表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘の代償  作者: 矢枝真稀
33/45

無計画デート? 〜最後は静かにディナー編〜

ゲームセンターを出た後は、昼食の代わりに昨日行ったオープンカフェKnightで優雅にティータイム。余談ではあるが、昨日貰ったチーズケーキは、家に泊まった時に一箱を胃に処理し、残りの一箱は、朝来た黒崎先輩にあげたそうな。



「で、今日はチョコタルトですか」

「昨日のチーズケーキも美味かったけどな、毎日チーズケーキは飽きるだろう?」

「まぁ、そうですね」



セイロン紅茶を飲みながら、美月さんは無駄に力説する。適度に相槌を打って、シフォンケーキを口に運ぶ俺・・・うん、美味しい!!



「あら、いらっしゃいませ!」



仕事が一段落したのだろうか、オーナーの小島さんが奥から出て声をかけてきた。



「今日は店の定休日なんで、澪亜とデートに来たんですよ」

「あら、まあ!そうなの!!」

「ま、付き合ってはないんですが・・・」



ボソッと呟いた俺に、どす黒いオーラ全開で笑う美月さん・・・・・・純粋に身の危険を感じた瞬間だった。



「昨日頂いたチーズケーキ、とっても美味しかったです!!」

「その一言が、私達にとって最高の褒め言葉、ありがとうね!!」



頭を下げた小島さんは「デートの邪魔しちゃ悪いから」と、早々に厨房の奥に戻って行った。



店を出たのは4時を過ぎた頃で、今度は食後の運動とばかりに、ボーリング場へ。3ゲーム目を終えて、次は本屋。適当に立ち読みなんかをしたり、2階のCDショップで音楽を試聴したり・・・・・・時間が過ぎるのはあっという間、本屋を出た時、空はもう暗くなっていた。



「さーて、最後は夕食でも行こう!!」

「お!良いですね、何を食べるんですか?」

「フフッ、それは着いてのお楽しみだ・・・因みに、食べたい物のリクエストとかはあるか?」

「う〜ん・・・これと言って無いですけど、今日は結構賑やかな所ばかり回ったんで、出来れば静かな所がいいかなぁ」

「任せとけ!」



喜々として、胸を張る美月さんの隣に並び、美月さんオススメの料理店に向かう事にした。






◇◇◇◇◇◇






「さて、ここだ!」

「お、おぉ!・・・なんか、めちゃくちゃ高そうな・・・」



アーケード街から離れ、電車通りのビルの四階に、その店はあった。いかにも高級感溢れる雰囲気、美月さんオススメの店だと言うが、俺の顔は引き攣っているのだろう・・・



「安心しろ、ここのオーナーは沙那の親父さんだ」

「黒崎先輩の?」



しっかし、あの先輩は素性がわかんないな・・・なんて考えながら、店の中に入ってみる。


落ち着いた雰囲気の店内は意外と明るく、広々としたフロア。カウンターはちょっとしたバーになっていて、会社帰りのサラリーマンらしき人が2人、静かにお酒を飲んでいる。



「いらっしゃいませ・・・あら、美月ちゃん!」

「こんばんは、沙代さよさん。予約無いですけど、大丈夫ですか?」

「もちろん、窓側の席でいいかしら?」



沙代さん、と呼ばれた人。物腰良く優しそうな印象だが、誰かに似てるような・・・



「こちらです、すぐにメニューをお持ちしますね」

「すみません、急に来ちゃって!」

「いいのよ、じゃ、ちょっと待っててね」



と一言残し、すぐにカウンターの方へと戻って行く。


「どうした?澪亜」

「いや、あの人誰かに似てるような・・・」

「ん?あぁ・・・まあ沙那のお母さんだしな」



あぁ、道理で・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?


「・・・お姉さんじゃなくて?」

「正真正銘沙那のお母さんだ。私も初対面の時に、全く同じ事を質問したよ」



いや、でも・・・どう見たって二十歳後半ぐらいじゃ・・・いったとしても、三十歳前半ぐらいじゃ・・・・・・



「フフッ、これでも四十は過ぎてるのよ」

「!!!!」



背後からメニューを差し出す沙代さんは、微笑みながら、さらりと言ってのける。



「素敵な彼氏ね、とってもお似合いだわ!」

「残念ながらまだ彼氏じゃ無いです・・・これからゆっくり口説き落とすつもりですけどね」



爆弾発言は美月さんの口から投下!もちろん、俺の鼓膜に直撃。



「あらあら、ごちそうさま!それじゃ、オーダーが決まったら呼んでね」



ニコニコと微笑みながら、他の席のお客に対応する沙代さん。いや、それより・・・



「美月さん、その告白は、本気ですか?それとも冗談?」

「さ〜て、どっちだろう?それより、まずは食べる物を決めよう・・・」



有無を言わせぬ雰囲気を醸しながら、メニューに視線を落とす美月さん。俺は何も言えず、メニューに視線を向けるだけだった。

美月さんはお任せのコースにするというので、俺も同じコースを頼む事に。


この店は創作料理を基本としているらしく、和・洋・中の彩り鮮やかな料理が、次々に登場する。美月さんは「美味しい!」を連発してるが、俺はさっき美月さんが言った言葉が頭の中をぐるぐると回り、味わう余裕がなかった。






