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プロローグ1 死屍累々

 呻くような遠雷が聞こえる。夥しい数の雨粒が地を叩き、吹いた風が窓ガラスを揺らす。どんよりとした空気感と、湿っぽい冷気が室内に充満していた。


 一般家屋にさえ防護魔法が付与されている現代社会において、風が吹くだけで揺れる窓は廃ビルの証明である。


 本来であれば誰も人が寄り付かない筈の打ち捨てられた廃墟にて、(しかばね)の山が築かれていた。


 薄暗い灰色の廊下に鮮やかな深紅の水溜りがよく映える、異様な光景だった。


 無数の死体は皆同じような黒服を纏っており、目に見える肌には古い刀創や弾痕、縫合痕などがある。


 見るものが見ればすぐに分かっただろう。屍山血河の基礎となった者達は一人残らずアウトローの住人であったと。


 彼らの死に方も凄惨なるものであった。死因は全て切断と共通しているが、断面は恐ろしく滑らかであり、巨大な爪かナニカで分割解体されたようである。


 首、腕、胴、脚、頭。例えるならば、ざく切りにしたジャガイモとにんじんをかき混ぜ、水とカレールーを入れる直前のフライパンの中身。それをバラバラになった人体に置き換えたような惨劇が、広がっていた。


「あ、あぁ………」


 男は眼前の絶望を直視する事が出来なかった。膝から崩れ落ち、手に持っていた得物が冷たい灰色の床に投げ出される。


 一瞬だった。とうとう武力介入されたのだと勘違いして、返り討ちにしてやると息巻いてワラワラとソレに(たか)ったのが間違いだった。


 生気を感じられない白髪。色素が抜けた白い瞳。陶磁器のような白い肌。西洋人形(ビスクドール)を思わせる無機質に整った端正な顔。


 ただその身に纏う黒衣だけは、夜を切り取ったような暗黒。


 外見だけは年端も行かない少年。特別魔力に優れているようにも、技に秀でているようにも思えなかったソレが腕を振るう度に、不可視の怪物が男の仲間を無惨に斬り裂いたのだ。


「ああ。あ、嗚呼あああアアアアアア!!!!!!」


 悪夢だ。これはきっとタチの悪い夢に違いない。頭を抱え、何度も額を地に打ち付けながら、男はそう自分に言い聞かせる。


 命が、たくさんの命が余りにも軽々しく踏み潰された。まるで塵芥のように。否、何でも無いかのように摘み取られた。


 確かに悪人だった。確かに、他人の幸福を搾取して腹を満たすような外道であった。


 しかし一人一人の人間に思い出があり、繋がりがあり、情があり、歴史があり、想いがあった。


 目の前に立つソレの瞳が、散り際の男達を見る際の温度が未だ脳裏にこびりつく。


 無価値だと。無為だと、無意味だと、無意義だと。生きる価値すらないと存在の全てを否定され、それに抗うことさえ許されずに呆気なく死んだ。


 圧倒的不条理。覆しようがない災厄。


 目の前にいるソレは、人の皮を被っただけのそういう類いのナニカなのだろう。


 ソレが男に向かって歩を進める。コツコツコツ、と。本当なら足音一つ立てず、それどころか視界に収められることさえなく首を刎ねられるだろう。それだけの実力をソレは持っている筈だ。


「はっ、ははは………」


 男は笑うしかなかった。


「ははっ………フザけんじゃねえぞクソッタレがぁああッ!」


 最後に一矢報いようと雄叫びを上げ、殴り掛かる。


 だが、いつの間にかソレは男の背後に立っており、


「は?」


 突然ソレが視界から消えた事に男は困惑する。


「ど、こにいっ———」


 水音がソレの耳朶を打つ。三枚おろしにされた男が、臓腑と血と脳漿をぶち撒ける聴き慣れた音だ。


 振り返って一瞥することもなく、片手間に惨劇を生み出したソレ———秘密結社《Xeno》所属二級構成員(シルバーランカー)白崎透は歩く。


 人差し指と中指を揃えた剣指をこめかみに当てて、念話(テレパス)の魔法を発動する。コール先は、彼が所属するXenoの情報司令部である。


⦅こちら情報司令部。コードネームと要件を⦆


⦅こちらコードネーム《中二病》。イルラシア公国首都圏の指定暴力団の拠点に潜入した。これより殲滅に移る。あとそれと、邪教団の術式痕跡を発見した。念の為首都圏に追加のメンバーを要請したい⦆


⦅了解した。コードネーム《中二病》は任務を続行。現場付近には《阿修羅》と《女豹》を送る。では健闘を祈る⦆


 こめかみから指を離して透はボヤく。


「今回のコードネームはハズレだな……」


 Xenoの構成員が任務に当たる際、遂行中に使用するコードネームをくじ引きで決定する。


 中には《血豆》や《天駆ける蒼き我》、《天上天下唯我たわし》のようなおふざけコードネームなどが混じっている場合があり、稀にそれを引いてしまう者が現れるのがお約束だったりする。


念話(テレパス)でしっかりと伝わってくるんだよネ、笑いを堪えようとしている意思ガ」


 語尾だけが半音上がる独特な口調は、聞く者に対して胡散臭さを印象付ける。独り言でさえもどこか軽薄で、仮面の裏を感じさせる口癖。


 さて、と一息入れて冷酷に呟く。


「楽しい愉しい殺戮(おそうじ)の時間ダ」


 悪夢はまだまだこれからだ。

良ければいいねとコメント、チャンネル登録(っぽい何か)よろしくぅ!

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