思い出を一つ失って 02
同じく九曜美月の視点です。
高橋美果。私と同じ、同級生。しかしながら・・・
「子供いるのか・・・」
「正確に言うなら、お姉ちゃんの子供なんだけどね。お姉ちゃんは、旦那さんと夫婦旅行先で事故に巻き込まれちゃって、二人とも死んじゃったんだ・・・」
「そう・・・なのか」
「あ、ごめんごめん!暗い話しちゃって!!」
アハッと笑う美果だが、その胸中は、きっと辛く、悲しみを耐えているのだろう・・・。私も、それ以上は首を突っ込む事をしなかった。
「あの子ね、美咲って言ってね。ほとんど親との思い出が無いの・・・だからね、今はお姉ちゃん達に代わって私がお母さんをしてるんだ」
「そっか・・・偉いな、みっちゃんは」
昔から、みっちゃんは世話を焼くのが好きで、よく下級生の面倒を見てたっけ。
「私の夢はね、この子を立派に育てて、いつかお嫁にいく時に「ありがとう、お母さん」って言われる事なんだ」
「みっちゃんなら、出来るさ!」
「フフッ・・・ありがとう、美月ちゃん!」
「お母さーん!」と叫びながら、美咲ちゃんはみっちゃんの元ヘ駆け寄る。ひざ小僧には、転んだのだろうか、擦り傷から血が滲んでいる。
「あら、転んだの?痛く無い?」
「いたくないもん!」
「そう?」
「美咲ちゃんはいい子だね、ご褒美あげる。ほら、みっちゃんにも!」
今だ冷たいラムネを二本、みっちゃんと美咲ちゃんに差し出す。
「ありがとう、お姉ちゃん!!」
「ありがとう、美月ちゃん!・・・うわぁ、懐かしいなぁ」
「ふふっ、あの小さな駄菓子屋のばあちゃんに貰ったんだ」
親指でポンッとビー玉を押し、本日二本目のラムネを喉ヘと流す。みっちゃんも同様にして飲むのだが、美咲ちゃんは力が弱い為、なかなか開ける事が出来ない。
「美咲ちゃん、開けてあげよっか?」
「いいもん、出来るもん!」
なかなか負けず嫌いな生活らしい。悪戦苦闘しながらも、美咲ちゃんはどうにかラムネのビー玉を押し込む事に成功して、シュワシュワと泡を立てるラムネに口を付ける。
「・・・おいしー!!」
どうやら気に入ってくれたようだ。
「あのばあちゃんの店、失くなるらしい」
「うん・・・寂しくなるね・・・」
しみじみと切なさに浸る私達の耳に、カラカラッと音が聞こえる。それは美咲ちゃんが、空になったラムネ瓶を見つめながら、中に入ったビー玉を揺らしている音色。
「きれーい!!」
その無邪気な笑顔は、少しだけ私達の切なさを、拭ってくれた。