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19話 オリエンテーション合宿1日目①


 バスが走り始めて十数分。朝のホームルームが始まり、先ほどまでザワザワとしていたクラスメイトの声が一気に静かになる。


「今回のオリエンテーション合宿だが、もちろんただの合宿ではない。それはスマホを見たお前たちならなんとなく察しているだろう」


 開口一番葛飾先生はそんなことを言った。

 

 たしかに、期間が長いのはともかく、内容はみるからに普通じゃない。

 場所も無人島だ。

 白坂も優勝だなんだという話をしていたので何か特別なイベントがあるのだろう。


「合宿のスローガンは競争による親睦。お前たちには合宿中いくつかのルールの元に行動してもらう。そのルールというのも、言ってしまえばクエストみたいなものだ。つまり、他クラスとの対決が主となる予定だ」


 スマホには他クラスとの対決のことも書かれている。そしてそれによる報酬ポイントもだ。


 ただ、その内容については未だに不明。それを葛飾先生は説明してくれるのだろう。


「とは言え、詳しい情報がわからない限り実感も湧かないだろう。よってこれから合宿で行われる内容について前半の説明をさせてもらう」


 前半の説明。ということは後半もあるようだ。

 とりあえず話を聞いてみる。


「まず、お前たちが行うのは、四日間のサバイバルと、1日の船中泊だ。ただ、四日間のサバイバルにおいては、二日ごとに分けられ、その間に船中泊が入る形となる。そんなオリエンテーション合宿で行われる今回の一番のルール(クエスト)というのが、『コイン探し』だ」

「コイン探し…?」


 バスの真ん中あたりに座る神谷が不思議そうに呟く。


「そうだ。合宿が始まる直前、私はお前たちに3枚のコインを与える。学校の校章が書かれた特別なコインだ。これを五日間守り抜くこと。それが今回のお前たちのクエストになる」


 コインを守り抜く。つまり防衛クエストが今回の目的となるらしい。しかし、守るということはそれを狙う者もいるということだ。


「これはお前たちのみならず他の3クラスも同様だ。全クラスそれぞれ3枚。つまりは12枚のコインが渡される。そして、他クラスのコインを持っている人物をお前たちが特定する。もし特定したクラスの人物が本当にコインを持っている場合、特定したクラスには100ポイントが与えられる。だが逆にお前たちが他クラスから特定された場合、50ポイントの減点だ。最終的に持ち点の多いクラスが優勝となり、優勝したクラスには75000ポイントが贈呈される。もちろん1人75000ポイントだ」


 75000ポイント。先生が強調したこの言葉だが、これは上位組でもない限り今持っているポイントとほぼ倍のポイントが贈呈されると言っても過言ではない。


 中にはあれから一ヶ月経った今では、75000ポイントですら下回っている生徒もいる。篠原もたしか60000ポイントほどだったはずだ。


「おぉおおお……。スマホにも書いてあったけど改めて考えるとすごい数字だよな! 75000ポイントなんてなんでもできるじゃねえか!」

「たしかに! 俺今めっちゃ欲しいゲーム機あったんだよなぁ」

「私もコスメ買いたかったし頑張らないと!」

「みんな……ちょっと浮かれるすぎだよ…」


 寺島に、その隣にいる中西、さらには三河のグループが話し始め、神谷が苦笑する。


 みんな各々優勝した時のことを考え夢を膨らませてるみたいだ。そりゃ勝てればそれだけポイントがもらえるからな。浮かれる気持ちは十分わかる。


 ただ、それが容易ではないことを分かっているのはこの中で、俺と篠原、そして神谷と雪美祢くらいだろう。この4人は冷静を保っていた。


「神谷、お前だって本当は嬉しいんだろう? 優勝できなくたって2位でも40000ポイント、3位でも20000ポイント、最下位の4位でも10000ポイントはもらえるんだ。今回のイベントはボーナスタイムだ!」

