夜明け
目を覚ますと、隣には先輩・・・。そういえば、昨日泣きじゃくる先輩を宥めながら、いつの間にか、眠ってしまったっけ。
隣で眠る先輩は、年上なのに、どこか無邪気な寝顔をしている。
はっきり言って、可愛い・・・!
「ん、むぅ〜・・・」
「・・・おはようございます、先輩」
「〜〜・・・おはよ」
寝ぼけ眼を擦りながら、先輩は大きくあくびをした。
「コーヒーでも、飲みませんか?」
「・・・うん・・・」
意識が覚醒しきれてないせいか、虚ろな眼から、潤む涙。
立ち上がって、コーヒーの準備。ま、インスタントではあるが・・・
「先輩は、クリーム使いますか?」
「ん〜・・・いや、ブラックがいい」
どうやら意識は覚醒したようだ。口調は、いつも通りに戻ってる。
「インスタントですけど・・・」
「ありがと・・・」
カップを渡し、今度は自分の分を作る。あ、そういえば・・・
「・・・あ、あった!」
冷蔵庫には、先日近くのスーパーで買った、特売品の生クリーム。
「・・・何をしてるんだ?」
「いや、せっかくだからインスタントのコーヒーを、少しグレードアップさせようかなぁと思って!」
冷蔵庫の前でガサガサと騒がしくしていた俺を不思議に思った先輩は、不思議そうに台所を覗き込んだ。
「グレードアップ?」
「特売の時に買った生クリームがあるから、ウィンナ・コーヒーでも作ろうかなぁって思って」
「あ〜、あのコーヒーの上に生クリームが乗った奴か!いいな、やろう!!」
ボウルに泡立て器、生クリームと砂糖を準備して、いざ円卓ヘ。しゃかしゃかと生クリームに空気を含ませる。
「まだかなぁ〜?」
「もう少しですからね」
まるで小さい子が、母親に物をねだるみたいな、そんな印象。
ボウルを氷の入った大きめの器で冷やしていたので、案外早く、ホイップは完了。後は砂糖で適度な味付け・・・・・・は、先輩にやってもらう事にした。
「ん、OK!!」
OKサインが出たところで、予め用意しておいたスプーンで、クリームを掬い、コーヒーの中へ。
コーヒーの熱で、ゆっくりと溶けるクリームをしばし鑑賞した後は、いよいよ試飲・・・ん、美味しい!
「ん〜・・・美味い!」
ご機嫌のようだ。
「さて、と。せっかくだから、早めの朝食にしましょうか!」
「ん、なら、私が作ろう!!」
「・・・先輩、料理出来るんですか?」
「失礼なっ!!これでも自炊くらい出来るわっ!」
頬を膨らませ、ちょっぴり拗ねた先輩は、台所でガサガサと朝食の準備を始める。ってか、拗ねた先輩って以外と可愛い。何時もは大人のお姉さんって感じだが、最近の先輩は、どちらかといえば年下っぽいイメージだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
なかなか、先輩の手料理は美味しかった。スクランブルエッグとカリカリに焼いたベーコン、トースト。・・・あれ、ただ焼いただけじゃない?
「ごちそうさまでした。美味しかったですよ!」
「だろ!!」
さすがに食器を洗ってもらうのは気が引けたので、ここは大人しく先輩を円卓の前に座らせ、自分で洗う。
「さて、あと2時間くらいで学校ですよ。どうします?」
「・・・サボる」
「サボるったって・・・まあ、俺は別に出席日数とかは全然大丈夫ですけど」
「とりあえず、一度アパートに帰って着替えたい」
そう、完全に忘れてた事だが、先輩は俺の部屋に泊まった事になるのだ。まだお互い、昨日の服のまま・・・。
「なら、家まで送りますよ」
「・・・うん、よろしくな!!」
にっこりと笑顔になる先輩・・・不意に、ドキッと胸が高鳴った。
◇◇◇◇◇
「わざわざすまないな」
「いえ、それじゃ・・・・・・」
「あ、ま、待て!」
踵を返した俺を呼び止めた先輩は、少し焦りの色が見える。
「どうかしました?」
「いや、な・・・お前、今日は大学をサボれ!」
「・・・はい?」
「昼過ぎに、どこかヘ行こう!」
突拍子のない事を言う先輩は、なぜか俺から目を逸らしている。
「いや、まぁいいですけど・・・」
「決まりだっ!!それじゃ!!」
慌てて部屋に入って行く先輩に、俺は疑問しか浮かばなかった。