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トリプル シスター

作者: パルコ

#01 相容れないふたり


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お久しぶりです!

某大物クリエイターさんの人気動画からインスピレーションが湧いた作品です!

お医者さんや心療系のお仕事をされている方に怒られるかも知れませんが、ご容赦ください。


そして文章が下手になってますご了承ください!

 『今日も素敵な1日を!』


 朝から聞き流していたポッドキャストで、パーソナリティの男性の爽やかな声を聞き終えた。今日もカフェラテが美味しかった。時刻はもうすぐ十時。


 キッチンの戸棚から、紅茶の缶を取り出す。兄が今日のために買ったフランスの老舗ティーメゾンのホワイトティーだ。

「ふう……」

今日は特別な日だ。青一つない曇り空で、風も熱い。決して色鮮やかな日ではないけれど、私はちゃんと笑顔を作れるんだろうか。


 兄に幸せになって欲しいと、ずっと思っていた。


 女手一つで私達を育てていた母は、兄が十六歳を迎える日に急病で亡くなった。兄は将来の夢を叶えるために大学進学を考えていたのに、皿洗いの一回すらしたことが無かった七歳の私を養うことを考えなきゃいけなくなった。


 伯父と祖母は心配してくれたけど、二人に頼っていたのは兄が高校を卒業するまでだった。兄は高校を卒業後すぐに不動産会社へ就職した。夜遅くまで働き詰めて、休みの日も資格の勉強やバイトをしていた。私は家事を一通り習得した。自分のことで兄の時間を削るまいと健康管理を徹底したし、保護者が関わる学校行事や先生との面談は頑なに拒否した。


 私が就職して自分でお金を稼ぐようになってから今も、兄と二人で暮らしている。家の中でくらい余計なことを考えず、穏やかに過ごしてほしい。いや、穏やかにだけだと足りないかも知れない。幸せな人生を歩んで欲しい。



 目を閉じると、目の前に真っ暗な世界。もう一度深呼吸して、また目を開ける。

「……うん、よし!」

私は食器棚へ顔を向けた。

『ねえ、“私”』

「わっ!」

自分と同じ声がして少し驚く。いつの間に現れていた声の持ち主は自分と同じ姿をしていて、私と違うのは、オーバル型の眼鏡と、私自身は選ばない空色のブラウスくらい。

『今日は朝から緊張するというか…なんだか落ち着かないわね』

「うん…そうだね」

『おいテメー、オレのこと忘れてねえか?』

もう一つ声が冷蔵庫側から聞こえて振り向いた。粗い言葉遣いの彼女も、私と同じ姿をしている。私が選ばないスカジャンとシルバーのチョーカーが目を引く。

「忘れてないよ。久しぶり」


 二人は、二十年前に現れた『別人格の私』だけど、私には現実世界に実体があるように見えている。別人格は他の人には見えないらしく、頭が良くて理屈っぽい“私”をインテリ、ちょっと乱暴だけど腕っぷしがいい“私”をバッドと呼んでいる。

『あなたが来たら話の腰が折れるから引っ込んでてよ』

指先で眼鏡を上げながらインテリがバッドに向かって言った。

『は? 悠杜(ゆうと)のクソ上司シメ上げたのは誰だと思ってる?』

『そのせいで兄さんは転職することになったわ。それにメインの私が成長してから兄さんのことを守ってたのは私よ? 腕っぷしだけが取り柄のあなたにはわからないかしら?』

『なんだと?』

「ちょっと二人とも! 今からお湯沸かすんだから邪魔しないで!」

別人格が主人格を放ってうるさいので、私は紅茶を淹れる準備を進めることにした。


 十時十五分。パタパタと足音が聞こえてきたので、別人格たちを宥めることにする。

「もうやめてよ! お兄ちゃん帰ってきた!」

『『え?』』

ただいまー、と聞きなじんだテノールが聞こえる。

「ただいましお、り、」

声が途切れて、目を丸くした兄が私の目の前にいた。


 兄はある一点を見つめる。

「今日は、三人揃ってるんだね」

兄の表情に安堵が乗った。


一番は、バッドだった。

『そっか。悠杜には見えるんだったな』

「うん、バッドしーちゃんは、二年ぶりくらいなのかな?」

『そうだな』

『兄さん、見えてる?』

次に反応したのは、インテリ。兄の前だからか、声に少し無邪気さが混じる。

「うん、見えてるよ」

『よかったー』



 お土産に買ってくれたゼリーを兄から受け取って、冷蔵庫にしまいながら一番の疑問を兄にぶつけた。

「それで、お兄ちゃんの彼女ってどんな人なの?」


 先々週に兄から「彼女を紹介したい」と言われ、私も詳しく聞けていなかった。私が知っているのは、相手が年下の女性だということと、付き合ってもうすぐ一年経つこと。

「ん、医大生だよ」

「医大生?」

『『いだ、いせ…』』

戸惑った別人格の声が重なった。ふたり実は仲良しでしょ?