◇◇◇◇◇◇






「あ〜美味しかった!」

「・・・ですね」



満足気な美月さんに、空返事な相槌しか打てない。食べ終えた料理の皿は既にテーブルには無く、赤ワインが注がれたグラスが、照明を受けて妖しく光っている。



「・・・さ〜て、そろそろ出るか?」

「そうですね、いくらでしたっけ?」

「支払いは私が出すよ」

「いや、いくらなんでもご馳走になるわけには・・・」



そう返すと、美月さんはアルコールで赤く上気した頬を緩ませながら



「これも私の我が儘だ・・・今日だけは、私の我が儘に付き合ってくれるはずだろう?」



と、頑なに俺の出したお金を受け取らなかった。



「ご馳走様でした、美月さん」

「フフッ、良いんだよ。さてと、そろそろ帰ろ・・・う?」

「美月さん!?」



店を出てすぐ、美月さんの足どりがおかしい事に気付いた。どうやらアルコールは、彼女の身体も支配してるようで、かなりフラフラしている。



「フフッ、予想以上に酔いが回っているようだな」

「何を冷静に・・・・・・美月さん、ほら、俺の肩につかまって下さい」

「・・・ありがと、澪亜は優しいなぁ・・・」



肩を貸しながら、覚束ない足どりの美月さんを支え、通りを歩く。



「美月さん、タクシー来ましたよ!ほら、乗って!!」

「う・・・ん」



何故だか嫌そうな美月さんだが、このまま徒歩で帰るとすれば、家に帰りつく頃には日付は変わっているだろう・・・。

その後は会話もなく、ただタクシーの外に視線を流していた。






「ほら、着きましたよ。起きて下さい!」

「うぅ・・・ん」



支払いを済ませ、未だ寝ぼけの美月さんを半ば抱き抱えるようにアパートの部屋まで連れて行く。



「・・・水ぅ」

「はいはい・・・」



ベッドに寝かせ、水を準備して美月さんの元ヘ戻ると、寝ぼけは一先ず治った風な美月さんは、アルコールの抜けきらぬ虚ろな瞳で、俺を見据えていた。



「どうしました?」

「・・・私が言った事は、冗談じゃない・・・あれは私の本心だ」

「先輩?」

「澪亜の側にいるだけで、私はこんなにも、幸せなんだ・・・私は、お前が好きなんだよ、澪亜・・・」



そう言って、美月さんは俺に抱き着いた。優しく、温かく、そして甘い香り・・・・・・力無く肩にまわされた腕は、小さく震えている。



「もちろん、断ってくれても良いんだ・・・だから今は何も言うな・・・」

「・・・・・・」

「少しだけ、このままでいさせてくれ・・・ただ、今はお前の温もりを、少しでも永く、感じていたいんだ・・・」



肩にまわされた手に、少しだけ力が篭る・・・震えは少しづつ、少しづつ、小さくなっていき、そして、失くなっていく・・・
























どれくらい、時間は経っただろうか・・・美月さんは力を緩ませ、俺から離れた。



「・・・ありがとう、私の我が儘に付き合ってくれて・・・」

「先輩・・・」

「返事は、今は聞きたくない・・・」



そう呟いて、美月さんは持って来た水を一気に飲み干した。



「・・・盆に、両親に会いに行くつもりだ」

「ご両親に?」

「私を勇気づけてくれた、お節介な・・・そして、愛しいお前のおかげで、決心したんだ」

「・・・美月さん」

「返事は、私が両親に会ってから、聞きたい・・・もちろん、私の気持ちを押し付けるつもりは無い。ただ、一つだけ・・・お前の事が好きな人間が、ここに居るという事を知って欲しかったんだ・・・」



虚ろだった瞳は、真剣に俺を捉らえている・・・。決意と、少しの不安を帯びて・・・・・・



「先輩・・・いや、美月さん。返事は、美月さんが笑顔で帰ってきてくれたその時に、言います」

「うん・・・待ってる」



























本当は、今すぐにでも抱きしめたかった。それを留まらせたのは、一つの想い・・・俺の事を愛しく想ってくれる、大切な人の真摯な態度。





















返事はもう、決まっている。今はただ、美月さんが笑顔で帰って来るその時まで、この胸に想いを、秘めておこう・・・

物語はようやく終盤に差し掛かりました。次話は、一気に真夏!澪亜は同窓会の為、故郷の田舎町ヘ、美月は約十年ぶりに、両親の実家ヘ。

そして、澪亜の初恋の相手も登場予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