まぁ。ソレもどうでも良い事なのだけれども
「まぁ。ソレもどうでも良い事なのだけれども…。」
そう前置きをした黒澤聖は言葉を並べた。
「夜も更けてきたわ。そろそろお話は御仕舞にしましょう。もうあたし、疲れたの…。だから最後に一つだけ、貴方の質問に何でも答えてあげる。」
少しの間を開け、黒澤聖は答えた。
岸田が言葉を発する前だった。
「あぁ。ソレはね…。あたしが手に入れられなかったモノを其奴等が持っていたからよ。あたしが子供の眼の前で殺させた…。まぁ。あの人も其奴等が赦せなかったんじゃない?仲睦まじい家族が…。幸せそうな家族が…。」
岸田は、ガクリと崩れ落ちた。黒澤聖の証言が真実なのだと確信してしまったからだ。
最悪は形となり、眼前に存在している。
「それじゃあね。精神科医さん。楽しかったわよ。おやすみなさい。良い夢を…。」
黒澤聖は振り返る事無く、ただ手をヒラヒラとさせて部屋を出ていったのだった。
岸田は、後にこう語った。と云う。
「あの時、私は…。事件にすらなっていなかった二組の夫婦について聞こうとしたんだ。だけど黒澤聖は、その答えを質問の前に返した。ソレが示唆するのは、黒澤聖の証言が真実であると云う事。アレが私が見た夢の中の出来事だったのならと心から願う自分がいるんだ。」