「精神科医になりたいって言ってた」

「あ、そうなんだね……ちなみに年齢は?」

「五回生で二十四歳」

「あー……」

『いや、「まあまあ、思ってたより」じゃないよ』

インテリの指摘に、自分の判断が狂っていたことに気づいた。


 兄は苦笑した。

「インテリしーちゃんは心配しすぎだよ。俺もう四十だし、それなりに人生経験も積んできたつもりだよ。俺の選んだ道を見守って欲しい」

インテリは少し考える素振りを見せて、兄に向き直った。

『兄さんがそう言うなら、メインの私に任せるわ。頑張ってね』

そう微笑んでインテリは消えていった。


 続いて兄は、バッドに優しく釘を刺す。

「バッドしーちゃんも、今は出てこないでね」

『…わーったよ。危なくなったらコイツの体借りるわ』

バッドは私の髪を崩すようにわしわしと頭を撫でた。

「しーちゃん、俺…わかってるから。ありがとう」

言葉の意味は、私もバッドもわかった。

『ハッ……バーカ』

バッドは口角を上げて、捨て台詞を吐いたら消えていった。


 十時二十分。紅茶の準備が整った。

「じゃあ、連れてくるね」

「うん、わかった」

兄はまた部屋を出た。窓越しに見えた空は変わらず青がない。



 兄が連れてきた彼女に、私は三秒くらい声が出なかった。

「初めまして、梁本(はりもと)瑠衣(るい)です」

凛とした声、柳の葉のように整った両目、華奢な骨格で出来た細い肢体と小さな顔、艶のある黒髪にすべすべの白い頬。


 芸能人といわれても納得してしまう容姿の女性に目を奪われる。

「……あ、初めまして! 國香(くにか)(しおり)です!」

ニコリと微笑む瑠衣ちゃんと目を合わせるのが恥ずかしくて、「どうぞおかけください」とだけ伝えて、慌ててキッチンへ逃げた。



 瑠衣ちゃんは兄の言ったとおり、精神科医を目指す大学生だった。バークレーへの語学留学を経験し、二十歳で名門私立の医学部に入学した生粋のお嬢様育ちだ。


 瑠衣ちゃんは、こっちが緊張するほど美しい女性だった。私が淹れたアイスティーを飲む所作も、会話中の言葉遣いも、兄を立てる気立ての良さも。だから私は、彼女に疑問をぶつけた。

「うーん、もちろん兄にパートナーが出来たのは嬉しいけど、瑠衣ちゃんはすごい素敵な子だし、まだ若いのに。わざわざ四十の男じゃなくても、良かったんじゃない?」

彼女は一瞬目を丸くして、その後すぐに微笑んだ。

「私は……悠杜さんがいいんです」


 一目惚れに近かったのだという。ふと入ったカフェで商品を落として床に溢してしまったお客さんを助ける姿がスマートだったとか。恋愛への興味が一切失せた兄を一年かけてアプローチし、兄が根負けした形で交際がスタートした。

「そうなんだね……うちの兄ハードル高かったでしょう?」

「はい」と瑠衣ちゃんは苦笑した。兄はおおらかに見えるが、恋愛に関してはこだわりが強い。優しくて外見が好みの女性でも、いくつか苦手なポイントを見つけた途端に恋愛対象から外れる。だから兄の元カノは一人だし、元カノとの交際期間はたった五ヶ月だった。そんな兄が私に紹介するとなれば、将来的なことも真剣に考えてるのだと思う。


 会話をしながら瑠衣ちゃんと兄の関係性を探っていると、インテリが瑠衣ちゃんの後ろに現れた。好奇心に勝てなかったんだろうか。

『かわいいお嬢さんじゃない。育ちも良くて、庶民感覚もあってしっかりしてるし』

そうでしょそうでしょ、と心の中で相槌を打つ。兄もインテリが認めてくれたのが嬉しいのか笑みが濃くなって、瑠衣ちゃんが不思議そうに見ていた。

「どうしたの? 悠杜さん」

「ん? 栞が瑠衣を気に入ってくれて、嬉しいんだよ」

『おい、こいつケツ臭えぞ』


 私と兄の顔が固まったのは、絶対にこいつ(バッド)のせいだ。

 


 舌先まで出ていた言葉は、すぐに反応したインテリが代わって言ってくれた。

『なんでそんなこというのよ!!!』

『誰がどう嗅いでも血の匂いすんだろ』

『余計なこと言うんじゃないわよ!!』

『普通の賃貸マンションが血生臭えのは余計なことか?』

『余計なことでしょ!?』


ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ!!!


