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嘘の代償  作者: 矢枝真稀
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再会と、ごめんなさい

九曜美月視点です!

約、十年ぶりか・・・・。車を走らせながら、少しだけ物思いに耽ってみる。さすがに運転中なので、あまりそっちにばかり意識を集中させる訳にもいかず、視線は常に、前方に。



「フフッ・・・」



両親と離れ、生きてきた人生の半分近く、私は叔父の元で生活をしてきたのだ。顔なんて、ほとんど覚えてない。そんな私が、澪亜から勇気を貰い、今こうして、両親に会いに車を走らせている・・・。こんな事をしてる自分に苦笑い、思わず車中に声が漏れた。






◇◇◇◇◇◇






車を走らせ、目的地へと急ぐ。顔を合わせるのは、実家ではなく、兄の眠る霊園・・・



「すみません、これを一本下さい!」



兄の好きだった白い薔薇を一本、墓参りの際にいつも寄る花屋で購入し、助手席に花を乗せて車を再び走らせた。










約半年ぶりのこの場所・・・桜は完全に青々としたはを繁らせている。

緑豊かなこの霊園・・・目的地まで足を進め、兄の眠る墓まで後少し・・・と、先客が二人、兄のお墓の前で手を合わせている。



「・・・お父さん?お母さん?」



顔など当の昔に忘れた筈なのに、ふと体に電流が走ったような強い衝撃と感情が、私の口を動かしていた・・・。



「・・・美月!?」

「美月・・・なの!?」



私の存在に気付いた二人は、ハッと顔を上げ、恐る恐る口を開いた。


感情は昂ってるのに、身体は硬直したまま、動かない。まるで金縛りに遭っているように・・・



「・・・長い間、ご心配をかけました」



涙を堪え、口をついて出た言葉は、あまりにも単純で、当たり前の言葉。



「美月っ!」

「美月っ!!・・・あっ!?」

「母さん!!」



立ち上がった瞬間によろめいた母、身体は思考よりも先に動き出し、母の身体を支えていた。



「美月・・・ごめんね、ごめんね・・・」

「母さん!父さん!!」

「すまなかった、美月・・・」



近くで見る父と母の顔には幾重にも皺があった。あまりにも長い間、私は父親・母親に会う事を躊躇っていたのだ・・・。



「ごめんなさい!ごめんなさい!!ご・・・めん」


堪えていた涙は一気に溢れ出し、私は十年ぶりに、父と母を抱きしめた。

やつれた両親の髪には白髪が目立って、あらためて苦労をかけた事を感じ、申し訳なさが心に浮かんだ。






◇◇◇◇◇






あらためて、兄の眠る墓前に花を備えて手を合わせた。右に母、左に父・・・間に挟まれた私は、なんとも言えない気分に包まれている。

この十年、一度も顔を合わせていない両親が、私の隣に並んでいる・・・何を話せばいいのか、あまりにも近くて、言葉が見つからない不安と、こんなにも長い間離れて暮らしていたのに、並んで墓前に手を合わせる両親の、目に見えぬ温かさと優しさ・・・



「兄さん、ただいま・・・今私は・・・幸せです!」


素直な言葉を兄へ手向ける・・・私が今、感じる全てを。



「兄さん、安らかに眠って下さい・・・私はもう、大丈夫です!!心配かけて、ごめんね・・・」



もう一度、墓前に頭を下げた・・・。涙目のままじゃカッコ悪くて、私は涙を拭い、芯からの笑顔を・・・精一杯の笑顔を、敬愛する兄へ向けた。



「また来ます・・・」



振り返らず、ただ一点を見据え、私は両親の肩を組み、歩き出した。






















積もる話は、沢山ある。もちろん、十年という長い歳月を埋める事は、大切な事だと分かっている。



















でも、今は・・・





























私に勇気をくれた、愛しいあいつの話をしよう。



















デートのあの夜、帰って行った澪亜の声が聞きたくて、通話ボタンに手をかけた。少し時間を下さいと言った澪亜に耳を貸し、私は電話を待った。少しの時間がとても長く感じ、何度も通話ボタンに手をかけようとした。けど、澪亜の言葉を信じ、待った。

不意に携帯がなり、外へ出て来て欲しいと一言告げて、澪亜は一方的に通話を絶った。



「どういう事だ?」



思考は彼の言葉を理解出来ていない・・・訳がわからず、私はとりあえず外に出た。



「澪・・・亜?」



そう、アパートの前に、彼はいた。息を切らし、私の姿を確認して、手を振る・・・。



「どうして・・・?」

「言ったでしょう?俺は美月さんの支えになりたい・・・力になりたい・・・って」

「それ・・・だけの、為に・・・?」



一歩・・・また一歩・・・私は澪亜に近付く。

・・・やがてその距離は1メートルまで縮まった時、彼の長い両手は、私を抱きしめた。



「れ・・・い・・?」

「大丈夫・・・大丈夫・・・」



大丈夫・・・そう何度も私の耳元で囁きながら、私をずっと、抱きしめてくれていた・・・。

小さな子供をあやすように・・・。






















こんなにも強く、私の心を掻き乱す、愛しき後輩・・・いや、愛する一人の男の話を・・・

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