「そうそう! もっとテンション上げようぜ神谷!」

「あはは……そう単純でもない気がするけど……」


 もちろん、優勝できるなら神谷ももっと喜べるだろう。だが、神谷はそんな楽観的な周囲の声には同調できそうにない。


「とは言え、コイン探しに関しては理解できました。それ以外にも何かクエストがあるんでしょうか?」


 神谷が気を取り直して聞く。

 そんな彼に葛飾先生は頷いた。


「もちろんある。と言ってもこれは強制というわけではないがな。一応、コイン探し以外にもポイントを稼ぐ方法がいくつか設けられている。例えば、環乱島には直径15センチほどの宝箱が至る所に用意されている。それらを見つけることができれば5ポイントから10ポイントを獲得することができる。その他特定の植物や生物を見つけ、受付へ提出すればさらにポイントを獲得できる。まあ言わば、宝探しのようなものだな」

「宝探し……」


 神谷が呟く。

 見つければポイントを獲得できる。つまり、そこで差をつければ、もしこちらのコイン所有者を特定されてしまったとしても、どうにかリカバリーは可能だということだ。


「少しいいでしょうか?」

「どうした雪美祢?」

「もし植物や生き物の知識がない場合、どうやってそれを見分けるんでしょうか? 何もできないと思いますけど……」


 彼女は発言後、意味深に三河の方を見た。


 彼女はそれに気づき苛立った様子で立ち上がった。


「なに? あんた私に喧嘩売ってんの?」

「こらこら、落ち着いて三河さん。雪美祢さんはそういうつもりで言ったわけじゃないと思うよ」


 怒る三河に先ほどの喧嘩がよぎったのか、神谷がすぐに宥める。流石にバスで喧嘩などされたら周りにも迷惑だ。


「ええ、神谷くんの言う通りそういうつもりで言ったわけじゃないわ。私はあくまで個人的な興味に従って疑問を投げかけたに過ぎないもの。でも……」


 と、そこで雪美祢は三河へ再び視線を送る。


「私に噛みついてくるってことは、あなたは自分が知識不足って自覚があるのかしら? 人よりも劣っているという自覚が」


 そう言って前を向く雪美祢。その予想外の追撃に一瞬だけ間が空いて三河が激昂する。


「……そう。どうやら喧嘩がお望みのようねブサイク女……こっちに来なさい、その顔引っ叩いてやる!」

「ちょ、ちょっと三河さん…!? 落ち着いて…」

「うるさい!」


 雪美祢はそんなに煽り足りなかったんだろうか。宥めた神谷を飛び越しそうなほど三河はお怒りだ。


 それを見て篠原はため息をついていた。


「あの2人とことん合わないね。合宿中大丈夫かなぁ」

「どうだろうな」


 一応神谷が仲裁しようとしているからどうにかなるとは思うが、篠原の言う通り2人の性格は正反対だ。そう簡単に仲良くなれるとは思えない。


「騒ぎ立てるな。まだ説明の途中だ」


 葛飾先生も流石に止めなければいけないと思ったらしい。そう言って彼女らを黙らせた。


「せっかくの合宿中に喧嘩などしてる場合じゃないぞ。お前たちが思っているよりも優勝はそう簡単な話じゃない。三河、さっさと座れ」

「……分かりました」


 三河は不貞腐れつつも席に座る。やっぱりどこの学校も先生は強い。有無を言わさず言うことを聞かすことができる。


「質問の答えだが、学校側は今回の合宿におけるガイドブックを用意している。渡すのはフェリーに乗った時だ。合宿中はそれを持っていても何も問題はない。よって雪美祢の心配は不要だろう」

「ありがとうございます」


 聞きたいことを聞けた雪美祢はそれ以上何も言わなかった。俺も生き物の知識や植物に関しては全くと言っていいほど疎いためガイドブックの存在はありがたい。

 おそらく今回はそのガイドブックとやらをどれだけ読み込むのかが合宿の肝になるだろう。


「その他質問があるやつはいるか? いるなら随時質問をするように。合宿が本格的に始まれば私は口を挟めないからな」


 葛飾先生はそう言うが特に質問はないのか、生徒は手を挙げることはない。

 中には質問しようにも雪美祢のことがあってか質問をしずらい人もいるんじゃなかろうか。


「よし、では説明を続けるぞ。今説明したのはポイントの稼ぎ方だが、もう一つポイントを稼ぐ手段がある。それが、サバイバルポイントだ。これは合宿一日目と二日目。四日目と五日目の二組で、一つずつ設けられている。例えば、今回の合宿において最初の二日間で行われるのは『しっぽ取り』だ。布を腰にぶら下げ、それを取られないようにする定番のゲーム。もし尻尾を奪われればマイナス5ポイント。奪えば5ポイントを得ることができる。つまりここにいる生徒が全員取られることがあれば180ポイントを失い、逆に奪えば180ポイントを得ることができるというわけだ」