 言い合いを始めてしまった私の別人格。それを必死で無視する私と兄。

「あれ?」

瑠衣ちゃんが声を上げた。マズい! 不自然すぎて怪しまれた!?

「悠杜さん! 茜屋のあんぱん!」

「あ! そういえば持ってきてない!」

茜屋は都内にお店を構える有名なあんこ屋さんだ。そういえば瑠衣ちゃんからの手土産はそれだと聞いていたけど、彼女のキラキラオーラに緊張してすっかり忘れていた。

「栞さんが気になってるって聞いて買ってきたんですけど、車に置いてきちゃって! 急いで取ってきますね!」

「俺も行ってくる」

「うん、気をつけて!」



 二人を見送って、この場にいるのは三人。二人はもはや関係ない罵り合いをしている。

「喧嘩するなら出てこないで」

二人の声がピタッと止まった。


 今日は特別な日だ。青一つない曇り空で、風も熱い。決して色鮮やかな日ではないけれど、兄の幸せな未来を後押しする日だ。そんな日に、聞いているこっちが不快になる言葉なんか論外だ。

「血の匂いは……お尻からだったら、たぶん生理じゃないの? 大っぴらに言うことじゃないけどね」

うぐ、と言葉に詰まった様子のバッド。

「インテリも反応がデカすぎる。バッドの鼻が利くのは今に始まったことじゃないでしょ」

インテリは『ごめんなさい』と力のない声で謝った。別人格を強く叱ることはほぼない所為か、二人とも元気をなくしている。


 瑠衣ちゃんとお兄ちゃんが帰ってくる、と伝えると別人格はすごすごと消えていった。

「ただいまー」

「戻りましたー」

「ありがとー! ごめんね気遣わせちゃって!」

高級感のある暗赤色の紙袋を覗くと、『茜屋 こしあんぱん』と上品な筆文字で書かれた箱がある。茜屋のあんぱんは一つ四百円近くする高級品だ。私はあんぱんを一つずつ出して、三人で食べてみることにした。



 美味しいあんぱんを堪能しながら会話が続いた。そして、時計は十一時を指していて、そろそろ瑠衣ちゃんが帰る時間になった。

「瑠衣ちゃん、兄をよろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

私の言葉に、瑠衣ちゃんはしっかりと頭を下げて返した。


 用意したグラスやお皿を下げる。兄は瑠衣ちゃんに忘れ物がないか確認していた。

「じゃあ、瑠衣のこと送ってくね」

「うん、瑠衣ちゃんまたね」

「はい、お邪魔しました!」

兄と瑠衣ちゃんが部屋を出ていった。


 ふう、と一つ溜息をつく。今日は一段と緊張した。あんな非の打ちどころがない子に会ってしまったんだから。

『認めるの? あの子と兄さんのこと』

しばらく姿を消していたインテリがそう言った。

「気に入ってくれたんじゃないの?」

洗っているグラスに目を向けたまま私は言った。

『うん、すごくいい子だったと思うわ。それはバッドも一緒』

「じゃあいいじゃない。一年近くお兄ちゃんの側にいた子なのに信じられないの?」

『まあ悪いヤツではねえよ』

いつの間にかバッドの声も聞こえてきた。

『ただ、オレもコイツも、あの女に嘘があるって感じただけだ』

「……瑠衣ちゃんがお兄ちゃんを騙してるってこと?」

『違うわ。何かははっきりわからないけど、何か秘密があるかも知れない』

別人格は、兄の恋人に警戒している。その真っ直ぐな声を、私は聞き流すことは出来なかった。




 恋人の妹である栞さんへの挨拶を終えた。明るくて気さくで、母のような、姉のような、安心感のある女性だった。今は車を停めた駅前のパーキングまで恋人に送ってもらっている。

