初恋と、流れた月日・・・
澪亜視点です
「ひ、久しぶりっ!!」
そう言って、慎吾夫妻の横で頭を下げた女性・・・言わば初恋の、人。
「元気そうだね、相模さん・・・」
「う、うん!海棠くんも・・・」
相模玲奈は、一生懸命に笑顔を作った。
「あ、ワリ!俺と沙織は幹事の仕事が残ってんだ!!」
「そ、そうだった!すっかり忘れてたー!!」
幹事ってのは別として、コイツらは嘘が下手だな。
おそらく気を利かせてくれたんだろうが、正直困る。
「今、学生?」
「あ、うん。一応市内の大学に通ってる」
「そ、そうなんだ・・・何大?」
「紫桜司大学。相模さんは?」
「わ、私は高校卒業して、今はモデルの仕事してるんだ」
唐突に投げかけられた問いに応え、今度はこちらから聞き返せば、しどろもどろになりながら言葉は返ってくる。
「そうなんだ。ごめんね、俺はそういう事に疎くて、テレビとか見てないから・・・」
「う、ううんいいよ!私だってまだ駆け出しのペーペーだし」
「でも、凄いね。頑張ってるんでしょ?」
「うん、いつかみんなの憧れって言われるようになりたいから・・・」
楽しそうに話す相模の瞳は、生き生きと輝いている。
「海棠くん、知らないの?相模は今、飛ぶ鳥を落とす勢いがある売れっ子モデルだよ!!」
「オワッ!?・・・お前、平田?」
「久しぶり、海棠くんに相模さん!!」
平田美羽。慎吾・沙織と同じく小さい頃からの顔なじみだ。
「Reinaって芸名で、結構テレビとか雑誌に出てるんだよ。今じゃ玲奈の来た服は、即売切れになるって有名だし!!」
「あ、あんまり誉め過ぎ・・・」
顔を真っ赤に染める相模は、照れ臭そうにおたおたとしている。
「凄いな、相模さんは・・・」
「そんな事ないよ。事務所のみんなが頑張ってるから、私も頑張らなきゃって!」
「でも、頑張ってるから人気が出る。俺はそう思うよ」
「・・・ありがとう、海棠くん」
素直にありがとうと言う、彼女の笑顔は昔と変わらない・・・。
「さてと、邪魔者は消えるよ。ごゆっくり〜」
「なんのこっちゃ?」
「さ、さあ・・・」
ふらりと現れたと思えば、ふらりと人込みに紛れる平田・・・ある意味不思議な顔なじみである。
しばし頭に疑問符を浮かべ、その後は懐かしい顔ぶれ達と昔話に華が咲く。
当然、あの時の話題も出てくる訳だ。
「思えばあの日以来、お前は笑わなくなったよな・・・」
遠くを見つめ、淋しげに笑うのは、金子翔。
「すまなかった、ごめん!!」
悪戯っ子だった金子に唆された友人は、遊び半分な気持ちで玲奈を誘い、『恋人ごっこ』と称して何も知らない俺をターゲットにした。
玲奈からの告白を疑う事無く受け入れた俺は、天にも昇りそうな程、俺の気持ちを高揚させ、それが芝居だとも気付いていなかった。そして付き合い始めて一週間後、俺は金子からネタばらしを聞き、全てを知った。
「ほんと、馬鹿だったよ・・・あの時笑って済ませば・・・」
そう、考えてみれば、当時学校のアイドルの玲奈からの告白なんて、俺にはありえない事。大して会話なんかしていなかったのに。
「澪亜・・・」
「恨む気持ちなんか、とっくに無いよ。今は、そこまでみんなを追い詰めていた事を、後悔してる」
頭を下げた金子に対し、今は申し訳なさだけが残っていた。
「さっ、飲もう!せっかくの同窓会だ。辛気臭い面すんなよ!!」
「・・・お、おお!!」
町の人間は、酒に強い。飲めば飲む程、陽気になる。せっかくの同窓会なんだ、今夜はそんな過去など忘れ、大いに盛り上がろう・・・。