満天の星空の下
大皿に盛られた料理と大量のアルコールもほとんど胃の中へ処理され、夜も9時を過ぎた頃に、歓迎会はお開きになった。
「ごめんな、姉さんが無理矢理飲ませて」
「ううん、すっごい楽しかった!」
「・・・あうぅ、沙織ぃ抱っこ〜!」
「ハァ・・・」
完全に酔い潰れた慎吾は園児化していて、沙織はため息を吐きながらも、慎吾に肩を貸していた。
「それじゃ、アタシ達は帰るね」
「送っていくよ」
「いいって、どうせすぐそこだし」
「そっか」
じゃあね、と慎吾を抱え、沙織は自宅へと帰って行った。見送りを済ませ居間へ戻れば、酔い潰れた女性が二人、飯台に突っ伏して寝息を立てていた。とりあえず押し入れから毛布を取り出し、起こさないようにそっとかける。しばらくはお茶を飲みながらボーッとしていたが、何の気無しに、俺は外に出た。向かった先は家の前の小さな港で、堤防に寝転んで、空を見上げる。
「・・・フゥ」
小さなため息は、見上げた夜空に漏らした感嘆の声・・・バイトの帰りに見た星空よりも、もっと大きく、もっと力強く光り輝いてみえる。手を伸ばせば、届きそうな程に、とても近くにあるような・・・
「ここにいたのか」
真上から顔を覗き込むのは、先程まで規則正しい寝息を立てていた先輩だった。
「先輩、眠ってたんじゃ・・・」
「微かにドアを開ける音がしたからな。それに、毛布をかけてくれただろう!?」
堤防に座り直した俺のとなりに並んで座る先輩は、さっきまでの俺のように、満天の星空に視線を流していた。
「凄く綺麗だ・・・」
「ま、田舎ですからね」
小さな港なので、外灯なんてものは無く、光といえば月の明かりくらいしかない。だから余計に、星空は一層の輝きを放っている。
「なぁ、もう少し近くに寄って良いか?」
「?」
「とりあえず何にも羽織らずに外に出たからな、ちょっと寒いんだ・・・」
「あ、じゃあこれ着て下さい」
自分の羽織っていた茶色いロングコートを先輩にかけようとしたら、先輩は俺の手を引き寄せて、互いの体温を感じる程に体を密着させた。
「ほら、こうすれば温かい」
「温かいったって・・・」「こーんな美人がくっついてるんだ、少しは喜べ!それとも私じゃあ不足かい?」
「不足なんて・・・俺と先輩は友達ですよ、恋人じゃない」
「そうだったな・・・」
それっきり、先輩は何も言わず、星空を眺めたままだった・・・。距離は離れる事もなく、お互いの体温を感じたまま−−−
「澪亜は、恋人を作らないのか?」
「・・・っうぇ!?」
黙っていた先輩は、突然脈絡のない言葉を投げ、意味不明に舌を噛んで変な声を出した俺。
「どうなんだ?」
「どうって言われても・・・今はそんな事、考えてもいないし」
「・・・そうか」
「先輩は、恋人いないんですか?」
「さぁ・・・どうだかね?」
返って来た答えは、なんとも曖昧なもので、頭に?マークを浮かべた俺に、先輩は笑って頭をクシャクシャと掻いた。
「ま、この話はもうおしまい。それより、家に戻らないか?」
「そうですね」
夜風は時間が経つにつれて冷たさを増して、頬を掠めていく。先輩にコートをかけ、俺達は家へと戻り、眠りについた・・・。