想いは募り・・・
相模玲奈視点です。
澪亜は笑う・・・。私も、笑っている・・・。
こんな日が来る事を、どれだけ待ち望んでいただろうか・・・。
(あぁ、こんなに素敵な笑顔だったんだ・・・)
仕事の忙しさを利用し、澪亜の事を忘れようとした。けど、どうしても頭から離れる事は無かった。
思い出すのは、笑う事を忘れた澪亜の顔・・・。後悔と懺悔だけが、私を縛っていた。
(ごめんね・・・)
せっかく澪亜が場を盛り上げてくれている。言葉には、出せなかった。
(・・・ありがとう)
心の中で、小さく頭を下げる私。胸に燻っていた罪悪感が、彼の笑顔で払拭されていく・・・。
同時に、別の想いが再燃している事に気付く。
「どうしたの?」
「ん・・・ちょっと、ね・・・」
美羽の問い掛けに、私はちょっと苦笑い。やっぱり、バレバレかなぁ・・・。
「(まだ、好きなんでしょ?)」
「(・・・うん、そうみたい・・・)」
澪亜を取り巻く人込みから外れ、私は美羽の問いに素直に頷く。
ほんとは、芝居じゃなかったんだ。金子くん達の誘いにのったのは、いつも遠くで見ていた海棠くんに、少しでも近づきたかったから・・・。
ほんとはあんな結末なんて、望んではいなかった。
「(良いんじゃない?まだ好きでいても)」
「(・・・そうかなぁ?)」
「(頑張れ!・・・まぁ強力なライバルがいるみたいだけど)」
「(え・・・えぇっ!?)」
ラ、ライバル!?だ、誰っ!?
「(ま、その辺は慎吾か沙織にでも聞いて。私も詳しくは知らないから)」
にゃは〜♪とでも擬音が聞こえそうな感じで、体育館に準備されている料理を物色する美羽。
(ラ、ライバルって・・・)
そりゃ、海棠くんは大学生だし彼女くらいはいるだろうと覚悟はしてた。けど・・・現実にそんな事を言われると、やっぱり不安になるよ・・・
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一次会も終わり、帰り際にみんなで写真撮影。周りのさりげない気遣いで、私は海棠くんの隣。密接する集団の中で、私の心臓は高鳴りっぱなしだった。
「澪亜、二次会は?」
「あ〜、俺はパス。ちょっと寄る所があるから」
「そっかぁ、んじゃ相模さんは?」
「う・・・ん私も遠慮するよ」
私と海棠くんは、二次会を遠慮して、昔よく行った町の小さな喫茶店ヘ。ちょっと強引な気もしたけど、海棠くんは苦笑混じりに我が儘に付き合ってくれている。
「こんばんは〜」
「こんばんは!」
時刻は8時。町で一軒だけの喫茶店に、お客さんはいなかった。
「あ〜い、いらっしゃい!何にしましょう?」
「俺はブラック。ホットで!」
「私は・・・あ、カフェ・オレのホット!」
「あ〜い!」
喫茶店とは言うものの、昼は駄菓子屋のこの店は、当時と変わらずおばあちゃんが経営している。刻み込まれた皺に、垂れた目尻は変わらず優しい。
「ブラックとカフェ・オレ。お待たせ〜!」
数分で、注文した物は差し出された。鼻をくすぐるコーヒーの薫り。一口飲めば、ほのかな苦味と甘さが口の中いっぱいに広がってゆく。
「・・・で、聞きたい事って?」
「うん、あのね・・・その・・・」
付き合ってる人はいるの?好きな人はいるの?
私の事、好きですか?
聞きたい事がいっぱいで、何から話せばいいのか・・・。
「どぅれ、わたしゃ奥におりますから、ごゆっくりどうぞ・・・」
おばあちゃんは気を利かせてか、一声かけて店の奥に引っ込んでしまった。
「あのね・・・彼女とか、いるの?」
「彼女?いないよ。一応告白はされてるけど・・・・・・」
「えっ!?」
「アパートに戻ってから、返事を聞くって言われてね」
嬉しそうに話す海棠くん。私は、平静を装ってたけど・・・・・・
辛かった。
「その人はね、俺の大切な人なんだ。まさか告白されるなんて思ってなかったけど・・・」
やめて・・・
「でね、その美月さんが・・・」
そんな嬉しそうな顔、しないで・・・
「それから・・・」
もう、やめてっ!!
「それから・・・・・・どうした?」
「・・・かな」
「え?」
「・・・駄目かな?」
「どうしたの、相模さん?」
「私じゃ、駄目かな?」
縋るように、私は言葉を投げかけていた。
「ホントは、初恋だった。海棠くんは芝居だって思ってたかもしれないけど・・・」
「・・・・・・」
「・・・今も、好きです・・・」
返事も聞かず、私は店を飛び出していた。