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小説)石部夜戦⑤

 本陣から走り出た本多忠勝は、「何が起きた?」と表を右往左往している旗本の一人を捉まえた。


 歳若い旗本は「賊が鉄砲を放っております」と慌てふためいて、歴戦の偉丈夫に応じた。

「宿場の外れ、今、井伊兵部様がお相手されておるよし!」


――鉄砲? 鉄砲の響きどころではない轟音であったが。

 忠勝は疑問に思ったが、この若造にただしても分かるまい、と質問を変えた。

「して、賊の数は?」


「ぞ・賊の数でございますか?」


 この曖昧な返しで、忠勝には直ぐに『敵の詳細は何も分かっておらぬのだ』という事が理解出来た。

――急ぎ確かめて参らねばならぬ

と思ったが、家康の本陣に呼ばれていたため、自慢の鹿角脇立兜も愛用の蜻蛉切の槍も無い。

 取りに戻る暇は無い。


 忠勝は若侍を放つと、哨兵のひとりに

「本多平八郎である、しばしの間、その方の槍を借り受ける」

と怒鳴った。



 石田三成配下の豪傑 渡辺勘兵衛は、石部攻め船手の総大将の島左近とは分れ、軍船一艘を率いて更に野洲川を遡上、小島本陣近くに密かに上陸を果たした。

 川面を見張る哨戒兵が居るものと、着上陸戦闘を覚悟していたのだが、草津口の戦闘に召集されたのか無人だったのだ。


 渡辺の率いる小隊は、震天雷しんてんらい装備の擲弾兵部隊である。

 三成は坂田郡国友村を領地に加えられたおり、鉄砲鍛冶を厚く遇するとともに火薬調合の秘術も学んだ。

 そして毛利水軍が織田軍相手に焙烙玉ほうろくだまを用いて善戦した故事と併せて、元寇の時に蒙古勢が使ったとされる「てつはう(震天雷)」を復活させたのであった。


 焙烙玉は素焼きの土器に火薬を詰め、導火線を付けたものだから、その土器部分を薄い鋳鉄製の容器に替えれば、震天雷の復元は――一から工夫するよりも――難しくはなかった。

 三成としては、その鉄製炸裂弾を実体弾に替えて、大筒から敵に向かって飛ばせるようになるところまで仕上げたかったのであるが、道半ばであった。


 しかし襲撃対象に近づくことが叶うなら、震天雷は手投げ弾としては一つの完成をみている。

 13世紀から使われていた、いわばこなれた兵器なのだ。


 ただし黒色火薬の燃焼速度は爆薬より遅いので、榴弾としての威力(爆風+破片効果)は高くない。

 一方で焼夷効果は爆薬より高く、船や建物を炎上させるには使い勝手が良かった。


 勘兵衛は島左近と別行動をとるにあたって

「必ずしも本陣に近付く必要はない。震天雷で本陣を粉微塵こなみじんにする事は叶わぬからな」

と言い含められている。

「脇本陣でも旅籠でも、内府の寝所近くに火を付けられれば良いのだ。それで内府を水口の舞兵庫殿の方へと『追いやる』ことが出来る。我らは勢子せこよ。身一つで命からがら逃げ落ちた内府の首を挙げるは、舞兵庫殿に任せる」


 これには勘兵衛「承知」と答えている。

「鉄焙烙を投げ入れたら、雑魚には構わず、左近様の元へと引き上げて参ります」

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