春休みは、未だ明けず・・・・
毎日のようにバイトをしていて、突然休みになったりすれば、一日の時間が妙に長く感じたりするもので、その例に漏れず、喫茶店のマスターの用事で臨時休業になってしまい、暇を持て余している最中だ。大学も春休み中で講義も無く、かといって特別用事があるわけでもない。あまりに暇で部屋の掃除を敢行してみたが、昼前には終わってしまい、買い物も昨日のうちに済ませてしまったので、やる事がなくなってしまった。
「ヒマだ・・・・」
残念ながら、部屋にテレビという物はない。情報等は雑誌や携帯で取り入れているし、芸能に全くといって興味のない俺にとっては、無用の産物に過ぎなかったからだ。しかし、こうも暇なら話は別である。
ピリリリリ・・・・!!
無機質な着信音が部屋に響く・・・・
「もしもし?」
「もしもし、澪亜?私だけど」
聞き慣れた声は、先輩より少しばかり年上の、女性のもの・・・・なんて事はない。姉からだった。
「ああ、どうしたの?」
「どうしたの?じゃないわよ。今は春休み中でしょ!?今年に入ってこっちに帰って来ないから・・・・」
「今年からバイト始めてね」
「バイト?あんたが?」
いつもながら、失礼な姉である。
「うん。生活費とか稼いでるし、なるべく親父からの仕送りは使わないようにしてるよ」
「へーぇ、あんたがねぇ・・・・」
「うん、友達も出来たし、元気にしてるよ。姉さんこそ、元気?」
「あたしに元気?て聞くのは野暮よ。相変わらずってとこ。それより今は春休み中でしょ?帰って来ないの?」
「うーん、とりあえず今日から三日間は休みで暇だけど・・・・」
「じゃ、帰って来なさいよ!!あんたの友達連れて」
「ヘ?」
「ヘ?じゃないわよ。あたしも会社潰れてヒマだし、あんたの友達ってのにも興味あるし」
さらりと爆弾発言した姉。会社潰れたって・・・・
「いや、俺はいいけどむこうの都合もあるし・・・・」
「ま、駄目ならあんただけでも帰って来なさい」
「・・・・うん、わかった」
どちらともなく「それじゃ」と声をかけ、電話を切る。姉とは大学入学以来、一度も会っておらず、家に帰るのも、約一年ぶりだろうか。
「はぁ、とりあえず電話してみるか・・・・」
電話の相手は、言うまでもなく先輩、九曜美月さんである。
トゥルルル・・・・トゥルルル・・・・
「澪亜か、どうした?」
たった二回のコールで呼び出しに応じた先輩の一声に「もしもし?」はなかった。
「あ、いや・・・・」
「なんだ?用事があったんじゃないのか?」
「じつは、ですね・・・・」
ひと呼吸置いて、先輩に用件を伝える。どうにも姉の言い出した事なので、いまひとつ説明しづらい事なのだが。
「ほう、それはいいな!!生憎私もヒマでな、かといってやる事もなくてダラダラしてたんだ」
「あれ、意外ですね。先輩の事だから友達と買い物とか行ってるんだと思いましたよ」
「いや、私の連れも実家に帰省してるんだ」
やる事もなくて俺に電話しようとした矢先に、俺から電話があったんだと、先輩は言う。道理で電話に出るのが速いはずである。
「なら、30分後に澪亜のアパートに来るから」
「え、いや、迎えに行きますよ」
「心配するな、実家は県内だろう?車をまわすから待っててくれ」
「いや、でも・・・・」
「気にするな、それじゃ30分後に!!」
と、一方的に電話を切られ、俺はしばし自宅待機となった。
→→→→→
30分足らずでインターホンが鳴り、やって来たのは当然の如く先輩だった。
「待たせたな、さあ行こう!!」
「早く行こう!!」と俺を急かす先輩の表情は嬉々としており、反対に俺の表情は、漠然たる不安が浮かび上がってしまう。あの姉の事である、ただでは済むまい・・・・
車に乗り込み、先輩と俺は姉の待つ我が海棠家へと向かうのであった。
俺の心に、一抹の不安を残して・・・・