「ここで大丈夫?」

「うん、だいじょうぶ!」

「ごめんね体調よくない日に」

「いいの。栞さんともお話したかったから」

「……そっか」

愛車の白いハリアーに乗ってエンジンをかける。

「またね」

「うん、またね」

彼に笑顔で見送られながら、私は車を走らせた。



 悠杜さんに見送られておよそ二十分。私はバーガーショップの駐車場に車を停めた。

 栞さんに話した馴れ初めは嘘ではない。ただ、話していないこともある。


 彼がお客さんを助けた現場には、栞さんもいた。彼らの会話には『別人格』という言葉がしばしば出てきた。そして、悠杜さんは栞さんから目線を外して頷く動作をしていて、『栞』と『しーちゃん』という妹に対する呼び名を使い分けているように思った。


 ある可能性を感じた私は、悠杜さんと近しい関係になるべく、交際を申し込んだ。彼の理想の女性になるのに一年かかってしまったけど、彼――長期間の研究が可能なサンプル――を手に出来たから大きな収穫になった。


 悠杜さんの誕生日にはボイスレコーダーが内蔵された腕時計をプレゼントした。洗浄や手入れを名目に時計を一時的に預かって録音データも保存した。その中でも悠杜さんが栞さんのことを『栞』と呼んだかと思えば、数秒後には『しーちゃん』と呼んでいたり、明らかに栞さんへ向けていない会話があったり。そして、栞さんが深夜に悠杜さんではない誰かと会話していたり、『バッド』『インテリ』という単語を誰かの呼び名のように使ったり。



 もし、彼らの行動と、私が考えていた可能性が一致しているのであれば、

「これで、“先生”を助ける手がかりが出来る……」

一緒に”先生”を助ける研究をしている教授に電話をかける。タイミングが良かったのか、教授はすぐに出てくれた。

「……教授。梁本です。……はい、三十二歳女性と四十歳男性です。……はい、可能性は高いです」

教授に『分類は?』と問われ、私は続ける。

「女性の方は複体型、そして男性の方は、






 世界で六番目の症例、干渉型の乖離人格と話す者(アナザートーカー)だと思われます」



ありがとうございました!

まだまだ設定が詰められていないのですが、浮かんで来たら投稿したいと思います! (これはたぶんプロの監修が要ります、、、)



*登場人物*

國香悠杜…四十歳。不動産会社の営業を経て、メーカーのルート営業で勤続十九年。優しくて純粋な性格のため、若い頃はいいように利用されることもあったが、栞たちの協力で現在は穏やかに暮らしている。恋愛対象になる相手が限りなく少ないのは、交際相手から受けるストレスを栞へ吐き出すことに大きな抵抗があるため。瑠衣との交際は断固拒否していたが、瑠衣の努力とアプローチに根負けした。栞の別人格を認識してコミュニケーションを取る【干渉型-乖離人格と話す者-アナザートーカー】である。


國香栞……三十二歳。大学卒業後、文房具や事務用品を扱う商社の営業事務で勤続九年。両親を亡くし、悠杜に支えられた恩から、悠杜の幸せを誰よりも願っている。子どもの頃から純粋すぎる悠杜を心配して悠杜の支えとなるべく行動していたが、精神的な限界を起こし、二人の別人格が生まれた。『バッド』は攻撃対象を容赦なく傷つけるバッドガール、『インテリ』は冷静でクレバーな言動を取るが、好奇心も旺盛。自身の別人格を実体があるように認識してコミュニケーションを取る【複体型-乖離人格と話す者-アナザートーカー】である。


梁本瑠衣…二十四歳。精神科医を目指す大学生。資産家の祖母と公認会計士の父、経営者の母を持つお嬢様。十代の頃から慕っていた“先生”を病名のない精神疾患から助けるため、【-乖離人格と話す者-アナザートーカー】の情報を集め、研究している。國香兄妹が【-乖離人格と話す者-アナザートーカー】である可能性を見出し、近い接点をもつべく悠杜の恋人となったが、悠杜自身のことも大切に思っている。


*乖離人格と話す者*

研究者の間では【アナザートーカー】と呼ばれているが、正式な病名は不明。自身と同じ容姿をした別人格が現実世界に実体として現れたように認識し、コミュニケーションを取る【複体型】と、複体型アナザートーカーの別人格を認識し、コミュニケーションを取る【干渉型】の症例が見つかっているが、アナザートーカーのほとんどは複体型であり、干渉型は世界に数人程度と非常に症例が少ない。複体型の場合、主人格の身体を使って行動や会話をすることもあり、解離性同一性障害と誤認されることもある。

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