帰郷02
九曜美月視点です。
澪亜がどこかヘ行ってしまい、私は彼の姉、静波さんと二人っきりになっていた。気まずい・・・というより、矢継ぎ早の質問に答えるのが、精一杯の状況だ。
「そっかぁ、美月ちゃんは、アタシと二つ違いなんだぁ!!」
「そう、ですね。私も驚きました、澪亜くんにこんな綺麗なお姉さんがいたなんて!!」
「まったまたぁ!本気にしちゃうわよ〜」
物静かな澪亜とは正反対に、底抜けに明るい人だ。気兼ねの無さが、逆に有り難い。
「ホント、びっくりしたわ!弟の友達なんていうから、男の子だと思ってたわぁ」
「すみません」
「あらぁ、謝らなくていいのよ!寧ろ大歓迎だわ!!」
「あの、本当に私と澪亜くんとは友達の関係で、付き合ってるとかそんなんじゃ・・・」
なんか勘違いされているようだったのでさりげなく弁解してみたが、静波さんの顔はニヤニヤしっぱなしである。あれ、ちゃんと説明出来てる!?
「友達・・・ね。充分だわ!今の澪亜には、あなたのような人が必要だから」
「えっ?」
「気付かないうちに、弟は美月ちゃんを慕っていると思うわ。あなたには人を引き付ける何かがあるから」
そう言いながら、静波さんはティーカップに口を付ける。彼女の物腰は、一つ一つが様になる。
「ねぇ、美月ちゃん」
「はい」
「澪亜の事、よろしくね・・・中学卒業して以来、あの子が初めて『友達』と呼べる人に出会ったわ。それが美月ちゃん、あなただから」
「・・・私に出来る事なら、なんでも。それに・・・」
「ん、どうしたの?」
「いえ、別に・・・」
それに、側にいる事を望んでいるのは彼ではなく、私のほうかもしれないのだから・・・
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買い物に行くから一緒に来ない?って誘いをやんわりと断り、私はこの家の正面に見える小さな港に足を向けた。遠くを見渡せば、多数の漁船が左右に移動しながら漁を行っているようで、堤防に腰を下ろし、しばし観察していた。
「のどかだなぁ・・・」
風は暖かくなく、冷たくもない。こんなのどかな場所でゆっくりと時間が過ぎて行くのも悪くないものだ。漁を行っている漁船から視線を浜辺のほうへ向ければ、見覚えのある人影が一つ、見覚えの無い人影が二つ、砂浜から突き出た岩地で何かをしているようだった。しばしの間、その三人は岩地に留まっていたが、立ち上がってこちらに歩きだす・・・徐々に近づく人影は次第にはっきりとした姿になり、案の定、三つの人影の中のひとりは海棠澪亜であり、両隣を歩く人影は、澪亜と歳も変わらないくらいの男女だ。おそらく、彼の地元の友人だろう。
「先輩ーっ!!」
聞いた事の無い大きな声で私を呼ぶ澪亜は、小走りに砂浜を駆ける。つられるように二人も駆け寄って来た。
「っはぁっはぁ・・・」
「わざわざ走って来る事もなかったろう?」
「早く、先輩をこいつらに招待したかったから」
息を整えながらニカッと笑う澪亜に、不意にドキッとした事は、得意分野である私の鉄面皮の中に隠しておいた。今はまだ、彼とは友人のままでいたい。まだ、早過ぎるから−−−−