表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘の代償  作者: 矢枝真稀
25/45

拗ねる彼女に〇〇を

「先輩〜・・・」

「・・・・・・」



カラオケも終わり、一同は店の前で解散した。帰路に着くべく歩を進める先輩の機嫌は・・・・・・悪い。


「ねっ、アイス奢りますから!」

「・・・チーズケーキがいい」

「了解!オススメってあります?」

「Knightのレアチーズ・・・」



Knightね・・・街にあるオープンスタイルのカフェだが、雨は大丈夫か?



「それじゃ、行きますか!」

「・・・うんっ!」



機嫌は直ったな。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





徒歩5分、カフェレストラン《Knight》に到着。雨のせいか、お客さんは少ないようだ。



カランコローン・・・



「いらっしゃいませ!2名様でよろしいですか?」



営業スマイル全開で迎えてくれた女性店員に、若干引き気味の俺だが、隣の女性・・・もちろん美月さんだが、彼女はショーケースを見つめながら「レアチーズ!レアチーズ!」と小さく連呼していた。

店員に薦められるままに窓側の席に着いた俺達。先輩は既に注文が決まっていたようで、早々に呼び出しボタンを押していた。


俺、まだ注文決まってないのに・・・。



「お待たせしました〜!ご注文はお決まりですか〜?」

「私はレアチーズケーキの、ラズベリーソースで!飲み物はアールグレイを一つ!澪亜は?」

「そうですね・・・俺はNYチーズケーキ。飲み物はブラックを一つ」

「畏まりました!ご注文を繰り返します・・・」



マニュアル通りに注文を繰り返し、店員は奥へ引っ込んだ。ケーキが来るまでの間、先輩はしきりにメニューに載ったケーキの写真に目を通し、俺は窓の外を眺めた・・・


色とりどりの、傘の群れ。強い雨足にぼんやり浮かんでいる・・・。


それから数分で、飲み物とケーキがテーブルに並ぶ。


「御馳走になります!」

「いただきます・・・」



手を合わせて、頂きます!のポーズをした先輩は、フォークで一口大に切り取ったレアチーズをしばし見つめ、口に運ぶ。目をつぶり、味の余韻に浸る先輩は、ゆっくりと口を動かし、喉奥へ。そこで紅茶を一口・・・



「・・・美味い!」



先輩の、思わず口をついて出た言葉に、奥にいた店員さんは目を細め、嬉しそうに頭を下げた。



「じゃあ俺も・・・」



先輩の反応を見て、俺もケーキに手を付ける。

・・・うん、美味しい!じゃあコーヒーを・・・



「美味しい!けど・・・あれ?」

「どうした?」

「このコーヒー、マスターの味と同じ・・・」



そう、同じなのだ。マスターのコーヒーと。



「あなたたち、健二さんのお知り合い?」

「「え?」」



背後からの声に振り返った俺達の前に、綺麗な女の人がいた。パティシエの格好をしてる辺り、このお店の責任者の方だろう。



「健二は、私の叔父ですが」

「あら、そう!・・・あ、私は健二さんの弟子っていうかな・・・この店のオーナーで、小島っていうの、よろしくね!!」



やわらなか笑顔。にこやかに頭を下げた小島さん。



「ホントに美味しいです!!」

「ありがとう!最高の誉め言葉だわ」

「いや、ホントに美味しいです!」

「ふふっ・・・でも、びっくりしたわ。まさかコーヒーを飲んだだけで、健二さんの味だって言われたのは・・・」



笑いながら、小島さんは目を細めた。



「健二さんは、元気?」

「あれが元気じゃない日は無いです」



マスターをあれ呼ばわりできるのは、先輩くらいだろうな。小島さんは笑ってるし・・・



「そう・・・今日はデート?」

「そんなところです」

「・・・です」



ま、否定はしなかった。



「あら、それじゃ邪魔者は退散するわ。今日はお客さんも少ないし、後でケーキを持って来させるわ!勿論、私のサービスでね!」



「ゆっくりしていってね」と言葉を添えて、小島さんは厨房に戻って行った。



「ケーキがおかわり・・・ジュル」

「よかったですね」



既に食べ終えた先輩・・・当然、皿には何も無い。




じぃ〜〜〜〜〜〜〜



「・・・・・・」



じぃ〜〜〜〜〜〜〜



「・・・」



じぃ〜〜〜〜〜〜〜



「・・・食べます?」

「いいのかっ?」



そんな熱い眼差しで見つめられたら・・・ねぇ・・・・・



「ホントに美味しそうに食べますね」

「ま、私の1番の好物だからな!」



結局、チーズケーキは一口しか食べられなかった・・・・・・ぐすん。

互いにカップに残ったコーヒー・紅茶を飲み干し、席を立つ。レジに足を向けたら、ちょうど小島さんが厨房から出てくる所で、レジに立つ店員さんに耳打ちをして、店員さんの変わりに、小島さんがレジに立つ。


「ちょ〜っと、待っててねぇ!!」

「はぁ・・・」



何があるんだろう?と待ってると、店員さんは先輩を呼んで、ショーケースから次々とケーキを箱に詰めていた。



「私の奢りだから、気にしないで!さっきの注文分も、サービスするわ!!」

「あ、でも、自分達が注文した分は払います!」

「いいのよ気にしないで!健二さんの所のバイトの子なら、私の弟・妹弟子みたいなものだし、ね!」

「・・・ありがとうございます!!それじゃ、今日は甘えさせてもらいます」



ご厚意に甘え、俺は頭を下げる。先輩はあれこれ選び、結局二箱もケーキを貰っていた。






⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒






あまり長居はしていなかったのだが、雨の影響もあり、既に辺りは薄暗い。



「なぁ、澪亜」

「はい?」



ケーキの箱を紙袋に入れた先輩は、足を止めて俺を呼び止める。



「前に行ったよな。いつでも力になるって・・・」

「えぇ」

「今日、お前のアパートに寄ってもいいか?聞いて欲しい事があるんだ・・・・・・」

「もちろん!」

「・・・ありがと」

「・・・荷物、持ちますよ」



紙袋を受け取り、先輩と並んで歩く・・・



















互いに、無言・・・傘から覗く先輩の顔は、何かを決意してる様だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