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嘘の代償  作者: 矢枝真稀
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帰路の途中で・・・・

田尻の家で酒を飲み、気がつけば時刻は明け方の4時。他愛ない会話も底を尽き、俺は夢の世界へと旅だっている先輩を起こしている途中である。



「先輩、帰りますよ、起きて下さい!」

「・・・・んぶ」

「先輩ー?」

「・・・・おんぶ」

「何を幼稚園児みたいな事を言ってるんですか?早く起きて下さい」



目を開けた先輩は、酒がまだまだ体内に残っているようで、焦点が定まっていないようだ。とりあえず肩を貸して立ち上がらせようとするのだが、足元はふらつきバランスを保てないようである。



「抱っこ・・・・」

「・・・・だから」

「抱っこ!」



恨めしげに俺を見つめる先輩は、床にしゃがみ込み「抱っこ!」を連呼してる。助けを求めようと田尻へ視線を向けるが、いつの間にかヤツまで夢の世界へ旅立っている。



「・・・・今回だけですよ」

「抱っこーっ!」



完全に幼稚園児と化した先輩を抱き上げるのだが、高身長の割には体が軽く、簡単に持ち上げてしまった。しかし、どうしても抱っこ状態では歩き難いので、先輩をおんぶして田尻の部屋を後にした。










「うーっ、さぶっ!!」



明け方という事もあって、帰り道に人はいない。ただ、露出した肌に触れる風は、春だというのに突き刺す程に冷たさを帯びていた。俺の背中で園児と化していた先輩も、知らぬ間に規則正しい寝息を立てている。


「寒くないですか?」

「・・・・」



出掛けにマフラーを先輩の首にかけていたのだが、今度は手が寒いようで、外灯に映った先輩の指は、真っ赤に染まっている。俺は先輩を起こさないように、片方づつ先輩の手に使っていた手袋を装着。何とか起こさずに両方の手袋を装着し終え、俺は再び歩を進めた。

頼りなくポツリ・・・・ポツリと外灯の明かりを辿りながら、ふと見上げた夜空。雲一つない空には満天の星が輝きを放っている。



(何年ぶりだっけ、星を見るなんて・・・・)



下を向いて過ごした日々・・・・星空を見上げる事も、心に余裕もなかった昔の俺。


(先輩、ありがとう)



ゆとりが出来て、久しぶりに見上げた星空は、無限の輝き。心を満たす、夢幻の光り・・・・。背中で眠る先輩に、心の中で感謝の言葉を伝える。声に出せば先輩が起きてしまいそうな気がして、出来なかった。






⇒⇒⇒⇒⇒









田尻の家を出て徒歩10分、未だ起きる気配のない先輩のアパートへと到着。無用心にも鍵は掛かっておらず、手探りで照明のスイッチに手をかけた。



カチッ・・・・と音がしてほんの数秒で、部屋の全体像が浮かび上がる。必要以上の物が存在しない殺風景な部屋の主を、ベッドに寝かせて、己の体にかかっていた負担を解放する。バキボキと背骨が音を鳴らし、軽くなった身体を先輩の方へと向ければ、規則正しい寝息を零して、幼いこどものように口元に指を立てていた。



「おやすみなさい、先輩・・・・」



呟くように吐き出した小さな声に、先輩は一瞬ぴくりと反応し、再び規則正しい寝息を漏らす。

先輩を起こさないように忍び足でベッドから離れ、俺は部屋を後にした。

自分の生活してるアパートへ歩を進めながら、もう一度空を見上げる。


















変わらず、星々は煌々と光を放っていた。

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