「……」


 葛飾先生の説明に、流石の俺も少しだけややこしくなってきたため、一度頭の中で整理しておくことにした。


 まず合宿における全体的なクエストが存在する。それが『コイン探し』だ。クラスの中の誰かにコインを渡し、それを特定されないようにするというもの。もし特定されれば50ポイントを失い、逆に特定すれば100ポイントを得ることができる。一枚でそれなので3枚特定すれば300ポイントを得て、逆も然り。ただ、他の三クラスのコインを全員見つければ三クラス3枚ずつで合計9枚。つまり900ポイント得ることができる。最悪こちら側のコインを全て特定されたとしても特定し返せばどうにかなりそうだ。

 さらに期間中、それとは別にポイントを獲得する方法がある。それが島に散りばめられた宝箱を見つけること。あるいは特定の植物や生き物を見つけること。この場合、受付に渡せば5〜10ポイントほどずつ獲得することができる。植物や生き物に関してはガイドブックに写真が載っているため迷うことはない。心配は不要だ。

 最後に、特定の期間中掲出されるというクエストについて。これは1日目と2日目の二日間に一つ。船中泊を行う三日目は掲出されず、四日目と五日目にも一つ掲出される。つまり2回行われるクエストだ。

 最初に早速されるクエストは『しっぽ取り』。小学生がグラウンドでよくやる定番の遊びだ。もし尻尾を他のクラスに取られた場合、サバイバルポイントとして5ポイント奪われ、逆に奪えば5ポイントを得ることができる。つまりこのクラスの生徒の数が36人なので全部で180ポイントを所有していることになる。これもまた他の三クラスの生徒のしっぽを全て奪えば大体540ポイントほどになるが……流石にそれは現実的じゃないな。


「まあ、コイン探しにしろ宝探しにしろサバイバルポイントにしろ、詳しい情報はガイドブックに書いてある。各々知りたいことを調べ実践に望んでくれ。ポイントに関しては以上だ。四日目と五日目に掲出されるクエストは三日目の船中泊の時に説明を行う。何か質問はあるか?」


 葛飾先生が聞くと、特に説明がある生徒はいないようで手は挙がらなかった。


「よし。向こうに着いてからさらにルールが一つ追加される予定だ。今は口止めされているため言えないが、さらにややこしくなる可能性がある。混乱しないよう向こうに着くまでに情報を整理しておけ」


 先生の言葉を聞いた生徒たちは早速それぞれ話し合いを始めた。


 バスは海の見える海岸沿いを通っているため、おそらく目的地に着くまであと数分もかからないだろう。

 一応ルールについては理解したし、クエストも、もらえるポイントも理解した。

 やはり肝となるのはコイン探しだろう。正直他のクエストなんておまけだ。もらえるポイントの多さからして、コイン探しがどれだけうまくいくかで勝敗は大きく左右される。


「……」


 隣を見ると篠原が爆発して、アホの子みたいな顔をしていた。流石に文字に起こさない限り、一度では理解できなかったみたいだ。

 

 小難しいからな、一回で覚えられないのも無理はないだろう。


 俺はそんな篠原に港に着くまで今回のルール説明をしてやることにした。


《日程》

一日目 コイン探し&宝探し&しっぽ取り

二日目 コイン探し&宝探し&しっぽ取り

三日目 船上泊 (休息)

四日目 コイン探し&宝探し&不明

五日目 コイン探し&宝探し&不明

《コイン探し》

獲得ポイント:100

損失ポイント:50

《宝探し》

獲得ポイント:5

損失ポイント:5

《しっぽ取り》

獲得ポイント:5

損失ポイント:5


以上が今回の説明です。ここからかなり長くなりますが、お付き合いいただけるようがんばります!

よろしければ是非、

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モチベーションにつながりますので特に面倒ではないと思っていただければ是非よろしくお願いします。


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