静海の格闘
海人に続き、またも釣りネタ・・・すみません、趣味なんです(苦笑)
本日も晴天なり・・・窓から差し込む朝日を浴びて起床。すでに姉と先輩は起きてるようだが、話し声は他にも聞こえる。とりあえずパジャマから普段着に着替えて居間へ向かうと、姉と先輩の他に、慎吾と沙織の姿があった。
「おはよ〜!」
「おはよ・・・」
まだ完全に頭が覚醒してない俺は、挨拶を返すのがやっと。
「それより、どうしたんだ?」
「ん、せっかくだから釣りにでも行こうと思って誘いに来た」
「釣り?」
慎吾は高校卒業から、親の跡を継ぐために漁師になっていた。昨日聞いた話によれば、船舶免許も持っているとか。
「釣りかぁ、いいな!」
「だろう?」
小さい頃は、慎吾の親父さんにつれられて、よく三人で釣りをしたもので、ブランクはあるものの、それなりに体は覚えているだろう。
「それで、澪亜と美月さんを誘いに来たって所だ」
「あ〜、成る程。美月さんは?」
「うむ、釣りはした事はないがやってみたいとは思っていたんだ」
「じゃあ決まり!!」
道具なんかは全て準備が出来ているらしく、みんなで朝食を済ませ、港に向かう事になった。
「いいな〜。アタシも行きたかったなぁ」
「静波さんは、今日からお仕事でしょ?」
そう、ここである事を思い出した。
「そうだ!確か姉さん、会社が潰れたって・・・」
「ん、でもサオリンのお父さんの紹介で、漁協の事務員として、今日から働く事になってんのよ」
「漁協も事務員が一人辞めちゃって、ちょうど欠員が出たって言ってたから、静波さんを紹介したの」
「そうだったんだ、沙織ありがとう」
「私は別に紹介しただけだから。それより、そろそろ行かない?」
沙織に促され、パパッと準備を済ませた後、俺達四人は船の停泊する漁協前の港へ向かった。
→→→→→→
慎吾を船頭に港を出発。船を走らせ着いた場所は、沖合1キロの波の穏やかな海上。風はほぼ無風状態。
「さーて、んじゃぼちぼち・・・」
「待て、慎吾。何を釣るんだ?」
釣ろうにも何も、竿がない。
「何って、タイだよタイ!!」
「てことは、手繰りか?」「もち!!」
手繰りって言うのは、基本的に一本釣り専門の漁師の釣り方で、竿を使わず釣り糸と鉛と釣だけのシンプルな釣り方で、魚のアタリが直に手に伝わるのだが、その分素人には難しい。
「俺はいいとして、沙織と美月さんは大丈夫か?俺以上に素人だろ?」
「ま、沙織は大丈夫だよ。伊達に漁協組合長の娘だからな」
「私なら教えてもらえば大丈夫だ。心配するな」
とまあ宣うものだから、浅い経験で美月さんに教える事の出来る全てをレクチャーして、釣りは始まった。
仕掛けを海底まで落とし、後は指先で魚のアタリを見極めながら、右へ左へ仕掛けを移動させる。釣り釣に鉛を直結してあるので、アタリはダイレクトに手先に伝わり、後は魚が釣をくわえた頃合いを見計らって、糸を一気に引っ張る。所謂アワセというやつだ。後は糸を切られないように慎重に糸を手繰る。これが一通りの釣り方。なんだが・・・
「チッ・・・また餌取りだな」
「こっちもだ」
小さいアタリはあるものの、一向に魚が釣れる気配がない。時間だけが過ぎていく中、嫌な空気を払拭するような強いアタリが、美月さんの指先に伝わった。