血液の行方
「あの人は自分が吸血鬼なのではと勝手に思い込み始めた。陽の光に弱く、血液を嗜好する。あたしはソレを叶えてあげた。だから、あの人に、指輪をプレゼントしたのよ。知っているわよね?あの人がどうやって刺殺したのか。」
そう、黒澤鏡花は、相手の背後から首筋を強く締め付け、右手の人差し指と薬指に嵌める指輪から生えている牙の様な形状のモノで相手の首筋に穴を空け刺殺したのだと云う。
牙の様な形状のモノは金属製で、毒蛇の菅牙と呼ばれる牙に近い構造をしていた。トンネルが縦に入っている形状。そしてソレは刃の様でもあった。ソレが繋がっている指輪も中が空洞になっており、ソコを経由して、特殊なホースへと更に繋がっていた。そのホースは背中に背負う小型のポンプへと接続されていたのだった。
牙の先端のスリットからトンネルを経由し、血液を吸い上げる装置。ソレを黒澤鏡花は身に付けていたのだった。
「首筋にある総頸動脈の位置を、あの人の脳内に記憶させた。ソコから血液はポンプに吸い上げられる。女子中学生。そうねぇ。14歳の平均体重は約48キログラム。血液の量は体重の1/13。大体、3.69キログラムってとこね…。まぁ。完全には吸えないけど、総頸動脈を傷付けるだけでも致命傷だから…。」
黒澤は人差し指で円を描く。
「摂取する水分、体重1キログラムあたり35ml計算で、あの人の体重は51キログラムだったかな…それなら1.785リットルってところね。だから、全ての血液を集められても約2日分ぐらい…。実際には、そうはならなかったなぁ。」
黒澤は岸田へと視線を向けた。その瞳には岸田が映っている。だがどうであろう。黒澤は岸田を、どういった認識で見ているのであろうか。そう云った妄想を抱きながら震えた声で、岸田は問うた。
「聞きたい事がある。」
黒澤は、その問いに、ユックリと瞬きをした。
「遺体に残された血液の量は極端に少なかった。未だに血液の行方は知られていない。その血液は何処へいった?まさか、黒澤鏡花は実際に飲んでいたのか?」
その問いに…。
「半分は飲んで、半分は浴びてたわ。」
と答えた。




