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嘘の代償  作者: 矢枝真稀
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酔いも醒めやらぬ・・・

地元で有名な踊り・・・豊穫ほうかく。豊作を祝い、毎年秋の祭りに町の衆が音楽や手拍子に合わせて輪になって踊り、来年の豊作を願う。踊りは、簡単に例を挙げれば盆踊りを少し派手にしたような感じだ。今現在、手拍子や指笛に合わせて豊穫を踊る慎吾・沙織・我が姉・以下略・・・。完全に宴会と化した漁協の港には、漁から帰って来た者、騒ぎを聞いて集まって来た者を含め、約二百程の町民が参加している。昼食は終わったものの、漁師さんからの差し入れや、おばちゃん連中の炊き出しにより、そのまま二次会に突入。最初こそ、同級生だけの小さな昼食会が、大規模な宴会へと化している。



「澪亜、踊ろう!」

「いや、俺はいいですよ」「まぁまぁ、私は踊り方を知らないから、ご教授願いたい!」

「・・・なら、お手を拝借」

「・・・よろしく、澪亜!!」



先輩の手を引いて、手招きをする豊穫を踊る輪の中へ入る。五年ぶりとはいえ、踊るのは久しぶり。しかしながら、体は覚えているもので、勝手に手は動き、足は自然にリズムを作る。先輩の手を取り、簡単な指導・・・数分もすれば、違和感なく踊る先輩の姿。



「フフッ、これは中々・・・」

「楽しいでしょ!アハッ!!」

「上手いですよ、先輩!!」



どこから持って来たのか、太鼓に鈴。辺りはすっかり暗くなり、ドラム缶に火を起こせば、火を囲み踊る若い衆。酒を交わして喉へと流し、飯を食べてはまた踊る。



「さてと・・・」



日は完全に落ち、辺りはすっかり闇が支配していた。煌々と燃えるドラム缶の火は、生き物の如く天に向かって飛び立とうと昇り上がる。



「さ〜て、豊穫の終いだ。静波さん、準備を!!」

「りょーかい!」

「えっ?姉さんが今年の神楽姫!?」

「神楽姫?なんだそれは」


頭に疑問符を浮かべる先輩、姉はあからさまに俺に向かって不機嫌な顔になる。


「なによ〜、アタシじゃ不満なわけ?これでも満場一致だったのよ!!」

「静ちゃんなら問題ないだろ。美人だし器量はいいし」



確かに、姉は美人の部類に入るだろう。しかし、器量良しだとは・・・みんな騙されてる。



「れ〜い〜・・・」

「・・・なんだろう、物凄く嫌な予感がする」

「で、神楽姫とはなんだ!?」



Nice!先輩!!



「神楽姫っていうのは、この町の成人女性が豊穫の終いに来年の豊漁・豊作を祈願して、神様に捧げる踊りで、その踊りを神楽。その神楽の女頭が、神楽姫って呼ばれて、毎年年の始めに町の投票で選ばれた女性が、今年一年神楽姫を務めるんです」

「えっへへ、じゃあちょっち準備して来るねぇ〜」



機嫌がよくなった姉は、スキップ混じりに漁協の更衣室へ姿を消した。



「よし、澪亜!もうひと踊りするぞ!!」

「ハイハイ」



完全にこの町の人間と化した先輩に手を引かれ、姉達女性陣の着替えが終わるまでの間、町の人間に交じって、火を囲み、踊った。

そして待つこと10分弱、緋・白・黒・金・銀の彩りある衣装に身を包んだ女性陣が、男に代わり、火を囲む。



「あれ、静波さんは?」

「姉もすぐに来ますよ・・・ほら、あれです」



指差す先に、周りの女性陣とは違う刺繍の入った着物を纏う姉。金糸・銀糸が織り込まれた黒地の袖に顔を隠し、腰には朱塗り金細工が施された長太刀。




ドンッ!!!!




太鼓の音に、下を向いていた神楽衆は一斉に顔を上げる。みんな目元を紅く塗り、太鼓に合わせて威勢よく舞を披露する。依然として顔を隠し正面に体を向けたまま動く事のない姉を見て何かを言いたげな先輩。演舞も終わり、ドラム缶の後ろに列ぶ神楽衆。



「姉の出番は、今からですよ」

「うむ、そのようだな」



ドドン!・・・ドン、ドン、ドン・・・



「ハッ!!」



先程までのペースよりも速い太鼓の音に合わせ、顔を上げて太刀を抜く神楽姫(姉)。顔を白く塗り、目元に紅を染め、頬には朱色の線が三本づつ引かれている。激しく踊る神楽姫、先輩は口を開けたまま呆然と見ていた。







→→→→→→







「美月ちゃん、どうだった?アタシの舞」

「すっっっごぃ格好よかったです!!!!」

「ウフッ、ありがと。澪、中々のもんでしょ!?」

「まぁ、ね」



実の姉を素直に褒められるほど、俺の性格は素直だとは思わないが、客観視すれば、見事な演舞だった。



「さてさて、じゃあ着替えて・・・」

「あ、待って静波さん!」「んん、どしたの?」

「写真を是非!!」



先輩がポケットからごそごそと取り出したのは、携帯とデジカメ。



「写真?もち、OK!!」

「じゃあ俺が・・・」

「ん、澪亜も入れ!!」



断ろうと首を振ったのだが、なぜか先輩以上に、姉がそれを許さなかった。渋々姉を真ん中に、左側に俺、右側に先輩という立ち位置で、シャッターが切られた。



「それじゃ、こっちもお願い!!」

「了解です!」



デジカメを渡されて、すっかりカメラマンと化した真田。



「澪亜、もっと静波さんに近寄って!」

「こうか?」



真田の言う通りに姉に近寄ると、何を思ったのか、姉が腕を伸ばして肩を寄せた。驚いたのは、それは俺だけでなく、先輩も同じ事をされていたから。しかし先輩は嫌がる事もなく、楽しそうにしている。



「OK!それじゃ撮るよ!」


密着した状態でフラッシュが焚かれ、撮影は終了した。





かに見えた。








「俺も一枚いいですか?」「あ、私も!」

「俺も!!」



場は、俺と先輩を巻き込んだ撮影会になり、その間に手の空いた人達は片付けを始めている。ようやく開放されたと思った時には、片付けは既に終わっていた。


「よーし、じゃあ最後は全員で撮るぞ!」



と、慎吾の呼びかけで、同級生が集まり、俺を含めた高槻中OBの面々で記念撮影をする事になった。



「美月さんも入って!」

「いや、私は・・・」



遠慮する先輩に声をかけたのは、沙織。



「先輩、一緒に撮りましょう!」

「しかし、いいのか?」

「澪亜の友達は、私達の友達だから・・・って、ちょっとくさかったかな?」

「そうそ、勝手に友達だって思ってますよ、俺達は!!」

「ありがとう!!」



先輩を含めた高槻中OBに、シャッターが切られる。カメラマンは、まだ着替えの終わっていない姉だ。



「うーん・・・もう一枚、いいかな?」



なぜか不満気な姉が、ピントを合わせながら呻く。



「あ!慎吾くんと美月ちゃんの場所、チェーンジ!!」



姉に言われるがまま、先輩と慎吾が場所を代わる。



「んんんっ、オッケー!!」



姉のオッケーサインが出たところで、もう一度シャッターが切られた。















俺の隣に、先輩・・・

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