帰港した先に待っていた事02
テーブルには、マダイ・ヒラメの活き作り、サバの網焼き、カサゴの漁師鍋など、様々な料理が並び、漁協の中での昼食が振る舞われた。
「よっしゃ、今日は澪亜が帰って来てくれた事と、澪亜の可愛い彼女を歓迎して・・・」
「いや、だから彼女じゃないって!!」
「ま、いいじゃないか。細かい事は気にするな」
「先輩がそう言うなら・・・」
「おっし!んじゃ、カンパーイッ!!!」
『カンパーイ!!!』
真田の乾杯の音頭で、みんなが一斉にグラスに口を付ける。・・・オイ、これは日本酒じゃないか!?
「まぁまぁ、堅い事言うなって!」
「そうそ、郷に入れば郷に従えだ!!」
「ってさりげなく場の雰囲気に溶け込んでるし!?」「澪亜は堅いねぇ、そんなんじゃ、美月ちゃんに嫌われちゃうわよ〜」
「姉さんの発言が1番誤解を招きやすいよ!!ったくもう・・・」
と、愚痴を零しながらもしっかり酒を飲んでる俺。酒を飲むのは嫌いじゃない、寧ろ好きなほうだ。
「澪亜、飲んでばかりいないで、ほらアーン!」
「短時間で早くも酔っ払ってる!?いや、自分で食べますから」
「アーン!」
「だから・・・」
「アーン!」
「・・・・・・」
「アーン!」
俺、試されてる!?刺身を箸で掴んだまま、ずっとこちらを見ている先輩の目は完全に据わっている。周りからも「ほら、早く食べてやれよ」だの「ここまでやってるんだぞ」だの「いいな〜・・・ごふぁっ!??」だの。最後の台詞は慎吾だな、沙織にまた殴られてるし。
「アーン!」
「あ、あーん・・・」
「美味しい?」
「・・・美味しいです」
周りからは完全に冷やかしの声が飛び交い、俺の顔は恥ずかしさで真っ赤になっているのだろう・・・体が熱い。照れ隠しのつもりで大下の頭を殴った。
「なんで!??」
「何となく」
「何となくか。なら別に・・・ってオイ!!」
大下、ノリツッコミ上手いな。
「さて、酔いも醒めた所で・・・」
「早っ!!ってか先輩、全部芝居でしょ!!」
「当たり前だ。あれっぽっちで私が酔う訳ないだろう!」
「誤解を招くような芝居は止めて下さい!!!」
「澪亜は堅いなぁ」
誰のせいだよ。
「さてと、私も頂こうかな!」
「・・・じゃ、適当に取って来ますよ」
「ん、すまないな」
先輩から皿を受け取り、適当に刺身や網焼きを皿に盛りつけて先輩の所へと戻る。
「ありがと・・・」
「いえ、さぁ食べて下さい」
勧められるがままに先輩は自分の釣った大ダイに箸をつけ、口に運ぶ。味わうように噛み締めた表情から、味の感想がよくわかる。
「どうですか?」
「最高だ!!」
「自分で釣ってる分、尚更美味しいでしょ?」
「ああ、こんなに美味い魚を食べたのは生まれて初めてだ!!」
とまぁ、多少オーバーな表現だが、箸が止まらない所を見れば、満更嘘じゃない事もわかる。
「そういえば、まだ澪亜の彼女さんの名前を聞いてなかったな」
「だから、彼女じゃ・・・」
「あぁ、そうだった。私は澪亜の友人で、九曜美月です」
さらりと俺の言葉を無視した先輩。なんか、軽く傷つく・・・
「で、九曜さんは本当に澪亜と付き合ってないんですか?」
「ああ、残念ながら本当に付き合ってない。こんな美人が近くにいるのに全然相手にされないから、一時期は同性愛者だと思ってた」「だから、今は付き合うとか全然考えてないし、ホモでもないです!!」
俺の必死の説明にみんながドッと笑う。
「今は、てことは・・・いつかは付き合ってくれるのか?」
「え、なんで話がそっちにいくの!?」
「それとも、私みたいな女は眼中にない・・・と」
ヨヨヨ・・・と泣き真似をする先輩。芝居とは分かっているが、なんかムカつく。
「先輩はとっても魅力的で凄く美人ですよ」
「・・・面と向かって言われると、本気で照れるな」「美人過ぎて、俺なんかとはつりあわないです。友人でも、充分過ぎますよ」
さらりと先輩の言葉をはぐらかす。
「・・・友達で、充分か・・・」
「先輩、今はそんな事より、食べましょう!!」
「・・・あぁ、そうだな!!!」
飲めや歌えや・・・賑やかに、時間は過ぎて行った。