カーネーション、百合、百合、薔薇
未亡人マダム・カーネーション(36歳)は亡き夫の生家であるカーネーション家の家訓に則り、何よりも血統を重んじた結婚相手を二人の子供に用意しました。
カーネーション家は徹底した血統主義の一族で、「結婚相手はカーネーション家と同等か、それ以上の血統の持ち主でなければならない」と家訓で決まっていたのです。
長男で、カーネーション家の家督を継いだロジャーには、美しく聡明な貴族令嬢ユリスを。
天真爛漫で愛らしいロジャーの妹リリーには、貿易で財を成した大富豪にして、隣国王家の血を引く青年、カルロスを。
四人はすぐに意気投合し、仲睦まじい姿を見せていました。
「これでカーネーション家は安泰。私もゆっくり羽根を伸ばせるわ」
ほっとしたのもつかの間、ある日二人の子供とその婚約者たちがマダムのもとへ押しかけてきました。
「お母(義母)様! 私達、婚約を破棄させていただきます!」
「な、なんですって?!」
往年の少女漫画ばりに白目をむき、驚くマダム。
「どうして?! 貴方達、あんなに仲が良かったじゃないの!」
「それはそうですが、他に結婚したい相手がいるんです」
「私の選択にケチをつける気?!」
マダムは怒りに震えました。
「いいわ……どこの誰か言ってごらんなさい! ハンパな血統だったら許しませんからね!」
ロジャーとリリーは互いの婚約相手を指差しました。その婚約相手も、婚約相手の兄妹を指差していました。
……ようするに、ロジャーとカルロス、リリーとユリスが、互いに指を差し合っていたのでした。
マダムは一瞬息を呑み、
「……血統は良し!」
「やった!」
「だけど、子供はどうするの? 後継ぎがいなければ、カーネーション家は取り潰しよ?」
「親戚から養子を取ればいいではないですか」
「冗談じゃない! それじゃ、ユリスとカルロスを選んだ意味がないでしょう?! より優秀で、地位が高くて、偉大なルーツを持つ子孫を残させるために、二人を選んだのに! ユリスとカルロスも、血のつながっていない養子じゃ、ご両親が納得なさらないんじゃなくって?」
四人はひそひそと話し合い、答えを出しました。
「分かりました。探してきます」
「探す……って、何を?」
四人はマダムを納得させるため、男どうし・女どうしでも子供ができる方法を探す旅に出ると言い出しました。
マダムは「一年以内に見つけられなければ、予定どおりの相手と結婚する」という条件で、四人が旅に出るのを許可しました。
(見つかるわけないわ。女神にでも懇願しない限り、ね)
約束の一年後。四人はカーネーション家の屋敷に戻ってきました。
「見つけてきました!」
「嘘っ?!」
「こちらの女神に体を改造してもらったんです」
「いぇーい✌︎('ω')✌︎」
「そんな軽い女神がいるわけないでしょう?!」
「ホントに女神なのにぃ(⁎⁍̴̆Ɛ⁍̴̆⁎)」
四人は女神に願い、男どうし・女どうしでも子供ができる体質に変えてもらいました。
間もなく、四人の間に子供が生まれました。どの子も優秀で、カーネーション家の子孫に相応しい才覚の持ち主ばかりでした。
これにはマダムも認めざるをえず、四人の婚約破棄と結婚を許しました。
そしてどういうわけか、女神はマダムを気に入り、屋敷に居着いてしまいました。
「血統に固執して子供から自由な未来を奪うなんて、愚かな人間よねぇ。矯正のしがいがあるわぁ(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾」
「あの、そろそろ帰ってくださいます?」
「いいのぉ? 私、この世界で一番良い血統の持ち主だけど。再婚して、嫁になってあげてもいいのよ?(*´꒳`*)」
「た、確かに素晴らしい血統だわ。でも、爵位も資産もお持ちではないし……」
「(*´꒳`*)」
〈終われ〉