来たる夏、いざ故郷へ
タイトルには故郷とありますが、まだ故郷へ行く前のお話。回想シーンが、ストーリーのメインになってます。
あれからは何事も無く、平穏に毎日は過ぎていった。先輩の態度も、普段と何等、変わり無い。
梅雨は明け、本格的に夏はやって来た。茹だる暑さと闘いながら、考査に勤しんだ日々も、終わりはあっという間・・・季節的に、バイトはアイスコーヒーなんかがメインになって、冷たい飲み物やパフェが、毎日飛ぶように売れていく。
「それじゃ、お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした!」
「おう、お疲れさん!」
明日からバイト先はお盆休みに入る。これは毎年の事らしく、営業再開は一週間後だ。
「しっかし、夜になっても暑いな・・・」
「ですね、店の中がクーラー効いてたから、尚更・・・」
じわじわと照り付ける太陽はすっかり沈んでしまったというのに、まだこんなにも暑いのか・・・
「それはそうと、明日帰るんですよね、美月さんも・・・」
「・・・あぁ、お前もだろう?」
明日、美月さんは約十年ぶりに実家ヘ里帰り。俺も、成人祝いを兼ねた同窓会ヘ出席する為に、故郷ヘ。
「まだ、不安ですか?」
「う・・・ん、まぁな」
歯切れの悪い返事を返す美月さんだが、思ったほど不安そうではない。
「美月さんなら、大丈夫です!」
「・・・そ、そうだな!!」
元気を取り戻してくれたのかな?足どりは、思ったよりも軽い。
「ほら、まただ・・・」
「何がですか?」
「澪亜のおかげで、また元気が出てきた!!」
足どりは軽やかに、そう言ってのける美月さん。外灯の下、まるで踊るように跳ねるその姿は、まるでバレリーナ。
「俺も、美月さんのおかげでこんなに元気になれたんですよ」
「フフッ、感謝しろよ」
ちょっぴりおどける美月さんに、自然と笑みが零れる。
「感謝してますよ、ありがとう!美月さん!!」
「・・・なんか面と向かって言われると、かなり恥ずかしいな」
「実は、俺も・・・・・・フフッ」
「クックック・・・」
二人して、笑いあった。他愛のない会話をしながら、美月さんをアパートの入り口まで送り、俺も帰路に着く。
適当に夕飯を食べて、風呂ヘ。寝る前に、明日の準備をする。一応は同窓会という事らしいが、成人祝いも含めて・・・何て事を慎吾が言ってたので、スーツも用意しておいた。
♪〜♪〜♪〜
「ん?」
携帯がなり、新着メール一件と表示。相手は、さっきまで一緒だった美月さんだ。
《えっと、明日実家に帰るんだけど、まだ少しだけ不安なんだ・・・もし、まだ起きてたら、少しだけでいい、声を聞かせてくれないか?》
やっぱり、まだ不安だったのか。美月さんはそういう所、無理をする癖があるみたいだ。
すぐに通話ボタンに手を乗せ、電話を掛けた。
『もしもし!澪亜っ!』
「あ、美月さん。さっきぶりですね」
『・・・すまない、どうしても声が、聞きたかったんだ』
電話ごしに頭を下げる美月さんの姿が浮かんで来て、少し笑ってしまいそうになった。
「まだ不安ですか?」
『・・・うん』
「大丈夫・・・美月さんなら・・・」
『でも・・・』
「じゃあ少しだけ、俺に時間を下さい・・・一度、電話を切ります」
『・・・わかった』
すぐに着替え、俺はアパートを飛び出した。向かう先は、もう決まっている。
再び、電話に手をかける。ほんの数秒で、美月さんは電話に出てくれた。
『もしもし!』
「もしもし、外で待ってます」
それだけ言って、通話を絶った。