愛らしい女子生徒だ。俺が恋愛に興味のある人種なら今ので惚れていたかもしれない。


「じゃあせっかくだしちょっと話そうよ! 僕、君と仲良くたいな」

「そうだな。俺でよければ末長く頼むよ」


 こう言っちゃ悪いが、元々ある程度なんでも器用にこなす俺は、友人の数も多かった。

 だけどこの学校に来てからはまた1から人間関係を作らなければならない。所謂コミニュケーション能力が試されるということだ。

 まあ、それはこの学校に限らず他の学校でも変わらないだろうが。それでもこうして向こうから話しかけてきた彼女には感謝すべきなのだろう。

 それから始業時間になるまで彼女と話をすることにした。



 話をして色々と分かったことがある。

 もちろんそれは俺についてでもこの学校に着いてでもない。彼女ーー篠原さんについてだ。

 彼女の名前は篠原涼香(しのはらりょうか)。誕生日は4月1日。5月7日が誕生日の俺とは一ヶ月違いになる。

 彼女は元々ここから一番近くの中学校である呉坂中学校という中学に通っていた。

 そこは1クラス二十人ほどしか生徒がおらず全学年を入れても150人しか在籍していない学校なのだそうだ。

 俺も人が少ない学校ということで耳にしたことはあるが思ったよりも少ないその生徒数に正直驚きを隠せなかった。それが小学校なら俺の学校の近くにも同じような環境の学校があったので大した驚きはなかっただろう。だが中学校で全校生徒が150人というのは正直聞いたことがなかった。


「本当に生徒がいなかったんだな」

「まあその代わり同じクラスのみんなとはすごく仲が良くて、遊ぶ時はいつもクラス単位で遊んでたから楽しかたよ」


 彼女にとってクラスというのは全員が全員面識があり、同じ時を過ごす仲間だったようだ。たしかにクラスの生徒数が少ない以上そういうこともあるのだろう。

 その話をしている彼女はとても楽しそうで、聞いていて心地よかった。

 

 最悪、読心術を使って少しだけ彼女の気持ちを理解しようとしていたが、そんな自分が恥ずかしくなる。


「でも寂しくなるな。中学校はずっと一緒だったのに高校では誰一人進学しなかったなんて」

「仕方ないよ。元々偏差値の低い学校だったんだ。みんなテストじゃ半分も取れてなかったし……先生もそのことについて頭を悩ませてたしね。一応、テスト前はみんなで勉強会とかしてたんだけど……」

「それでもダメだったのか」

「……うん」


 苦笑しながら彼女はそんな話を聞かせてくれる。

 とは言え、俺はそれを聞いて改めて彼女の凄さに驚かされた。

 彼女の学校は偏差値が低い。それは言い換えれば彼女は偏差値の低い学校からこの学校に進学してきたということだ。

 彼女はそれだけ努力家なんだろう。


「すごいな」

「え? 何か言った?」

「いや、なんでもない」

 

 彼女はおそらく俺よりも努力をしている人なのだろう。それはつまり、彼女は俺よりもすごい人ということに他ならない。

 尊敬する奴リストに彼女の名前を入れておいた。


 そんなこんなで話していると教室のドアが開く。入ってきたのは黒いスーツを身に纏った先生だった。


「さて、始業時間だ。全員席に座れ。朝のホームルームを始める」


 彼女が言うと生徒たちはすぐの着席する。

 

「始まるみたいだね。じゃあ話の続きは後にしよっか。今日は学校説明だけらしいよ」

「そうだな。分かった」


 登校初日ということもあり、今日あるのは主に授業の説明や校舎の案内。学校の規則など基本的なことばかりだ。これは合格通知と一緒に家に送られてきた学校のパンフレットにも書いてあったので知っている。

 俺は朝のホームルーム始まったので先生の話に耳を傾けた。


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