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嘘の代償  作者: 矢枝真稀
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潮騒

九曜美月の視点です。

静波さんの厚意に甘え、この町で二日目の夜を迎えた私は、澪亜の部屋のベッドを占拠しており、当の本人は、床に敷かれた客用の布団ですやすやと眠っている。



「お前は、大丈夫だ・・・」



もう、お前の心の闇は消えたんだよ・・・。そう囁きながら、眠る彼の髪にそっと触れる。くすぐったいのか、澪亜は枕に顔を埋め、また小さな寝息を漏らした。



「帰る家があるのは、とてもいい事だ。それを忘れては、いけない・・・」



投げかけた言葉は、澪亜の耳に届いただろうか・・・いや、その意味を知るのは、彼じゃない。それは・・・



「フフッ、自分で自分を説教・・・か」



我ながら、滑稽な事だ・・・。彼に投げかけた言葉に反応したのは、私自身。







⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒






未だ小さな寝息を立てて眠る澪亜を起こさないように、そっとベッドから立ち上がり、窓辺に近付く。煌々と輝く夜空を見上げ、耳を澄ませば、波の音・・・



「ここに来て、よかった・・・」



独り言は宙に舞って消えた。

澪亜に頼られ、日々その表情が変化し、豊かになっていく彼の姿に喜びを覚え、いつの間にか、一緒にいる事が当たり前のように感じる今、必要としているのは、彼ではなく、私の方かもしれない・・・。



「友達・・・か」



澪亜は、私を先輩ではなく友達と呼んでくれる。私も、澪亜を後輩ではなく友達と呼んでいる。


しかし私自身、本当は澪亜をどう思っているのだろう・・・。たしかに私は、澪亜を後輩ではなく友達だと思っているが、ただそれだけじゃない。なんというか・・・友達以上に思っているみたいな・・・。澪亜のそばにいると、心が温かくなる。退屈な講義の後や、ちょっと気分的に浮かない時でも、澪亜の顔を見れば、そんなモヤモヤはいつも消えていた。


しかし、それが『好き』とは限らない。澪亜に対する気持ちは、『Love』か『Like』か、今の自分にはわからないが、どちらにしても、澪亜の事が『好き』だという事に変わりはないのだろう。


「・・・ん〜・・・どうしたんですか、先輩」



寝ぼけ眼を擦りながらあくびをする澪亜の髪の毛は、一部がピョコっと跳ねている。



「フフッ、明日には向こうに帰らなければいけないだろう?少し名残を惜しんでるんだ」

「ん〜・・・よくわかんないですけど、先輩がこの町を好きになってくれたのか、なぁ・・・・・・?」

「おやおや・・・フフッ・・・」



最後まで言葉にして、澪亜はまた意識を夢の中へ戻す。その姿は、つい二ヶ月前に成人した人間とは思えないほど、幼くて、可愛らしい。まるで小さな子供を見守る気分で、ずれた毛布を彼の体にかけ直す。



「さて、私も眠るか・・・」



ベッドに戻り、布団から私の方へ手を伸ばしながら眠る澪亜。何気なく私もベッドから手を伸ばして彼の掌を握る。じんわりと体温が、私の手に伝わる。



(もう少しだけ・・・)



心地よい温もり、澪亜の手を離すのは、少し寂しい。


「・・・!」





















無意識に、澪亜の手が、私の掌を握り返していた。

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