若返り
「浴びていた?」
呆けた声が喉から零れる、
「そう。浴びてた。浴びる程の量では無かったけど。知ってる?吸血鬼のモデルとなった女性バートリ・エルジェーベト。」
黒澤は岸田を覗き込み、あぁ、知らないのね…。とポツリと呟いた。
「アイアン・メイデンと呼ばれた有名な拷問器具を使っていた事で有名なのだけれども…。伝承ではバートリは処女の血を浴びる事で永遠の若さを保つ事が出来ると信じていたらしいわ。ほら、あの人も【老いる事】が厭だったみたいだから…。願いを叶えてあげたんだけど…。やっぱり血液を浴びても若返るなんてないわね。あっ。そういえば…。」
態とらしく間を開ける。
「バートリーについての伝承なのだけれども…。近年の研究では、バートリーを貶める為に流布された話なのではないかと言われてるわね。だとしたらバートリーは実際は良い人だったのかしら?真実なんてそんなモノよね…。創造された物語が真実になる。」
岸田は言葉に惑わされていた。何が真実で何が嘘なのか…。その境界線が消えていく。
「ずっと…。不思議に思ってた事があったわ。【吸血鬼】って聞いた人って、大体ドラキュラを思い浮かべるの。吸血鬼と呼ばれた黒澤鏡花も女性だったのに…。貴方は吸血鬼って単語が出る度に、男性を思い浮かべるんだもの。まるで洗脳されてるみたいよ。」
また少女の様に黒澤はクスリと嗤った。




