九曜美月
五年という歳月は、身体の成長と共に、俺の心を癒していった。
友達も、出来た。ただし、本音を晒けだす程はないけれど・・・・。
「お待たせしました!!」
大学進学から二年目の春、休みの間だけ、俺は先輩に紹介してもらった喫茶店でバイトをしている。
「大分、慣れたみたいだな」
「先輩の教え方がいいからですよ」
俺と同じく、ウェイターの姿で裏方に入る女性は、九曜美月といって、バイトを紹介してくれた一つ上の先輩である。女性でありながら俺と同じくウェイターの格好をしているのは、175センチという高身長と男っぽい口調、そして本人の
「あんなフリフリ、私には似合わない」
の一言で、ウェイターの姿をしているのだという。
「しかし、お前は大分変わったな」
「そうですか?」
「お前自身は気付いていないかも知れないが、お前を取り巻く空気が柔らかくなった」
初めて会った時は、取り巻く空気が尖っていたからなと付け加えて、先輩は再び表へと戻って行く。
確かに、先輩と出会った時の俺は、寄るな・関わるなと同級生や先輩達を遠ざけていた。
人に関わる事が、自分を取り巻く抱く嫌悪感を増幅させる。あの日以来、友達だと思っていた友人の仕草や口調に、違和感を覚えた。全てを疑い、避け、俺は独り・・・・。それは進学後も続いていた。先輩と出会ったのは、大学進学から、半年が経った頃だった。
「いい場所だな」
人の気配を感じない、誰も知らない秘密の場所・・・・とは大袈裟かもしれないが、俺は昼食を食べたり講義をサボる時は、決まって講義室の屋上へと向かう。そこには一本の楠の巨木があり、屋上の手すりに向かって、太い枝を茂らせていた。その枝につかまり、楠の中心へ上れば、人が二人ほど座れる位の天然のベンチ。今日も昼食を済ませ、午後の講義をサボる為にその楠に上り、ベンチがわりになっている幹から、太い枝を伸ばす方向へと足を伸ばして惰眠を貪っている最中だったのだが、誰かが不意に声をかけて来た。
咄嗟に起き上がって屋上へ目を向けると、見覚えのない、女性の姿・・・・。
それが先輩、九曜美月だった。