夢の中から抜け出す。
「話が脱線したわね。あたしは、あの人に夢を見させる事にした。夢なんて、記憶の残骸みたいなモノ。そして、その人物の本質が反映されるモノ。思い出させようとしたわ。あの人の所為で失ってしまった大切なモノ。だから、あの人は夢の中で懸命にパパを助けようとする。首筋に空いた二つの穴から噴き出す血液を止める為に、あの人は強く強く首を締める…。」
黒澤聖は首を締める真似をする。
「手の平に伝わる血液の温もり。ヘマトフィリアになってしまった、あの人にはソレすらも快楽となる。レム睡眠行動障害でもあった、あの人は夢の内容と一致した異常行動を起こした。あたしがプレゼントした指輪を付けて、心の奥深くで憎んでいた娘と近しい年齢の女子中学生を襲った。」
「何故、夫に似た男性ではなく、娘である君に近しい年齢の女子中学生を襲うんだ?夢の中では夫を救う為に首を締めているのだろう?矛盾しているのではないか?」
黒澤は嗤った。
「あの人の、本質がソレだったって事ね。本当に殺したかったのが、あたしってだけよ。でもあの人は、あたしすらも殺せなくなっていた…。あたしが居なくなれば、パパとの唯一の繋がりすらも失うから…。だから憎悪を発散させる為に、若返る為に、血液が見たいが為に、歳が近しい女子中学生を襲った。」
黒澤は指を振る。
「若返れば、あたしが産まれる前の姿に成れれば、パパとやり直せるとか思ってたみたいね。歪んでるのよ。あの人…。」
【ソレは君が、そうさせたのだろう?】
岸田は、その言葉を呑み込む。ソレでは認める事になってしまう。黒澤の言う事が真実である事を…。




