バナナ弁当「全部入り」
おれはアレクサが嫌いだ。
ある日、部屋でアレクサと「ルームメイトで幼馴染の笹原千佳華に、いつ告白するか」について「散歩に誘おうか、思い切ってプールに誘おうか?」など相談しているうちに買い物かごにバナナを勝手にぶち込まれ、それが昨日アマゾンから届いて母親に酷く叱られてしまった。
おれの今日の弁当はバナナだ。
カレンダーを見れば、小学校を卒業して二か月以上経った6月。
チカ(千佳華のあだな)も夏服に着替え、おれよりもずっと大人びている後ろ姿はブラジャーの線が見えて中1のおれは思春期のせいか気が付くと気にとめてもらうイメージトレーニングを始めていた。
チカは可愛いし、色気がある。
そうだ、目の下のホクロは「泣きぼくろ」というんだっけ? きっとあんな強気そうなつり目をして、一緒に観覧車に乗ったら怖くて涙目になって、実はほくろの真下のつまり右胸のあたりにもほくろがあって、とかキモい妄想をしていた。
ホームルームが終わった休み時間に、配られた委員会の役割表のプリントを紙飛行機にして、チカの方に放り投げると、奇跡的にも空中で一回転してすぐ同じ軌道に動きを修正し、勢いのままにそいつは投扇興なら60点ぐらい入りそうな尻上がりダイブでチカの背中に刺さった。
「いたっ!」
チカが背中あたりをさすり、肩の下まで伸びたつややかな黒髪が揺れるが、おれのことは気にしていない。だっておれはベランダの方を見て、無かったことにしたから。
昼休み、おれが弁当箱を出していると、チカから突然声をかけられた。
「藤井叡太、エータ! 将棋やるんでしょ? 寝言で聞いたから」
どうやらおれは昼休み前に寝言でチカの名前を呼んでそういう話をしたらしい。
「将棋崩ししかできないけど、いいかな?」
「いいよ。わたしもそれしかできないから」
弁当箱を開けて、バナナ三本がぎゅうぎゅうに敷き詰められているのを見て、チカが笑う。
「ハハハ! なにそのお弁当! エータ、一本ちょうだいよ」
将棋崩しの結果は51点対7点と散々な負け方だった。
点数の数え方については面倒なので省略する。
でもおれは紙飛行機で60点取ったし、それに、夢が全部詰まったような弁当のおかげでチカと楽しく話せて幸せだ。
バナナの名前は「甘熟王」というらしい、母親に「あまねつおう」って言ったら、「かんじゅくおう」って読むんだよ、って訂正されたっけ。
でもおれの気持ちは今、甘熱王だし、そして
おれはアレクサが大好きだ。
以上、1000文字にキーワードを全部入れるというチャレンジをしてみました。
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私もみなさんの作品を読んでみたいです!
また、12月29日から「将棋崩し」を題材としたガチバトルものの長編の連載を開始する予定です。
そちらもあわせてご覧いただければ幸いです。