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嘘の代償  作者: 矢枝真稀
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過ぎ行く日々 後編

先輩の過去を知ったのだが、俺は何を言うでも無く、時間は過ぎていく。用事を終えて帰って来た先輩も、何事もなかったように仕事をこなす。

気付けばもう、春休みは終わりを迎えようとしていた。



「お疲れ、明日から大学が始まるんだろ?」



今日はゆっくり休め、とマスターの好意に甘え、俺と先輩は、先に帰る事になった。



「明日から、また講義だなぁ」

「そうですね」



他愛ない会話ばかりが口から出て、肝心な言葉は喉の奥で燻ったまま・・・



「それじゃ、お疲れ!気をつけて帰れよ」



気付けばもう、先輩のアパートの前・・・



「先輩っ!!」

「ん、どうした?」

「・・・・・・いや、なんでも無いです」

「変な奴だなぁ」



苦笑混じりに、先輩は部屋に繋がる階段を登る・・・。



「先輩っ!!」

「どうしたんだ?さっきから変だぞ」

「・・・もし、俺に出来る事があったら、いつでも先輩の力になります!俺は、先輩を支えたいから・・・」



ホントは、違う事を言いたかった・・・。訝し気な顔をした先輩だったが、すぐに何時もの表情に戻った先輩は、俺に小さく手を振った。



「ありがとう、澪亜・・・おやすみ!!」

「おやすみなさい」



先輩が部屋に入るまで、俺はその場に立ち尽くしていた。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





休みは明けた。講義にバイト、毎日が多忙であり、目まぐるしく時間は過ぎていく。時間に追われる内に、先輩の過去の事など、頭の片隅に追いやられ、忘れていた。



「海棠、飯行こうぜっ!!」

「いいけど・・・」



午前中の講義も終わり、教室を出た俺に声をかけて来たのは、田尻の連れで仲良くなった同期生の仲根柾季なかね・まさき。見た目は茶髪に吊り上がった眼。端から見れば、ヤンキーと勘違いされそうな風貌だが、性格は温和で真面目な奴だ。



「飯奢ってやるよ」

「いや、それはいいけど・・・目的は何だ?」

「うぇっ!?あ、いや、その・・・」



そして、隠し事が下手な奴でもある。



「村瀬先輩か?」

「な、なんでっ!?」



白い肌は一瞬で真っ赤に。まるで茹でダコ状態。因みに村瀬先輩とは、美月先輩の同期生であり、本名は村瀬穂乃果むらせ・ほのか。俺も美月先輩を通じて知り合ったばかりで、俺・美月先輩・村瀬先輩・田尻と、もう一人、黒崎先輩という美月先輩の友人の五人でよく昼食を済ませている。昨日は田尻が教授から呼び出しを受けていたので、ちょうど購買に来ていた仲根を誘い、一緒に飯を食べたのだが・・・



「お前に隠し事は無理だな!」

「そんなにわかりやすいか?」



仲根自身、自覚症状はあるみたいだな。しかし、昨日の一件で、仲根が村瀬先輩に気がある事は、明白である。



「よかったな、村瀬先輩が鈍感で」



これは美月先輩に聞いた話だが、村瀬先輩は非常に鈍感らしく、前に同期生に



「付き合って欲しい!」



と言われた村瀬先輩は



「いいよ、どこに行くの?」



と、返したそうな。それくらい鈍感な村瀬先輩だから、顔を真っ赤にして、一生懸命村瀬先輩に話しかけていた仲根に対し、全く意識無く話していた村瀬先輩が、本当に鈍感だと言う事を実感したばかりである。当然、気付いていないだろう。



「で、今日は屋上だ。とりあえずパンでも買って行こうか」

「あ、あぁ」



昼休みは限りがある。購買で適当にパンと飲み物を買って、俺は仲根を連れて屋上に足を運んだ。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





階段を登り、屋上に到着すれば、まるで遠足にでも来たかのように、ピクニックシートを敷いて弁当やおにぎりを食べる先輩達。案の定、村瀬先輩もいる。



「あり?遅かったねっ!お先してるよ!!」



おにぎりを啄むように食べながら、先輩は俺達を手招いた。



「澪亜、こっち空いてるぞ!!」



と、美月先輩は自分の隣を叩く。今気付いた事だが、ある程度のメンバー(何時もの五人)が揃った時、大体座る場所が決まってるみたいで、黒崎先輩の隣に田尻・美月先輩の隣に俺・・・といった形になる。今回は仲根も加わって六人。空いた場所は、必然的に村瀬先輩の横、という事になる。何時ものように俺は美月先輩の横に座り、仲根は緊張気味に村瀬先輩の横に座った。



楽しい時間は速く過ぎる。気付けばもう、始業開始の10分前。片付けを済ませ、俺と田尻は講義室ヘ。仲根は・・・どうやら村瀬先輩と話している最中なので、気を利かせて先に講義室へと向かった。

遅れて講義室へと入って来た仲根の表情が緩んでいるところを見る限り、何か良い事があったと推測される・・・・・・主に村瀬先輩絡みで。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





時は日々、過ぎて行く・・・。ふと気が付けば、梅雨を迎えていた。ほとんど毎日、雨は降る。俺と先輩はあまり代わった事も無く、ただ毎日を過ごしていた。


















頭に浮かぶ、先輩の過去・・・今はただ、待っている最中だ。先輩が俺を、必要としてくれる時を・・・。

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